「私、褒めるのが苦手なんです」というマネージャーへの処方箋

マネージャーさんにグループコーチングを行うと「私、褒められないのです」「私、メンバーを褒めるのが苦手なんです」という方が時々おられます。

何故、褒められないのか?を問うと、大体以下のどれかの理由です。

1)自分が褒められて育って来ていないから。どうやって褒めたら良いのかわからない。

2)メンバーに媚を売るようで嫌だから。

3)自分はあまり褒めないと言う美学を持っている。滅多に褒めない自分から褒められたら、その方がずっと嬉しいに違いないから。

4)できて当たり前のレベルでしかないから。褒める値するアウトプットではないから。

一つずつ考えていきましょう。

まず1について

確かに、昔の上司は褒めるより叱ることの方が多かったのかもしれません。部下も叱られた"こんちくしょう"パワーで、頑張る事のできる人が多かったのかもしれません。

しかし、時代は変わりました。一括りに語るのは適切でないと思いますが、今の若者は"打たれ弱い"と言う話はよく聞きます。日本が豊かになって、ハングリーさがなくなったからだという理由も妥当性があると思います。

2について

褒めることが媚を売っている捉えてしまうのは、もしかしたら4と同じなのかもしれません。

本当に褒めるに値するアウトプットがあれば、"本当に褒めたい"、"褒めてあげたい"と思えば、媚を売ると言う感覚にはならないと思いますので。

3について

確かにあまり褒めない上司から褒められたときの喜びは、いつも褒めてくれる上司から褒められるよりも、きっと嬉しいとは思います。しかし、このような美学を持っている上司は、褒める時があるのでしょうか?と考えると、これも4と同じことなのかもしれません。

また別の視点から言えば、この際マネージャーの美学は置いておいていただきたいです。

叶えたい事はメンバーの良い振る舞いや良いアウトプットを適切に褒めることで、メンバーのモチベーションを上げたいということだと思います。

寿司屋で卵焼きを焼けるようになるまでに5年の修行を積まなければならないという時代は終わりました。今や、寿司大学と言う学校で3ヶ月間みっちり学べば、三ツ星レストランの味が出せるという時代なのです。
"俺の背中を見てついてこい"と言う美学を持ち続けていると、シーラカンスや恐竜のように、いつか滅んでしまうこと必須かもしれません。

4について

何を隠そう実は私もこのタイプのマネージャーでした。

私がリクルートでマネージャーをしていた時の話をします。

私はマネージャーになりたての頃、メンバーに"もっと成長してほしい"と言う気持ちが強かったので、例えばメンバーが70点のアウトプットをしてきた時「70点の出来だな。まだ30点足りない。こことこことここをこのように改善すれば、100点に近づけるよ」と、細かな注意や指摘ばかりをするマネージャーでした。

人間のたった2つの行動原理をご存知でしょうか?

それは、

"痛みを避けたい"

または

"喜びを得たい"

の2つです。

重箱の隅をついたような、細かな注意や指摘中心の私のアドバイスは、メンバーには"喜び"ではなく、"痛み"に捉えられてしまったようで、そのうちメンバーが、私のいる時にコールアップ(新規顧客にアポを貰う為に行う電話かけ)をしなくなってしまったのです。

何故ならば、受話器を置くたびに私から、今のトークはこうこうこういうふうに直したほうが良いと注意をされるからです。

私の居るところで、メンバーが新規のコールアップをしなくなってしまったので、私は彼らが本当に何処か他でそれをやっているのか、或いは全くやっていないのかがわからず、途方に暮れてしまいました。そして先輩マネージャーのところへ相談に行きました。

先輩マネージャーから言われたのが以下です。

人間の行動原理は、たったの2つ。

痛みを避けたい。または、喜びを得たい、だ。

石原の前でコールアップをしなくなってしまった。即ち石原が痛みに分類されてしまったということ。痛みに分類されてしまったら、避けられてしまうからな。

石原がなぜ痛みに分類されてしまったのか分かるか?と問われました。

首を傾げていると、先輩マネージャーが言いました。

石原がメンバーをもっと成長させたいと思う気持ちは理解できる。しかし、メンバーにしてみたら、都度"ここを直せ"、"あそこを直せ"と言われ続けているのだよね。それは嫌になるでしょう。そう思わない?

とのこと。

だったらどうすればいいんですか?

私は噛みつきます。

すると、

俺らはメンバーよりも仕事ができるからマネージャーになっている。だから、俺らの方が仕事ができるのは、当たり前だよね。故に、石原から見た時に、メンバーの仕事が60点レベル70点レベルに見えてしまうのは仕方がない。

しかし、"まだ30点足りない、40点足りない"と、足りないところばかりを指摘した結果が、今の石原の状況だ。

石原の基準ではなく、彼らの基準に降りて行って、彼らが"今まではできなかったけれども、今日、できるようになっていたこと""60点だった彼が65点になった。そのプラス5店の変化をきちんと捉え、その部分を具体的に褒めたらいいんじゃないか。"この間まで、こういう言い方をしてたのに、今日はこんな言い方になってたね。いいじゃん。なぜそのようにトークを変えたの?どこでどんな気づきを得てそうなったの?

みたいな感じかな。

このように、問われたらメンバーはどう思うかな?上記のような会話は"痛み"になると思う。それとも"喜び"になると思う?

これが鉄則だよ。
との事でした。

それ以来、私はその先輩マネージャーの教えを忠実に守り、"ここが良くなったね"と具体的に褒めることを繰り返しました。

いつしかメンバーが、私の前でまたコールアップをしてくれるようになっていました。

 


今日のお話はいかがだったでしょうか?

この辺で失礼させていただきます。

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