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ジンマ、来ませり 第1話 『咎人』

■ あらすじ
人と妖が共生する世界『アマテラス』。そこに桜花という名の少女がいた。ある日、桜花は友人達を誘って里の掟で立ち入ることを固く禁じられている禁地に足を踏み入れてしまう。そこで世界の真実を知ってしまった。それは天獣によって滅ぼされた文明世界の残骸。里と地上世界を繋ぐ岩戸の封印を桜花が解いてしまったことで天獣が里に侵入してしまい里は滅んでしまった。数年後、成長した桜花は最強の二つ名を持つ討伐士になり、天獣への憎しみと、愚かだった自分に対する自責の念を胸に秘めながら桜花は叫ぶ。「ジンマ、来ませり!」と。それは百魔を呼び出す招来呪文。天獣の手から故郷を取り戻すため、桜花は孤独な戦いを続ける。

▶主要な登場人物や用語の説明

■ 登場人物

●主人公 桜花 12歳 

 剣聖の名を冠する最強の討伐士。『神魔刀』という神器を使い、『ジンマ』と呼ばれる使い魔を使役する。
「ジンマ、来ませり」の招来呪文によって様々な使い魔を召喚する。
 幼い頃は活発で明るい性格の持主であったが、現在は無口で必要以外のことは喋らず、暗く沈んだ眼をしている。心にくすぶっているのは天獣に対する憎しみと罪悪感のみ。好奇心から里の掟を破った為に、友人や父のみならず故郷を天獣に滅ぼされてしまった。以来、全ての天獣を滅ぼさんとする執念で齢12にして最強の二つ名を持つ討伐士となった。
 アマテラス世界を滅亡の危機に瀕しさしめた原因を作った張本人として、周囲の者からは『咎人』と呼ばれ忌み嫌われている。
 本人もそれを事実と認識しており、例え見知らぬ者に罵声を浴びせられたり石を投げつけられようとも、甘んじて受け入れている。

●最強の使い魔 オロチ 外見年齢16歳 

 桜花の使役する『ジンマ』の中でも最強クラスの能力を持つ。見た目は人間の少年そのもの。
 他の使い魔とは違い、自分自身の意志で実体化することが可能。
 世界の命運には興味がなく、あまりに強すぎる自我の為、たびたび桜花の支配下から解放され、よく意見を対立させる。それもすべては桜花の身を案じてのこと。反抗的な態度は本音の裏返しであり、自分を屈服させた桜花に対して主従の敬愛以上の感情を持っている。
 鋭い眼光。不敵にほくそ笑む口元。豪快豪胆を絵に描いたような性格で、戦闘狂。しかし、それとは裏腹に子供や小動物には好かれる。本当は心優しい性格なのかもしれない。全身に施された封印紋。その正体は魔獣ヤマタノオロチである。

●神魔刀について

 神魔刀には百体のジンマが封印されている。封印されているジンマと戦い勝利し、屈服させれば契約後、使い魔として使役することが可能。
 それ以上に、ジンマの封印を解けば解くほど、神魔刀自体の能力も上昇する。仮に全てのジンマの封印を解除したならば、神をも超越する力を得ることが出来ると云われている。実際は最高神の力を与えられ不死の存在となる。
 世界に神魔刀は十二振り存在する。
 神魔刀にも自我があり、それぞれ性格や属性が異なる。
 桜花の所有する神魔刀は女性人格だがロリコンでもあり、なにかにつけて桜花にセクハラ発言をしてくる。
 所有者は各自、神魔刀に名前を付けている。
 桜花の神魔刀の名は知世チセ。神界語で家を意味する。

 神魔刀の自我は前所有者の魂。代々神魔刀の継承者は死す時に神魔刀に魂を移す。その役割は神魔刀に封じられているジンマの統率。現所有者が死亡すると役割を終えた魂は昇天する。真名を明かせば呪いが発動して魂は消滅するという枷がある。それはある種の呪いであろう。

●ジンマとの契約について

 神魔刀の継承者は、封じ込められているジンマと戦い勝利することによって彼等を使い魔にすることが可能。その際、刀の柄をジンマの胸に当て「我に捧げよ」と唱えると従属の鎖の呪いで契約を完了する。

●ジンマを滅ぼすには?

