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弾劾は秒読み!?尹政権の大敗

進歩派が腐敗政権に大勝利

4/10に開票された韓国の総選挙では、全300議席(一人当選の地域区254、比例46)が争われた。
共に民主党、祖国革新党など尹政権と強く対決する野党が2/3に迫る188議席の大勝。与党・国力党は1/3を少し上回る108議席に留まった。常に韓国を差別的に報道する日本メディアではわからない、大いに参考にするべき与党の歴史的大敗を分析する。

総選挙は今年の2月終わりまでは、与党有利と言う報道も多かった。筆者はこれを操作された世論調査の結果であると指摘し続けたが、その予想は外れていなかった。
 与党が1/3を下回れば、議会での大統領拒否権が無力化される。保守も進歩も関係ない韓国社会に必要な法案も、尹大統領の拒否権行使でこの2年間潰されてきた。そのため野党の2/3越え、与党の1/3割れがデッドラインだったが、これは達成されなかった。
 しかし、与党がかろうじて1/3を超えたとは言え、尹大統領が今後拒否権を行使すれば、即与党が瓦解し、大統領弾劾に直結しかねない。
 尹政権は、すでにレームダック(役に立たない政治家などを指す言葉)どころか、機能不全を起こしている。
 総選挙大敗後、大統領府の国務総理を始めとした要職は総辞職したが、後任に誰も就きたがっていない。3年も任期が残っているのに、権力欲の強い与党の政治家達をして、「泥船に乗りたくない」という空気が充満している。
 勝利した共に民主党の李在明代表は、「何よりも経済と国民生活の回復」を打ちだしている。「執権野党」というフレーズも出ており、実際多くの国民が、「政府が全く機能していない以上、野党が中心になり国会が政府の役割を果たすべき」と期待している。
 2年前の尹政権誕生後、「韓国社会は保守化した」など多くのマイナス評価が進歩的知識人からも言われたが、そうではないことが証明された。
 とりわけ今回の選挙は、他の報道で言われる「与党VS野党」ではなく、「ユン検察独裁政権VS韓国市民」であった。

特権カルテルと民主市民の併存

「韓国はまだまだ遅れている」と、分析もなしに評論する「専門家」が日本では多いが、韓国民主主義を一文で表現すると、次のように言える。
 韓国は、世界で最も民主的で行動的な市民層と、後進/独裁国家なみに公的機関を私物化する特権階級が、併存する国だ。
 軍事政権を倒して民主化し、数百万人のキャンドル革命で朴槿恵大統領を弾劾した市民。しかし、そうした世界最先端の民主市民と正反対の特権階級も併存するのが、韓国社会の特徴だ。検察―裁判所―メディア―財閥―極右教会―保守政党は、特権カルテルを形成し、自分たちの犯罪はもみ消す。特権階級の解体を試みるリーダーには、無実の罪をかぶせて特権を享受してきた。その基盤は「親日派」―日本の植民地支配に協力して富と権力を得た者たちだ。そんな韓国で特権カルテルが選んだのが尹大統領だった。

乱用される大統領拒否権 富裕層減税し福祉は削減

 尹大統領について、「大統領の地位は欲しいが大統領の仕事はしたくない人」と、韓国の有名ジャーナリストが評している。
 韓国ドラマにはよく、わがまま放題で無能で部下に威張り散らす財閥二代目が登場するが、そのキャラクターがピタリ当てはまる。検事時代に履いていた靴下に酒を注ぎ、それを財閥幹部に飲ませて従属を誓わせたという逸話もある。
 尹政権発足後の韓国経済は、失敗と言うレベルではない。文在寅政権の後半では、「気がつけば先進国」というフレーズが流行したが、尹政権になってわずか2年で、「気がつけば後進国」と市民が呼ぶようになった。
 2年間も続いている貿易赤字は、輸出比重が非常に高い韓国経済には致命的だ。ところが尹政権が行っている唯一の経済政策は、富裕者減税だ。そのせいで税収が10%以上落ち込み、福祉予算どころか研究開発費の大幅減まで行っている。無能ですぐ怒ってスタッフに責任転嫁する尹大統領の閣僚は、佞臣(おべっか使い)しか務まらない。大統領に問題を直言できるスタッフが誰もいない。
 「ずっと保守だが尹政権だけは人間として許せない」。そう言って野党に投票した有権者が多いのも、今回の総選挙の特徴だ。 尹政権の特徴として、大統領拒否権の濫用が挙げられる。就任2年目にも関わらず、歴代大統領で最多となる9回の大統領拒否権を行使している。
 拒否権を行使した法案自らが公約にした看護法(看護師の権利保障、充足を法制化)や、妻・金建希氏の株価操作特別検察法(歴代大統領の全員が家族への疑惑捜査は受け入れた)、159人の若者が命を失った梨泰院ハロウィン惨事の真相究明法が含まれる。

