【ショートショート】 感情喰いと恋心


恋心を食べるのが好きだ。
甘く酸っぱく、ときどき苦いが深みある味わいで、いつも食べていたいが、街中に行く必要があるのがキツい。

私は感情喰いと呼ばれる、人間の形をしている人間ではないものだ。
人間との違いは、実体のあるものに触るには、私が触ろうと思わなければ触れないということぐらいだろうか。

人間はこういうものを幽霊と名づける。
だが、私は感情喰いとしてありたいのだ。


感情喰いとしての誇りある私は、まれにとんでもなく素晴らしい恋心を手に入れることがある。
街中で食べるには、もったいないほどの素晴らしい輝き。
ねぐらに帰ってから食べようと、大事に大事にふところにいれる。
そして、ねぐらで取り出すと、ほとんどの恋心は輝きを失っているのだ。

ああ、またか。

私は落ち込む。
恋心はうつろいやすい。
こうなってしまっては、ただただ苦いだけだ。
こうなると魔女に買い取ってもらうしかない。

私は輝きのない恋心を瓶につめる。
そのうちにこの恋心はしぼみ、この瓶につもっている真っ黒な層のひとつになるだろう。
苦い苦い恋心を興味に負けてなめたことがある。
味は、癖がありすぎて人を選ぶが、少しの中毒性があって厄介だった。
薬の材料になるわけだ。