小川哲『君のゲーム』

友人から面白いよ、といわれて少しだけ違和感があった。
いままで勧められた本に外れはないのだが、「面白い」ってなによ、と。
その語彙、何も表現していない。


目にしたらあまりに薄い。
『地図と拳』の厚さからして、またレンガ本(レンガほどの厚さの本)かと
思っていたものだから、これは1時間コースと思い定めて読む。


面白い。
いやそんな表現はどうかと思うが、この言葉が一番的確だとわかる。
タイトルもこれ以外にないくらいはまっている。
こういう本は(すぐ読める厚さでもあるし)、面白いよ読んでみてよ
というのが一番ふさわしい。


解説するのは本当の野暮だとは思うんだけれど。
でもちょっと書いてみたくなるのも確か。


いわゆる、競技としてのクイズが舞台。
勝つためには知識だけではなく、回答権を得るためのボタンを押す
いわゆる早押しのためのテクニックがいる。
文章の細かい言い回しを分析し、文頭からできるだけ早く
回答の種類を推測する。
他者よりいかに早く回答の選択肢を絞り込むのか、ということが
最も大事らしい。
主人公がクイズ競技に熟練する課程で、
クイズはそれまでの経験と深く結びつく、
それゆえ自己の人生を肯定するものでもあるというクイズ観、
人生観のようなものにたどりつくのも興味深い。


そこにTVのクイズ番組での要素が入り込む。
TVという独特な世界でコンテンツとして成立させるためのテクニック。
出場者に無理矢理わかりやすいキャッチコピーをつける、
たとえば、IQ200の天才、東大トップの秀才など。
いいコメントの部分を選んで編集して放映する。
その手のTV的なやり方の一つ、
回答者が誰もわからず「質問がスルーされてしまう」ことを避けるために
生放送の時にだけ使われる、プロデューサーのあるやり方、
それに気づいた回答者が勝ち抜き戦の中で一人だけいて・・・。


主人公とTVのクイズ番組で決勝戦で対戦し
次の一問でどちらかの優勝が決まる、という瞬間に
相手の回答者が、問題が一語も読み上げられない時に回答し
それが正解となる。
それが不正(一人だけ問題を知らされていた、など)だったのかどうか
あの時、相手の回答者が回答に至るヒントがどこかにあったのかどうか。
それを解明するために主人公は相手について調べ始める。

おおよその真相にたどり着いたあとで
相手の回答者から詳細が語られるのだが、その後の相手の転身は
少々意外なものだった。
主人公は、今回の出来事も相手の存在もきれいに「消去」して
(忘れ去って、まあ覚えているかも知れないが自分の人生には二度とかかわらないものとして消し去る、ということか)
自分がいたクイズの世界に戻っていく。
テクニックを磨き、練習問題を解き、大会に出場する。
それが彼にとっての「クイズ」だから。


ああ、やっぱりつまらない。
面白かったから読んでみてよ、というのに比べて
なかなか勝てる文章はないよなあ。


小川哲、いいよね。



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