ADHDが、『一人会社』はうまく経営できたのに、『上司』としては完全に無能だった理由。 【ADHDは高学歴を目指せ】
14.
授業も聴けない、集中も出来ない、整理整頓も出来ず、計画も立てられない・守れない。
そんなADHDの僕ではありましたが。
勉強以外に娯楽のない環境で育ったこと、兄が若くして病死し命の短さを知ったこと、お金がないため独学で勉強せざるを得なかったこと。
それら、普通に考えれば、相当に不利になるような条件が全て、ADHDの僕にとって、良い方に転がり。
『公式を用いない』で数学を解く等、独自の試行錯誤の末に、得意不得意のバランスが悪くはあるものの、運さえあれば高得点を取れるような『異能』を身に着け。
見事に、京都大学合格を勝ち取りました。
けれども。
社会に出た後は、その『異能』を発揮することが出来ません。
勤め人になったものの、『試行錯誤』が許されず、失敗ばかりで退職。
フリーターになり、マイペースの仕事や旅をすることで、それなりに充実した日々を送るものの、限界を感じてやる気を喪失。
そこで縁あって台湾に移住し、『日本人子女向け学習塾』に就職。
刺激の多い外国で、適職に就く、という理想的な環境のお陰で、一定の成功をするも。
周囲に気配り出来ず孤立した挙句、その会社も追い出される。
それでも、そこで思い切って、独力で日本人子女向け学習塾を設立。
外国で会社経営という、まるで分からなことだらけである上に、前の会社からの非合法な妨害行為も相次ぎ、窮地に追いやられますが。
社員は僕一人の会社。
『なんでも自由に出来る』環境と言うのが、ADHDにぴったり合っており。
勉強同様、独自の試行錯誤の結果。
失敗は多くしたものの、やがて塾は軌道に乗り、安定した収入を得られるようになります。
そして、一人で仕事をすることに限界を感じた僕は、生徒募集も順調であったこともあり、会社の拡大に踏み切ることにします。
部下となる、日本人社員を雇用することにしたのです。
けれども。
部下を持つ――それは、想像以上に難しいことだったのです。
十数年の間に、僕は、何十人もの社員を雇用してきましたが。
当然、『外国で塾講師をした』経験のある社員など皆無です。
そもそも人材不足の海外就職市場ですから、塾講師経験のある社員だってほとんどいません。
そんな新入社員達ですから。
僕が、手取り足取り指導しなければならないのですが。
ただでさえ、対人関係が苦手である上に。
そもそも、自分の授業で手いっぱいの僕に、そんなことに時間を割いている余裕など、ある筈がない。
それに。
ADHDである僕自身は、『自由』が大好きで。
自分勝手に、失敗覚悟で動き回って来た人間です。
『こうしなければならない』という指示のない状況が、一番好きです。
その感覚で、部下に対して、『どう仕事してもいい』『失敗しても構わない』『それを一緒に反省して、成長して行こう』と再三伝え。
それで十分だと思ってしまうのですが。
こういう状況――数学で喩えれば、『公式を用いずに解け』とでも言われたような状況は、多くの人にとっては、かなり困惑をもたらすものであるようで。
皆、動けなくなってしまうのです。
でも、若い僕は、そんな彼らの心情など理解出来ない。
――何をしても良いと言っているのに、何故動かない? やる気がないのか?
――彼らが動かないせいで、俺の仕事がまた増えてしまうじゃないか。
そんなことを思って、苛々してしまう。
そしてその苛々を隠すことの出来ない社長を見て。
部下は萎縮してしまい、ますます動けなくなってしまう。
そして、あっさり辞めて行く。
代わりに新しい社員を雇いますが。
勿論、彼らもすぐには戦力にならない。
当然、僕はより忙しくなるせいで、より苛々する。
それを見た彼らは、ますます萎縮してしまい。
そしてまた、あっさり辞めて行く。
そこでまた、新しく社員を雇い入れますが。
この頃にはもう、僕の中から。
――どうせ彼らもすぐに辞めるんだろ?
という思いが、拭えなくなってしまい。
指導なんて、する筈もない。
ますます彼らと距離を取り。
そして案の定、彼らはすぐに辞めて行く。
こんな悪循環が発生してしまうのです。
それでも。
ADHDの僕は、失敗するのは当たり前。
こういう経験を積み重ねて、試行錯誤の末に、上司として成長して行く――筈なのですが。
それが出来ません。
何せ。
僕は、何も『試行』をしないのです。
社員達を放置するだけなのです。
そうして、辞められて行くだけなのです。
ただの『錯誤』を繰り返すだけです。
伸びる筈もないのです。
かくして。
『一人会社のトップ』としては、素晴らしく順調な日々を送った僕も。
『会社組織のトップ』としては、酷い有様で。
仕事ばかりで、ストレスの絶えない毎日になりました。
当然、家族など放置。
見事に、離婚することとなってしまいます。
ただ、それでも。
僕の会社は、非常に小さなものであって。
しかも、台湾の物価は非常に低いお陰で、コストは低く抑えられる。
その一方で、客である日本人駐在員家庭は金持ちばかり――授業料設定は非常に高い。
だから。
僕が『上司』として無能であるために、人事に失敗し続け。
他の社員が、殆ど利益を生み出せない――むしろ赤字を出すような状況であっても。
一人会社の時代同様、僕自身が、優秀な『プレイヤー』であったお陰で。
十分な利益を出し続けることが出来ました。
そのため、
僕は一人、それなりに贅沢な部屋に住み、遠慮なくそこを汚部屋にして。
三日ほど休みがあれば、アジア各地に出かけて、それなりに素晴らしい風景を見て、それなりに贅沢なホテルに泊まる。
そんな生活を送ることで。
それなりにストレスも軽減することは出来ていたのです。
――しかし。
そんな日々も、勿論長くは続きません。
『プレイヤー』としては有能であったお陰で、『上司』としては無能であることを補えたものの。
『社長』としては、完璧に無能であったことが。
僕の会社に、完全な崩壊をもたらすのです。
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