映画『Love Letter』感想

 暑くてたまらないこの時期になぜこんな記事を書いているのか。それは、そういう気分だったからです。よろしければお付き合いください。

『Love Letter』1995年
中山美穂、豊川悦司主演。岩井俊二監督。
恋文から始まる、雪の小樽と神戸を舞台にしたラブストーリー。
(Wikipediaより)

観たきっかけ

 観たのは去年の大晦日。なんの予定もなかったので、映画を観ようと思い立つ。私の故郷はそこそこ雪の降る地方だったのだが、当時寝起きしていたところはまったくと言っていいほど雪が降らなかったので、雪景色に飢えていた。冬が舞台で、面白そうな映画を探していてたどり着いた。アマプラにあったしね。

あらすじ

 神戸に暮らす渡辺博子は、山岳事故で亡くなった婚約者、藤井樹の三回忌に参列していた。藤井の母から中学時代の卒業アルバムを見せてもらった博子は、当時彼が住んでいた小樽の住所を見つけ、今はもうないというその住所へ藤井宛の手紙を送るのだった。……が、なぜかその手紙から返事が返ってきてしまう。

以下はネタバレになります。






 それもそのはず、博子が手紙を送ったのは、藤井の同級生で同姓同名の「藤井樹(女)」だったからだ。ややこしいんで、男性の方を「藤井」、女性の方を「樹」と書きます。ちなみに、この樹を演じているのは渡辺博子さんと同じ、中山美穂さん。

感想

 良かった。私はこれが好きだ。話ももちろん良かったけれど、映像の雰囲気も良かった。個人的に平成初期の風景が好きなのもあると思う。そして雪景色。冬が好き。劇中に出てきた『青い珊瑚礁』を聞きたくなった。

博子と樹について

 Amazonのレビューでは、「同じ女優が演じているから分かりにくかった」という声がちらほら見られた。私は、大まかなあらすじを先に知っていたので、特に困りはしなかった。このシーンどっちだ?っていうのもなかった。元々あまり人の顔を覚えない性格だから、というのも関係あるかもしれない。周りにいる人間や、話の脈からもわかるし、なにより全然違う演じ方だったと思う。感じ方はそれぞれなんだけど。私はそうでした。

 最後、博子さんが手紙をすべて返したのは、婚約者の、自分の知らない一面を知りたかった、知ることで気持ちの整理をしたかったから文通を続けていたけれど、思い出を知るうちにそれを語る樹さんの筆の調子から、これは藤井さんの思い出ではなく、樹さんの思い出だと気がついたからなのかな。

 藤井さんの死を知った樹さんが、父親の死を思い出して熱で倒れるシーンがある。目が覚めたとき、彼女はその時の自分の気持ちと博子さんの気持ちを重ねたりしたのだろうか。

樹と藤井について

 これは言うまでもないよね。題名のLove Letterは、これのことだったのか、と観た人のほとんどが思うことでしょう。あまずっぺぇ~!!

博子と藤井について

 亡くなった藤井さんと博子さんの恋の始まりは、確かにもう一人の樹さんとの思い出がきっかけだったんだと思う。藤井さんがプロポーズの言葉を自分から言えなかったのは、それが引っ掛かったからだろう。こんな始まりで結婚するのは、博子さんに失礼だと考えたのかもしれない。きっかけは中学時代の恋だったとしても、途中で博子さん本人を好きになったんだと思う。そうじゃないと、結婚にまで至らないんじゃなかろうか。

 藤井さんがずっと嫌いだと言っていたという松田聖子の「青い珊瑚礁」は、衝動的な恋の歌だ。藤井さんは、その歌を聞くたびに、出会ったばかりの博子さんに、すぐ「付き合ってほしい」と言った時の自分を思い出して、そんな自分を嫌悪……とまではいかなくとも苦々しく思っていたからなのではないだろうか。だって、その瞬間は博子さんではなく、「樹さんにそっくりの女性」に交際を申し込んだわけなのだから。後ろめたさがあったんだろう。でも、付き合っていくうちに博子さんと樹さんが全然違う人間だということに気づいていって、「昔好きだった人にそっくりの女性」ではなくて博子さん本人を好きになったんじゃないかなぁ。それを裏付けるのは「青い珊瑚礁」。藤井さんが死の間際に「青い珊瑚礁」を歌っていたのは、死を覚悟した後、頭に浮かぶのが樹さんじゃなくて博子さんで、博子さんと出会えたきっかけである衝動的な恋も悪くないと思えたから……ってことだったら素敵だなぁ。と、ここまではすべて私の妄想であり、なかば願望です。

 最後、博子さんが藤井さんのいるお山に向かって、「お元気ですか。私は元気です」とだけずっと叫んでいたのは、(彼には届かなかった最初の手紙でもそれだけしか書いていなかったけれど、)言いたいことが、溢れる気持ちがありあまって、他に何も言えなかったからなのかな。

おわりに

 「なんだか博子さんが可哀そう」という感想はあれど、私が思っていたような解釈はなかったので、noteにまとめてみました。もしかすると大分好意的に見ているのかもしれませんが、まぁ楽しければそれでいいじゃないの。私はこの映画が好きでした。

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