小さい秋

 急に涼しくなった。特に朝は肌寒いくらいだ。つい先週まで汗だくで出勤していたのが嘘のようである。
 そのくせコンビニに寄れば秋季限定の商品が既に売り出されており、食欲の秋だけは先行していたのだから当然のように体重は増えた。暑い日に運動する気はさらさらなかったので、涼しくなったのをいい機会だと捉えて、散歩でもいこうと休日に早起きしてみた。
 
 23歳。新社会人。実家を出てまだ半年しか経っておらず、まだまだ今住んでいる街のことは知らないことだらけだ。
 いつも出社する道以外は通らない。初めて反対方向の道を歩いてみた。知らないものだらけでワクワクする。オシャレな鉄板焼きのお店、実家の近くにもあった見慣れたファミレス。高級そうな犬を二匹も連れたマダムとすれ違った。こんな小さいことで楽しめる私はまだまだ子ども心を忘れていないのだわ、となぜか得意げな気持ちで坂を下った。
 下りきったところで並木道にさしかかった。地面を見ると、松ぼっくりが一つ落ちていた。「あ、小さい秋見つけたな。」と童謡さながらの一言を繰り出した。見えてはいないが、多分どや顔だったと思う。
 これはもしやどんぐりもあるのでは?と気が付いてしまった私は更に並木道を進み、ついにどんぐりを見つけた。しかも一つどころではない。「小さい秋が連なって、大きい秋になっているではないか…!」つかの間の感動を覚えた私だったが、よく見ると踏まれて潰れているどんぐりが多かった。
 なんだか少しだけ冷めた気持ちになって、空を見上げた。
 小さいころは落ち葉が引っ付くのも気にせず這いつくばってどんぐり拾いに勤しんでいたというのに、今の私ときたらちょっと潰れているどんぐりが多いだけでがっかりしている。そもそもどんぐりには虫が入っている可能性があるので、家まで持ち帰る気にはならなかった。
 
 何が子ども心を忘れていない、だ。結局私もどんぐりを拾わない大人だ…。
 なんだか悲しくなって、来た道を戻ることにした。振り返って、そういえば来た時は下り坂だったことを思い出す。帰りは当然上り坂だ。私は絶望的な気持ちで帰路に着いた。
 帰ってすぐにボウルいっぱいのコーンフレークを食べて、二度寝した。起きてすぐにお菓子も食べてしまった。
 やはり私にはスポーツの秋より食欲の秋がお似合い、ということだ。


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