怒りを買った台風被害と海兵隊員の死の隠ぺい

昨年7月、尹大統領が欧州の外遊中に台風被害が発生した。韓国中部を中心に、地下車道の水没などで41名が犠牲になった。
 この時、尹大統領は「帰国しても状況は変わらない」と外遊を続けた。河川増水中にもかかわらず、海兵隊の司令官が行方不明者捜索を隊員に命令し、水死する事故が起きた。前日には軍の水陸両用車でさえ何もできず、立ち往生した状況下での命令だった。
 この無理な命令に対し、軍の捜査でも師団長を含む10名への責任を問う捜査結果が出て、一度は国防長官も捜査結果を承認した。だが国防長官は8月1日に態度を変えて、捜査を担当した大佐を命令不服従で軍事法廷にかけた。この過程で、大統領が捜査に介入した事がほぼ確実だ。
 朝鮮戦争危機を煽る大統領が、無理な命令を下した軍トップの責任をもみ消す。さらに事件隠ぺいのために、元国防長官をオーストラリア大使に任命するという、重大犯罪者の国外逃亡を政権が幇助することが、選挙直前の3月に行われたのだ(元国防長は僅か20日で帰国、辞任)。
 この政権による事件隠ぺいに対して、本来保守的な海兵隊員のOB組織が怒り、全国的に与党候補への落選運動を展開するに至った。尹政権の行いは保守でも人間として許せないという、象徴的事件だ。
 この海兵隊員殉職事件への特別検察法が、現在の韓国政治の焦点だ。
 仮に大統領が拒否権を発動しても、与党議員が8人離脱して賛成に回れば、国会議員の2/3を超えて特別検察法は再可決される。保守層の反発を恐れる与党議員から8名造反することは、十分に予想できる事態だ。
 保守メディアでは、「野党が特別検察を乱発」「野党が国会を政治的報復に利用」と報道しているが、これは尹政権が検察と警察を私物化しているために、国会で野党が検察、警察の役割を果たすしかないからなのだ。
 朴槿恵政権弾劾の大きな理由になった2015年のセウォル号沈没事件。だがセウォル号の場合、政権は救助の遅れとその隠ぺいが大問題になったのであり、事件そのものに政権が関わった訳ではない。
 だが尹政権下で発生した海兵隊員殉職事件と、梨泰院ハロウィン大惨事は、事件発生の原因として大統領の無理なプラン遂行の可能性が非常に高い。

米日追従外交を許さない市民

この二つの事件が国会での特別検察が実現有無にかかわらず、朴政権を弾劾した「キャンドル革命」の再来が今年度中にあると、筆者はみている。
 「尹政権は親日なのに残念」が、多くのリベラル派までに共通する日本の報道や認識ではないか。だが、正しくは尹政権は「親自民党」である。これくらい隣国の基本情勢を認識できなければ、衆議院補選で立憲民主党が全勝しても、日本でのリベラル派執権はかなり難しいだろう。
 昨年末から強制徴用問題で、日本政府や企業に賠償させる韓国の最高裁判決が相次いでいる。日本は「韓国の問題」と突っぱね、親日・対日屈服する尹政権は、韓国市民からの募金で賠償を肩代わりしようとし、「慰安婦」問題同様に被害者の訴えを無視している。
 屈辱外交で韓国の国益を損ね、外交の場で数々の恥をさらしたと市民は認識している。「時代遅れの米日絶対追従外交」は、選挙での争点の一つだった。
 「韓国が親日か反日か?」と言う日本社会の根本的な誤りは、「日本の方が進んでいるから、韓国は日本に合わせるべきだ」という傲慢な思い込みだ。
 筆者は韓国ニュースチェックにエナジーを注いでいる。最大の理由は、「民主主義後進国の日本の市民・民主陣営は。韓国の民主・進歩派の政党・市民と連帯して学ぶしか再生の道はない」と強く思っているからだ。
 西欧からの学びが日本の近代化を実現させた、と一般的に日本人は教わるが、産業近代化は西洋から学んでも、民主主義思想が入ってくることを絶対的に妨害したのが旧大日本帝国だ。民主主義を自ら勝ち取っていない国民は、それを勝ち取った韓国市民から教わるべきだと思う。

 

               (2024年5月5日号掲載) 


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