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映画紹介「悪魔が夜来る」

はじめに

🎦 第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ占領下に対する抵抗と自由への希望を悪魔が登場する御伽噺にすり替えて製作された映画であると言われています。今から80年余り前の映画です。画像も音もレトロです。

原題:Les Visiteurs du Soir(夕刻の訪問者)
1942年のフランス映画 モノクロ 115分


スタッフ

監督:マルセル・カルネ
フランスの映画監督で、脚本家。ジャック・プレヴェールとの共同作品で有名である。代表作とも言える 1945年作のLES ENFANTS DU PARADIS[天井桟敷の人々]は私が最も好きな映画の一つです。 

脚本:ジャック・プレベール
詩人でもあった脚本家

キャスト

ドミニク:アルレッティ
天井桟敷の人々にも出演しています。冷たい美しさが魅力の女優です。

ジル:アラン・キュニー
1956年のフランス映画[ノートルダムのせむし男]原題:Notre-Dame de Parisの凝り固まった聖職者フロロの役で出演しています。

アン:マリー・デア
1950年、ジャン・コクトー作の[オルフェ]でオルフェの妻ユリディスの役で出演しています。

フェルナン・ルドー:ユーグ男爵
悪魔:ジュール・ベリ

ユーグ男爵の城に向うドミニクとジル

ストーリー

十五世紀、中世の騎士道はなやかであったころのフランス。ユーグ男爵家の壮大な城では、姫アンヌと騎士ルノーの婚約披露の宴がたけなわであった。
 
近郷はもとより遠い旅の芸人たちも多勢集められて、様々な余興が席を賑わせている中に、吟遊詩人の兄弟がやって来ました。

然し、実際は兄弟でも吟遊詩人でもない、嘗ては恋人同志であった男女で、悪魔に魂を売り渡し悪魔との契約に従い、ユーグ家の姫アンヌと騎士ルノーの幸福を破壊させ魂を得んが為悪魔から遣わされた手下であった。
 
男はジル、女はドミニクと名乗り、宴の席で披露したジルの唄と歌声はたちまちアンヌの心を捉えました。
 
宴は終り参会者一同が、雅やかなダンスを始めたとき、ドミニックが静かにリュートをひとかき鳴らすと、男装のドミニクの衣装は女装となり、楽士は音楽を、踊る人々はダンスを、ピタリとやめて其のまま石像の如く動かなくなりました。
 
ジルはアンヌに近付き彼女の手を、ドミニクは騎士ルノーの手を、其々に取り庭へと散策に出て、心揺さぶる愛の言葉を囁くとアンヌもルノーも其々の相手に恋心を抱き、婚約のことも忘れてしまったのです。

姫アンヌと騎士ルノー、女装のドミニク

その夜ドミニクは男やもめのユーグ男爵にも近付き、女であることを示して男爵の心にも愛の火をつけてしまいます。
 
暫くするとジルは純粋な愛を彼に向けるアンヌの真心に動かされ、使命を忘れつつ人の本心にもどり彼女を愛してしまいます。
 
アンヌの清らかな心を求める悪魔は怒り、旅の貴族を装うと雷雨の夜、城に乗込みました。高笑いと魔法で皆を煙に巻く貴族姿の悪魔は不気味な様子です。
 
狩の日ルノーはドミニクとユーグ男爵の逢い引きの様子を見ると、激しい嫉妬に駆られ、彼女を巡り二人は決闘をすることになりました。
 
野試合に事よせて真剣で勝負をしたが、悪魔の力添えでユーグ男爵が勝ち、騎士ルノーはあえなく落命してしまいます。
 
ドミニクに夢中になったユーグ男爵は、悪魔の命令で城を去って行くドミニクの後を追い、狂気の如く馬を走らせ何処へともなく行ってしまいます。
 
悪魔との契約を破ったジルは牢に繋がれ、牢番に鞭打たれてもアンヌを愛する心を捨てません。
 
悪魔はアンヌに「ジルを自由にしてやるから、俺の言う事を聞け」と彼女を口説きますが
「その言葉にのるな」と叫ぶジルの痛々しい姿を見ると、誠実なアンヌは恋人をこれ以上苦しませたくないばかりに、悪魔の申し出でを承知してしまいます。

貴族の姿をした悪魔、アンヌ、捕われのジル

解放されたジルは悪魔の計らいで全てを忘れ、アンヌが誰かも分らず城を出て行きます。
 
然しアンヌはそれを見ても彼を愛する心は変わらず、狩の日ジルと初めてキスを交した泉の畔へ「一度だけ行かせてください」と悪魔に頼みます。
 
悪魔は怒りながらも、彼女の願をかなえてやります。
泉には運命に導かれるようにジルも来ていました。
 
アンヌがジルに泉の水を手にすくい飲ませると、彼は愛するアンヌを思い出し二人の愛が復活し抱き合います。

其の二人を見た悪魔は怒り心頭「二人とも石になれ!」と呪いの言葉を放ち石像にしてしまいます。

然し、静寂の中で何か音が聞こえてきます。石像の中からです。

石像になっても愛し合う二人の心臓は一つとなり鼓動を始めたのです。
怒り狂った悪魔は石像を烈しく鞭打つが、石像の心臓は鼓動し続けます。

 まるで、悪魔を嘲るように何時までも.....

石像の鼓動を聞く悪魔


映画の中で唄われるシャンソン
ジルが宴の中で唄う「Démons et Merveilles」(魔性と神秘)は、ぺしゃんこさんが【映画の中の詩】で投稿されて居られます。貼り付けさせて頂きましたので御興味のある方は閲覧されてください。

最後に

今の世の中、善よりも悪が蔓延っているように見えます。いえ、蔓延っていますから政治家たちの殆どはデビルに魂を売り渡し見返りに遣りたい放題の有様。国民の財産は搾取、彼らの益にならない者の命など意に解する事も無く消す事も厭わずニュースで報道されない闇、蓄財に余念がありません。
まるでロード・オブ・ザ・リングのドラゴンの如く金に埋もれて眠っている場面と重なってしまいます。

然し、彼らには愛する心は必要ないのでしょうか。
誠実な愛する心だけは、手に入れたくても手に入らないでしょう。
気が付いた時には虚しさに自滅するしか無いでしょうね。
 
此の映画の悪魔は揺るぎない純粋な魂を望んでいるも愛と言う悪魔が持ち合わせていない手に入り難いもの[混じり気の無い愛]が、結局は手に入らずに消えて行く様が描かれています。
 
上手く御伽噺に託してナチス・ドイツの行いを皮肉ったものです。


最後まで御付き合い頂きまして有り難うございます。