動揺
今朝も大雨。
だけど電車は動いているらしく、学校はいつもどおり。
準備をして、出掛けないと。
当然のように、いつもの椅子に音もなく飛び乗って、
もう1時間ほど眠っている軒下さんのほうを見る。
かわいそうだけど、出さなきゃ、と、丸まっている軒下さんの
背中のほうから手を入れて、抱きかかえようとした。
いつもと同じつもりで。
出掛けようとしていたから、
背中側に押しやった、肩から提げた荷物が前に落ちてこないように、
浅めの角度にしか体をかがめなかった、かもしれない。
だから、いつもよりちょっと雑になった、かもしれない。
その瞬間、
ゴン!
と、大きな音がして、テーブルにぶち当たりながら、猫が弾けるように跳んで走り出した。
え??
軒下さんのふわふわした毛が、ふわあっと、たくさん舞っている。
腕を見ると、手首を横断する、赤い点線のようなひっかき傷が四本……。
地味に痛い。
腹を立てて引っ掻いた、のではなく、不意に襲われて、
びっくりして脱出しようとして爪が出たんだ。
いちおう腕を洗って、消毒をして、
その後、軒下さんを探す。
どこ行ったの?
廊下の向こう、とある予備校生の部屋の、
そのまた向こうの部屋の、開いたドアのところに、
軒下さんはこちらに背中を向けて、
しっぽを床にしょんぼり曲げて、
顔だけ振り返ってわたしを黙って見ている。
「……軒下さん、もう出掛けるけど、外に出ない?」
と声をかけると、ほとんど聞こえないような小さい声で、
「(=^..^=)ミャ~…」
と、答えた。
しばらく待ってみたけど、来ない。
荷物を置いて、近づいて、
最初はちょっとおそるおそる、
それからいつものように撫でてみた。
それから、確保。
縁側に出した。
猫とわたしの小さなけんか。
どっちが悪いか、どこからやり直せばいいかなんて、
遡って考えたって、わたしには分からない。
ただ、生き物を驚かせるようなことをして、いいことって何もない。
蜂でも、猫でも、幼児でも、……大人でも。
学校から帰ってきたら、
軒下さんが、例のお母さん猫を呼ぶ声で叫びながら
山から出てきた。
どうも、椅子の上は安心できなくなったらしく、
玄関マットの上。
もしかして、悪いのはわたしじゃなくて、椅子だと思っている?
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