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介護にまつわる問題の数々〜介護離職

先日読んだ短編小説にこんなシーンがあった。

主人公が憧れ、ライバル心を燃やす優秀な女性の先輩が会社を辞めることに。
ヘッドハンティングされたとの噂だったが、実は母親の介護のための離職だった。。。

非常に考えさせられるシーンであった。

厚労省による「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年介護を理由に離職した人の数は10万6千人。

その8割は女性だ。

この小説のバリキャリ女性は独身だ。
おそらくまだ30代くらい。

優秀な女性がキャリアを捨てて親の介護をする。

もしかすると母親はシングルマザーで、女手一つで彼女を育ててくれたのかもしれない。
今度は自分が介護をしてあげたいと思ったのかもしれない。
(その辺の背景は小説に出てこなかった)

このように単身世帯が親の介護をしているケースも多い。

未婚率は年々増え少子化の原因のように言われているが、それは時代の変化であり、今から急に婚姻数と出生数が爆増するなんてことは起こらないだろう。

介護問題は難しい。

『お金の問題』と『心の問題』が密接に絡み合っているからだ。


お金の問題

有料老人ホームに入るにはかなりのお金がいる。
入居一時金が数千万円なんてザラで、そのうえ毎月の利用料がかかる。

自宅を売って老人ホームに入る人もいるが、家賃収入など何らかの定期収入がない限りいつかは貯金が底をつく。

人の寿命はわからない。

介護費用についての問題の一つは、この『寿命がわからない』ことと、『お金の問題』がリンクしていることだろう。

人の命をお金で換算することはできない。

でも資本主義社会の日本では、生きている限りお金がかかる。

老後一体いくらかかるのか?
その答えは、個人個人のの寿命による。

だから誰にも分からない。

お金と残された時間の問題。

自分自身の老後対策としては、時間をかけて資産形成をしていくことが第一になる。
つみたてNISAやidecoを活用して将来に備えてほしい。

一方今まさにこのことに直面している、親の問題は深刻だ。


心の問題

親と離れて暮らしていると、実際に会うのが年に数回になったり、場合によっては何年も会えなかったりする。

久しぶりに親に会ってその衰えに驚いた、という話はよく聞く。

自分の中では若く元気だった頃の親のイメージが強く残っているので、その落差に心が痛む。
その親に介護が必要になったら、自分の手で介護したいと考えるのは自然なことかもしれない。

その時点では。

親に比べれば、自分は子供なので若い。
ところが実際は自分もまあまあ老化している。
若い頃のような体力はない。

その上家の中で1対1の介護生活は精神的にキツく、どんなに仲の良い親子でもだんだん苦しくなっていくものではないだろうか。

でも老いて衰えてしまった親を前にすると、そんな現実は考えられなくなる。

親子関係は人それぞれ違う。
その関係性によって介護の形も変わってくる。

どんなに辛くても絶対に自分の手で介護したい、という人はそれが一番良い選択になるだろう。

本人の気持ち以外にも、親の希望や経済的問題など理由は様々である。


自分の人生

人生を考えれば、介護離職はしない方が良いと思う。

自分自身の人生はその後もずっと続く。

離職するということは、収入の道が断たれるということだ。

介護後に再就職をしようとしても正社員は難しくなりがちだし、簡単に社会復帰ができないケースも多いそうだ。

介護離職のメリットの一つに、『自分でするので介護費用が安くなる』というものが挙げられていた。

それは介護をしている今だけの計算だ。

人生全体で考えてみよう。

年収400万円であと20年働いたとしたら8000万円。

自分で介護して安くできた介護費用はいくらだろう。
トータルで8000万円にはならないだろう。

離職するということは、将来得られるであろう8000万円を放棄したという事になる。

本当は社会福祉制度がもっと充実し、夜間にヘルプがあれば仕事との両立もしやすくなるのだが、そもそも介護士が絶望的に不足している。

おそらく離職の決断をするときは、待ったなしの追い詰められた状態で、こんなことを考えている余裕もないのだと思う。

でも『自分の生活が将来成り立たなくなるかもしれないリスク』を考えてほしい、とFPととしては思う。

施設は悪か

日本では親を施設に入れることを批判する風潮があると思う。

「冷たい子供だ」「恩知らずだ」といった、何となく批判的な空気に晒される事がある。

介護施設での虐待のニュースなどが大々的に報じられるので、ネガティブな印象を持つ人も多いが、介護のプロの人たちは素晴らしい技術と能力を持っている。

実際、一人暮らしから介護施設に入って元気を取り戻し、病院での検査結果も良くなったというお年寄りもたくさんいる。

老人にとって必要なのは社会性であり、施設での集団生活がその面で健康に寄与することもある。

そして健康にとって重要なものは食事だ。

素人が介護しながら用意する食事となると、どうしても簡単なものになってしまうことが多いだろう。

一人暮らしの老人が自分で用意しているとなると尚更だ。

一方、施設のプロが3食栄養バランスを考慮して作る食事は、よっぽどの料理自慢でなければ自宅ではなかなか用意できない。

そして栄養は老人の健康にとって不可欠だ。

どんなに能力の高い人でも、一人でプロ集団と同じサービスを提供するのは難しいだろう。

老人の脳の健康にも良いことがあると思う。

親は自分の子供だと不満でも何でも言いやすいが、他人の介護士さんには遠慮があったりする。

家族だけでいると刺激は全くない。

他人と日々接して”ちょっと気を使う”という刺激が、老人の脳には良い影響もあるのではないか。

介護施設は決して悪いものではない。

メリットはたくさんある。

誰でも望めば低コストで介護施設に入る事ができ、自宅介護をしたい人には十分なヘルプがある、そんな社会になってほしい。

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