【毎週ショートショートnote】 オラオラするTシャツ手触り

「いっしょに、どこかへ行かないか」と言うので、観光がしたりないのだと思い、いっしょにいただけなのに、お世話になっている組織を裏切っていた。

相方はいつも、一言たりない。

俺の否定を恐れているのか。
俺をあなどっているのか。
はっきり言えばいいのに、言わない。

だから、言うまで逃避行につきあってやろうと思っていたのに、死にかけるから、それどころじゃなくなった。

戦場でゲリラ戦してた俺と、セレブを騙すスパイをしている相方とじゃ、生きている世界が違いすぎたのもある。

だけど、違うから、そばにいたかった。

死にかけの相方を背負って、白旗をあげた俺に、組織は優しかった。

俺が組織にもどって、まずしたのは、洗濯だった。

服を着替える余裕すらなかったからな。

ごしごし洗って、からっと乾かし、寝込んでいる相方の頬にTシャツを強くこすりつける。

「オラオラ、洗ったぞ。オラオラ、柔らかいだろう」

相方はTシャツをさわって。

「やわらかい…」

と、つぶやいた。