まだまだ

朝晩に秋を肌で感じるようになりまして、
彼女は髪の毛を乾かし、アイロンでストレートにし、
それから、髪の毛を結いだり、結がなかったり、
お出かけ前は、
そのような髪の毛のセットを楽しむようになりました。
それがとても楽しそうでございまして、
というのも、
お気に入りのコメディアンの話を聞きながら、
セットするわけでございまして、
大きな笑い声が、
洗面所のほうから、
コンスタントに聞こえてくるのでございます。
はっはははは
はっはっはっははははは
とても良いオーディエンス。
彼女が笑うときは、
その笑いの大小を問わず、
すべての活動が笑うことに集中しますので、
僕はセットしているときの彼女を見たことはありませんが、
そのかかった時間の半分は、
笑うことに費やしているのではないかと思っております。
それぐらいに笑っております。
コメディアンのトークスキル恐るべし。
そうして笑い終え、セットも済まし、
リビングのほうへやって来るときの表情は、
ハミングが聞こえてきそうなほどに晴れ晴れとしております。
そして、
どう？
と、髪の毛に触れながらその仕上がりを尋ねてきまして、
僕はさっきの笑い声を思い出しながら、
良いね
と、少しの幸福感を分け与えてもらいながら応えます。
すると、ぐいっと近づいてきて、
秋はもうすぐそこまで来ているね
プレゼントを待ちわびた子どものような表情でおっしゃいます。
ここ数日の彼女の口癖でございます。
それでも、
まだまだ夏の陽射しだねえ
なんて言いながら、
彼女の小さな日傘に2人で収まりながら、
最寄りの駅を目指します。
これから何日、
秋の訪れを話題にすることでしょう。