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【ショートショート】新しい生活様式

時代は2020年、オリンピックが日本で行われる事が決まってから人々は浮き足立っていた。

公共事業で多くの公共交通機関が整備されて、新しいホテルが次々に建設された。外国人観光客の受け入れ体制は万全であった。

TVでは写るCM全てがオリンピック一色、企業の株価はぐんぐん上がり、日本中が期待間に溢れかえってきた。

だが、しかしだ。もはや周知の事実だが、アジア発の新型の病原菌でよるパンデミックが起こったのだ。

その新型ウイルスは、人々の肺を壊し、重篤化すると40度近い高熱が毎日続く。更に厄介なのが、感染してから発症するまでの約2週間、無症状の状態の無自覚感染者がウイルスを撒き散らすのだ。

この脅威は、みるみる間に全世界へ拡がり、経済は停止、オリンピックは延期、株価は大暴落で人々は落胆した。

TVでは、毎日のように新型ウイルスのニュースを流し、ワイドショーは迷走する政府の揚げ足取りに躍起になった。

一部の我慢できない若者は、新型ウイルスの感染リスクを顧みず遊び呆け、大抵、そういった輩は直に病院に運ばれた。

やがて、政府は人々の不要不急の外出を禁じ、マスク着用を義務化、そうして街から人々が居なくなった。飲食店は閉店、観光業や接待を伴う大人の社交場も軒並み廃業。

代わりに、テレワークが発展し、自宅での仕事が当たり前になった。宅配便はドローンが行い、買い物では電子マネー、美容院やエステティシャンはロボットに代わり、ありとあらゆる接触機会が無くなった。もはや、他人という物と接触するなんて有り得ない世界だ。

学校も自宅、液晶画面さえあれば何でもできる時代の到来である。よくよく考えてみると、これは我々の望んだ世界でもある。働き方改革が叫ばれ、人間関係に悩む人々、登校拒否の子供達に毎日の満員電車も無くなった。働く時間は極端に少なくなり、もはや、新型ウイルスに感染する隙はどこにもなかった。

こうして、我々は新しい生活様式を取り入れ、どんなウイルスにも負けない社会を手に入れたのだ。

だが、我々は一つ、重大な事な欠点に気付かされる。それは、他人に近づけない世の中では、他人と恋に落ちる事がないのだ。デートもできないから付き合えない。結婚、そして子供を作る事なんて絶対に無理だ。

それは大きな矛盾であり、大問題である。だが、時すでに遅し。もう何人たりとも濃厚接触は許されない。新しい生活様式が取り入れられた今、もう前みたいには戻れない。我々は人口が減り続け、直に途絶えるであろう。

我々は一体、どこで間違ったのか。

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平凡なサラリーマンの創作短編集です。気楽にどうぞ。

ショートショート集です。 高校から今までちょこちょこ作ったショートショートを載せています。 人気があれば随時、更新していきたいと思いま…

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