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【ショートショート】乗り物酔い

俺は生まれた時から乗り物酔いをするほうだった。

お母さんの抱っこで酔い、ゆりかごで酔った。

自転車も頑張って練習して乗れるようになったが、気づけば酔っていた。

車は当然、電車に飛行機、船にエレベーター

乗り物であれば何でもかんでも全部酔った。

理由は分からない。病院にも言った。

医者は赤ん坊の頃のトラウマによる精神的なものだと言って、カウンセリングを受け続けているが彼此30年、一向に良くなる気がしない。いや、むしろ悪くなっている。日に日に敏感になっている気がする。

「先生、一体いつになったら私はよくなるんですか」

カウンセラーも頭を抱えた。

「君が無意識の中でトラウマを克服する事が出来れば必ず良くなるんだ。自己暗示によって君は君自身に縛られているんだよ。よく考えてみてください。君は乗り物であれば何でも酔ってしまうというが、考え方によっては君の体自身が、君の魂を運ぶ乗り物だと言うこともできる。でも、君は徒歩では酔わない。そうだろ?」

「あーなるほど、確かにそうですね」

その帰り道、俺は徒歩で酔った。

そして、1歩も動けなくなった。

あぁ、医者が言うことは本当だった。

原因は俺の心にあるようだ。

その日以来、俺は自宅から1歩も出なくなった。いや、必要最低限しか歩かなくなった。

テレビやビデオを見て、一日を過ごす。
ただひたすら、それだけ。
止まっていれば、俺は元気で居られた。

今日は、金曜日。
毎週楽しみにしている金曜ロードショーだ。

女の子が空から降ってきて、出会った少年と一緒に大冒険をして滅びの呪文を叫ぶ映画だ。

とても有名だったが、俺は初めて観た。
とても素晴らしい映画だった。
俺史上三本指に入るかもしれない。
エンドロール、主題歌を聴きながら俺はただひたすら酔いしれた。

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平凡なサラリーマンの創作短編集です。気楽にどうぞ。

ショートショート集です。 高校から今までちょこちょこ作ったショートショートを載せています。 人気があれば随時、更新していきたいと思いま…

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