【読書感想文】風よ あらしよ

村山由佳
2020
集英社


私だったら
目をつけられるようなことは慎むわ
愛する人との生活を守るため
愛する人との子どもたちを守るため
迎合しない でもそれについて言及しない
距離をとる
守りに入っていただろうと思う
でもそれは
愛する人を裏切ること
愛する人を一人にすること
愛する人との連帯を失うこと
愛する人を失うこと

妻からも 愛人からも奪って築き上げた生活
愛情 信頼
もう野枝は 戻れなくなっていたのだろうとも思う
どこにも
出会う前にも いない生活にも
意味や価値を見出だせなくなった
「そんなものよりも大事だ」と
「比べるまでもない」「比べるものではない」と
言ったかもしれない
それが自分のアイデンティティー
思想を失って権力に屈することは
すなわち脱け殻になることだ

子を7人も産んで 野枝は
女性として 体は確実に
疲れていたのだろうとも思う
日々世話をし、共に暮らし
文字を書き 金に換え 飯を食わせ
育てるのは簡単なことではないから
子を孕み 産み落とし 自身の変化を受け入れて
産後って、産む前に戻ることじゃない
産む前もってなんか二度と戻れない
人間を 産み出すということ
命を賭して産んだから
いまさら怖くなかったのか
自分のやることに命を賭けることが

子の価値や権利が
認められていなかったのでしょう
子は目的ではなくただの結果
子どものために生きよう じゃなくて
できたから産むし 産んだら育てるし
ただそれだけのこと
育てられなかったらどこかへ
そこに愛情がなかったとは思いたくないけど
もっともっとシンプルでドライ
そうならざるを得なかった時代

ものをいうのが怖くなかったのだろうか
度重なる批判
脅迫だって
親しくしていた人たちから言葉で殴られたことも
それでも
言い続け 書き続け
最期まで
言わずにはおれない性だったのか
いまなら自己顕示欲や承認欲求で片付けられてしまうかもしれない
正しいことを貫く 世の中を変えることを使命だと気づいて
正義と共に心中した

死ぬことなんか怖くなかった
正義はそんなに大事か
命より子どもより大事なのか

どうにか自分らしさを失わないまま
生きる術はなかったのか


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