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【読録】わしの目は十年先が見える-大原孫三郎の生涯-/城山三郎

明治から昭和初期にかけて活躍した繊維製品大手メーカー『クラボウ』の社長で、現『クラレ』の創業者の生涯を描いた本です。

大原が様々な人との出会いによって影響を受けながら、経営者としての顔と社会奉仕者としての顔を併せ持つに至った経緯が記されています。


〇石井十次の言葉
大原は、日本で最初に孤児院を創設し「日本児童福祉の父」と呼ばれる石井十次と出会い、そのビジョンに感銘を受け、活動の支援をし続けます。
その石井が言ったとされる言葉にはハッとさせられるものがありました。

「ぐずぐず人間は屑人間、共に事を為すに足らず」
「人物の第一の要素は熱心なり」

やれない理由を並べてやらない人は多いですが、こういう人とは仕事を含めた何かを一緒にやらないほうがよいということです。どうやればできるかを一緒になって考えられる人と組む、ということですね。
それに、知識が豊富とか事務処理が速いとか、そればかりでは何の役にも立たない。やる気があるかどうか、情熱をもって事にあたる覚悟があるか否かが人物の評価で最も大切なこと。これは現代社会においても不変の価値観だと思いました。

〇大原孫三郎の言葉
クラボウの新年会の席で、幹部らに向かって話した言葉が印象的でした。

「諸君もまたどうか『経験家』になってしまわぬよう、偉くなるとか、社会的に認められようなどのことに迷わされぬように心がけて頂きたい」

世俗的な思惑や従来の尺度を捨て去ってほしい、との訴えであったとされます。
ただ私はどちらかというと、「経験家」という言葉が引っ掛かりました。この単語を聞いたことはありませんでしたが、妙にしっくりくるものがあります。
何事も経験することが大事だと言われますが、経験を生かして何かに役立てること、実践することが必要で、経験しながら自分事として何に生かすことができるかを常に考えていくことが重要ですね。

もうひとつ。

「十人の人間の 中、五人が賛成するようなことは、たいてい手おくれだ。七、八人がいいと言ったら、もうやめた方がいい。二、三人ぐらいがいいという間に、仕事はやるべきもの」

これはビジネスにおいても、公共サービスにおいてもあてはまりますね。
特に将来の「ニーズ」などほぼ読めない時代です。こんな流れの早い時代の中では、「合意形成」なんて言っていたら、やり始めたときにはもう次の潮流に切り替わっています。

発案して誰かが賛同してくれたら、すぐスタート!くらいが普通なのかもしれません。


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