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気持ちの良い味

先日、家から徒歩一分くらいの近さに、新しく喫茶店ができました。
僕がその場所を初めて見たときには、もうすでに空き家となっており、見たことはないのですが、以前は、インド人かネパール人(すみません。定かではありません)のインドカレー屋さんだったそうです。
彼女は一度訪れたことがあるそうですが、
味は申し分のないおいしいカレーなのに、
接客態度があまりよろしくなかったそうです。
常にスマホをいじっていたり、聞きとれないほどの小さな声で話したり、そのようなもの。
日本人は悪い意味でびっくりしちゃうんじゃない
彼女はそうおっしゃっておりました。
カレーは抜群においしかった
と、少し惜しみながら。
彼女に惜しまれながらの閉店となったインドカレー屋さんなきあとは、三ヶ月ほどでしょうか、空き家のままで、誰も次に入る気配はなかったのですが、一ヶ月ほど前から、女性数人がなにやら中でミーティングしているのを、週に数回見かけるようになり、
なにができるのだろう
少しわくわくしながら、中を覗きつつ、そのお店の前を通っておりました。
そして、つい一週間前、
喫茶店オープンします
という文字が、手のひらサイズの小さな紙に書かれて、店先に貼り出されているのを発見しました。
喫茶店ができるんだって
彼女に報告いたしますと、
いつ?
来週
来週?
うん
行くしかないね
期待に満ちた彼女の表情。
ということで、オープンしたその日、それも、開店時間ぴったりに、行ってまいりました。
先に来店されておりましたのは、五人の六、七十代と見えるグループ。
お客さん第一号にはなれなかったね
なんて冗談を言いながら、
案内されたテーブルに着席。
濃茶を基調とした、木の温もりの感じられる店内には、四つのテーブル席に、カウンター席が六席。そして、カウンターには、手彫りと感じさせるような、ところどころに味のある小さな凹凸の付いた木のスプーン、
一枚一枚、色、形の異なる、貝殻の形にも似た、ダイナミックな曲線を持つ大皿等々がディスプレイ。
あの大皿で何を運ぶのだろうか
そんなことを考えていると、
お昼ご飯のメニューはカレーだけでございまして
と、お二人いらした店員さんのうちの、
オーナーと見られる方が(もう一人の方によく指示を出していらしたので)、メニューのご説明をしてくださいまして、インドカレー屋さんのあとにまたカレーとは、この場所にはカレーの主でもおられるのかな
なんて、自由な妄想を炸裂させていると、彼女は迷わずそのカレーを。生姜たっぷりの挽き肉カレー。
僕はそれを食べきれる自信がなかったので(少食でございます)、
十二時に来ておいてなんですが、デザートとしてあった、栗の惑星なる一品とコーヒーを。注文を終えると、
どのお皿にしますか?
と、カウンターに並んだお皿を指し示しながら、オーナーさん。
あ、選べるんだ
僕たちは良い意味で驚かされつつ、彼女はマスタード色の大皿を。
あの色は日本語で何色って言うの?
黄色?コーラル?マスタード色って日本語でも使うよ
なんて会話をしながら待っておりますと、その大皿の真ん中の白ごはんの島を、生姜、挽き肉がごろごろと入ったルーが囲うように入りました、ボリューム満点なカレーがやってまいりました。
それから、栗の惑星なる一品も。
もこもことしたクリームの中に、栗とくるみが小さく砕かれて入っており、それが、ミルキーウェイのように、こんもりと渦を描きながら盛られているものでございました。
そして、
いただきます
をしてからそれぞれ一口。
おー、おいしい
と、同じリアクション。
カレーは、スパイスが効いたものというよりは、生姜のぴりりとした部分が、スパイスよりもほんの少し強く効いていて、それが絶妙なバランスでございまして、
こういうカレーもあるんだ
と、その味のファンに。
栗の惑星なる一品は、クリームチーズのようなやさしい甘さのクリームの中に、食感のしっかり残った栗とくるみが、ほんのりとビターな風味を加えてくれ、こちらもとても良いバランスでございまして、
三十分に一回、これをちびちびと口に入れながら休日を過ごしたいね
という変なところで彼女と合意した、飽きの来ない、やさしいデザートでございました。
お互いがお互いのものを少しずつ頂きながら、おいしく完食。
ごちそうさまをして、レジに向かうと、
どうして来てくださったんですか?ご近所にお住まいで?
と、オーナーさん。
僕たちがいる間にも、
ご年配の方が多くいらしておりましたので、
若い人が来るとは想定していなかったのでしょうかね。
どうして?
目もそうおっしゃっているようでございました。
近所に住んでいて、こちらが出来上がる様子を見ておりましたので、オープンしたら来たいなと思っていました
そのように伝えると、
そうですか、ありがとうございます
と、とても気持ちの良い「ありがとうございます」を頂戴してしまいまして、
おいしかったです。ありがとうございました
こちらも、自然と、はきはきとした「ありがとうございました」が口から出て行き、良い気分を抱えたまま、お店をあとにしました。
気持ちの良い方が作るものはやっぱりおいしいな
改めてそう感じる時間でございました。
グルメでない僕は、舌よりも頭で料理を味わうようでございます。

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