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考察ブラッシュアップライフ

この記事にはネタバレが含まれています。ドラマを観た方だけお読みになる事をオススメします。

人生何周目?

という人がたまにいる。
年齢の割には達観している人。
何を隠そう私もどっちかと言うとそっち系の人間だ。

《ブラッシュアップライフ》

これはそれらの人の謎が解き明かされる物語だ。

今さらながら《ブラッシュアップライフ》を観た。2023年に放送されたバカリズム脚本のドラマだ。

観た方が結構いるかもしれないが、みなさんはどんな感想だっただろう?

まだ観ていなくてこれから観ようと思っている人は多少のネタバレも含むので、観終わってからこれを読んで頂ければ嬉しい。

ぼくは、このドラマはとんでもないドラマだと思っている。バカリズムはもはや天才である。見方によっては丹羽哲郎もビックリの超スピリチュアルなドラマなのだ。

と言うのも、安藤サクラ演じる主人公が第一話中盤でいきなり死に、天国の入り口みたいなところで超事務的な天国案内所職員(バカリズム)に来世はグアテマラ南東部の大アリクイだと告げられる。しかし大アリクイに拒否感を覚えた主人公が悩んでいると、もう一度今世を一からやり直すこともできますよ、と言われ、そちらを選ぶ。どうやら徳を積むと来世が良い感じに生まれ変われるらしい。少し戸惑いながらも扉を開けると、再び生まれるところからはじまる、という輪廻転生・または輪廻再生?人生やり直し(タイムリープ)ドラマなのだ。

まあ言ってしまえば単純なストーリーなのだが、これを今まで誰が思いついただろうか?
まず輪廻転生を軽くポップにユーモラスに描いている点で視点が素晴らしい。遥かに高く俯瞰した視点から描かれているのだ。
そして過去→現在→未来という《時間》の概念を超越したものが宇宙の真実だということもこのドラマは教えてくれる。このドラマではやり直しの人生を過去というよりも、常に《今》という視点で描かれる。よく考えてみればあの世に時間がないのだとすると、輪廻転生も過去→現在→未来と時間が流れていくものではなく、ひょっとすると同じ人生をやり直すということも本当にあり得るのかもしれない。

この宇宙、地球は時間を超えた平行世界、何重ものパターンのパラレルワールドが折り重なって同時に存在しているのだ。様々な無限のパターンの中、今自分が体験しているのはどの現実なのだろうと考えてしまう。そう考えると人の生死にも影響を及ぼしてしまう人生の選択は(たとえちょっとしたことでも)どんなに大事なのだろうと思う。

そしてこのドラマの何が凄いって、人生をやり直す時にちゃんと前回までの記憶がある設定なのが面白い。この地球は、いろいろな文献を読むとどうやら転生の度に前世の記憶を忘れる設定になっているらしい。そして生まれる前にある程度の人生設計(何を体験、経験したいのかを含め)をしてから、あえて一度忘れてリアルな地球ライフを生きるという、地球人全員が言わば自作自演ライフを送っているのだそうだ。これはおそらく地球だけのシステムなような気がするのだが、忘れる事によって、わざわざ演技しなくてもよりリアルに体験できるシステムになっているようだ。だからこそ面白いのだ。そしてさらに時間、距離、重力、肉体という3次元的様々な足枷(障害)が人生を楽しむ(俯瞰した視点で)要素になっているようだ。悲しく辛い大変な体験をしたとしても、あの世に還った時には『嗚呼良い経験をしたな』と思える事だろう。

そしてこのブラッシュアップライフではあえてその地球転生システムをコミカルに皮肉っているような感がある。それぐらい高い視点から書かれた脚本のような気がするのだ。もうこれは天国の丹羽哲郎もマジでビックリしていると思う。時代はここまで進化しているのだ。ついに地球輪廻転生システムをもコミカルにネタにしてしまう、凄いエンタメが出てきてしまったのだ。バカリズムはもはや宇宙人なのか?

主人公は来世の大アリクイではなく再び同じ人生を生き直し、徳を積むことを意識してやり直す。人生の都度都度で徳を積む選択をし、他人のために善行をする。来世で人間に生まれ変わるためだ。
特に身近な友人などの人生を軌道修正し、果てはあらかじめ分かっている友の死をなんとか回避するべく奮闘する。人生一回目の地方公務員、二回目の薬剤師、三回目のドラマプロデューサー、四回目の研究員、五回目のパイロットと職業を変え、回を重ねる事にどんどんストイックになって行き、ドラマ後半、人生何周目という人たちが次々と現れスピード感が増し、ついに自ら決めた全てのミッションをクリアするのだ。

Go to Hometown

人生9周目の市役所の同僚、三浦透子演じる川口さんの着ているパーカーに描かれている文字である。
『故郷に帰ろう』

そしてその下には

「After all, I love this city the most, not to mention my friends.」

(結局、友達は言うまでもなく、私はこの街が一番好き)
と書かれているように、失敗したり徳を積んだり人生いろいろあるけれど、結局故郷と周りに友だちが居れば人生はそれだけで素晴らしい、というところに行き着くのだ。


親友と友に、友達たちを助けた主人公はパイロットを辞め、地元に帰り再び地方公務員として働く。そしてここから本当の人生を謳歌するのだ。人生というのはなにも徳を積む事だけではない。本当に心から人生の素晴らしさを実感し、友に囲まれ、楽しく暮らす。それが一番なのだ。ということをこのドラマは教えてくれる。

ちなみにドラマ序盤に出てきた同僚の川口さんのパーカーには

GO TO HELL

と書かれているのだが、その下にはこんな言葉が書かれていた。

「To tell the truth, I’m coming back to life many many times.」

(実は、私は何度も人生をやり直しています)

すでにこんなところに伏線を張っているあたり、何気にすごいドラマである。

こうやってドラマのことを語っていると再びもう一回観たくなってきた。

そうそう、最後に質問。

ところであなたは人生何周目?

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