 通常、ジンマは戦いに敗れ消滅してもそれは刀に戻るだけ。霊力が戻ればまた現世することが可能になる。だが、神魔刀でジンマの心臓を突き刺すとジンマは消滅してしまう。それは死と同義である。

●その他のジンマ

1)斬鬼ザンギ 外見年齢十七歳。

 赤髪の鬼娘。口癖は「ザンギちゃんに御任せあれ、姫様」。桜花のことを姫様と呼ぶ。得意料理は唐揚げ。桜花の世話役。家事全般を任されていて、鬼とは思えない柔和な物腰。お日様の様な笑顔が特徴的。だが、桜花に仇成す敵に対しては微塵の容赦もせず確実な死を与える。敵を屠る際は言葉を一言も発せず、凍り付いた笑顔を浮かべながらただ黙々と首を繰り裂く。四肢をもがれようとも桜花の為に笑いながら戦い続けるだろう。

2)サクヤ 外見年齢二十歳。女神族。

 炎の女神。クールビューティ。口数は少ない。しかし、それは感情を上手に表に出せないだけ。本当は子供や小動物が大好き。愛らしい外見の桜花のことも溺愛しているが人見知りな性格が災いし、いつも不機嫌だと誤解されている。

3)ルル 本名はルルコシンプ。外見年齢十五歳。水と恋を司る精霊。

 巫女の姿をしている。嫉妬深く、桜花を独り占めしたいと思っている。なので、いつも桜花の横に立つオロチのことが大嫌い。会うたびに二人は大喧嘩ばかりしている。

4)クー・シー 桜花からはクーとだけ呼ばれる。犬妖精。外見年齢子犬。

 主に癒し担当。だが、戦闘に突入すると大虎以上に身体を巨大化させ口から雷を吐いて攻撃する。

5)一反木綿 外見年齢三十歳。男性。

 フンドシから生まれた妖怪。いつもフンドシ一丁。服を着ることは敗北だと思い込んでいる。桜花からは「変態」と呼ばれている。筋肉隆々で暑苦しい性格。強きをくじき弱きを助ける。外見とは裏腹な正義漢。純粋な肉弾戦ならオロチを凌駕する実力者。何故かいつも両腕を組んで笑っている。

6)お米丸。外見年齢幼女。お米の神。

 普段はお米丸の名で癒し担当を担っている。ごじゃるー、ごじゃるーが口癖。というかそれしか喋れない。
 しかし、その正体は毘沙門天『剣王』の名を持つ武神。強大過ぎる霊力を抑える為に、普段はお米丸という幼女形態になっている。
 七つの封印を施され、一つ解放する度に神器を使用することが可能になる。全ての封印を解除された時、白き巨神となる。

■ シナリオ 本編

■ 第一話のシナリオ

『咎人』

 桜花の生まれ故郷の里が燃えている。
 天獣によって蹂躙される里の人々。
 脱出船に乗り込み、船上から里が天獣によって滅びていく光景を呆然と見つめている幼い桜花。
 その時、桜花を指差し、誰かが怒声を張り上げた。

男「咎人が! お前のせいで里は滅んだんだ!」

 戦慄する桜花。

 ━━回想終了。

■大会議場 昼

 世界中の里長や世界を統べる長老達が一堂に会し、天獣の対策会議を行っている。

長老A「もはや一刻の猶予もない。今すぐ全軍をもって天獣の本拠地を殲滅すべきだ」

長老B「三年で二割の人命が失われた。このままでは一年ともたず我らは天獣の餌よ」

長老C「あの咎人さえおらなんだら、このようなことには」

大長老「皆の者、安心せよ。我らには十二本の神魔刀と不敗将軍と名高い黄龍将軍がついておる。彼に全軍を任せればすぐにでも天獣どもを根絶やしにしてくれるだろうて」

 大長老の言葉に、歓声が上がる。

大長老「では、総反抗作戦を全人類の総意として我が御神に奏上申し奉ろうではないか」

 その時、会場内に現れる人影。桜花剣聖である。

 会場から「咎人めが」という声が一斉に上がる。

大長老「咎人……いや、桜花剣聖殿、何用か?」

 桜花は円卓に向かうと、手に持っていたものを投げ入れた。

 それは黄龍将軍の生首であった。

大長老「これは黄龍将軍か!?」

長老A「桜花剣聖! 気でも狂ったか!? 誰か、この狂人を斬り捨てよ!」

 その時、桜花が帯刀している神魔刀が光り輝くと、一人の少年が現れる。

オロチ「吠えるのは後にして、我が主の土産をよぉく見やがれ!」

 大長老が黄龍将軍の生首に目を向けると、生首は突然笑い出した。

生首「アマテラス世界の全住人に告げる。今すぐ我らの軍門に降れ。さすれば我らの家畜として生き永らえることを許してやろう」

オロチ「てめえらの頼りにしていた大将軍様とやらは、ご覧の通り天獣に寄生されてお陀仏しちまってたってことだよ」

生首「無駄な抵抗を止めよ! どの道貴様らに残された選択肢は我らの餌になるより他はないのだ!!!」

オロチ「うるせえ! オレが喋ってんだろうがよ!!」

 生首はオロチの一撃によって円卓ごと粉々に砕け散った。

大長老「そうか。どうやら我々は桜花剣聖殿に救われたようだな」

 桜花は無言のまま、大長老の前に歩み寄ると、神魔刀を抜き大長老に斬りかかった。
その瞬間、会場内から悲鳴が上がる。斬りつけられた大長老の姿が異形に変貌していた。

長老A「ま、まさか、大長老様までもが天獣に寄生されたというのか!?」

桜花「逃げなさい! 早く!」

 桜花の叫びと同時に、天獣に寄生された大長老は大きく裂けた口から閃光を発した。

オロチ「護衛士ども! てめえらは老いぼれどもを連れてとっとと下がりやがれ!」

 桜花、オロチ、異形に変貌した大長老と対峙する。

大長老「咎人よ。汝も来るがいい。こちらは極楽浄土よ」

桜花「反吐が出るわね。私は御免被るわ」

大長老「ならば、ここで死ぬがよかろう!」

 大長老は桜花に対して全身から刃の様な触手を射出する。

 斬撃が触手を斬り落とした。桜花が神魔刀を身構え、大長老の前に躍り出た。

 桜花、神魔刀を両手で持つと、神楽を舞い始める。

大長老「神楽を舞うだと? どういうつもりだ!」怒声を発しながら触手を桜花に射出する。

 しかし、触手は神楽を舞う桜花の幻を貫くのみだった。

大長老「何故だ? 何故攻撃が当たらぬのだ!?」

 桜花の舞に反応するかの様に、周囲の空間が変貌する。

 桜花の背後に無数の門が出現する。その背後には巨大な姿をした女神の幻影も映し出されていた。

大長老「あ、あれは、もしや、女神アマ……」

 神楽を舞い終え、桜花は神魔刀を天に掲げながら叫んだ。

桜花「ジンマ、来ませり。おいでませ、炎の女神サクヤ」

 桜花の呼びかけに呼応し、背後の門が開かれ、炎を纏った女神サクヤが現れる。

桜花「サクヤ。大長老……いえ、天獣を焼き滅ぼせ」

サクヤ「おおせのままに、桜花様」

 サクヤは爆炎の魔法を大長老に向け放つ。その射線上にオロチがおり、彼は慌ててサクヤの爆炎をかわす。

 爆炎は大長老を燃やし尽くさんと爆発、大炎上した。

オロチ「このクソ女神! オレまで焼き殺す気か!?」

サクヤ「あら、クソ蛇、いたんですの?」くく、と嘲笑する。

オロチ「面白い。天獣より先に、てめえをぶち殺してやってもいいんだぜ?」

 次の瞬間、爆炎の中より無数の触手が二人に襲い掛かる。

 二人は難なくそれを回避する。

オロチ「この駄女神が! 仕留め損ないやがったな!」

サクヤ「私の爆炎に耐えるとは、なかなかのものですわね。誰かさんと違って」オロチを見て鼻で笑う。

 オロチ、怒鳴るのを堪えて大長老に身構える。

オロチ「てめえ、後で覚えておけよ」

 触手は再び二人に襲い掛かる。

 桜花は更に舞を続ける。

桜花「神魔解放! 我が魂を捧げる。おいでませ、お米丸。汝、第一の封印門を解放せよ」

 桜花の叫びに呼応し、神魔刀が光り輝くと、彼女の目の前に兜を被った小人精霊が現れる。

お米丸「ごじゃるー!!!」叫ぶと、小さな身体から光が発せられた。

 次の瞬間、お米丸は見目麗しい真紅の甲冑に身を包んだ女武者の姿に変貌していた。

桜花「お米丸! 皆を助けて!」

お米丸「御意、我が主」

 お米丸は弓を頭上に向けて射った。放たれた矢は光の矢となり、無数に増えると触手に降り注いだ。

お米丸「その矢から先は通しません!」

 会場内の人々に襲い掛かった触手はお米丸の放った矢によって次々射られると消滅していった。

 爆炎を振り払い、更なる異形へと進化した大長老が現れる。

大長老「私に炎は効かぬよ。むしろご馳走じゃて」

 オロチ、サクヤに視線を向けると嘲るように「役立たずじゃん、お前」と一笑に付した。

 サクヤ、顔を真っ赤にしながらオロチを睨みつけた。

大長老「ほれ、食い過ぎたでな、少し返すとしよう」

 大長老はそう言って、大きく裂けた口から火の玉を二発吐き出した。

 桜花は放たれた火の玉を神魔刀で斬り裂いた。

オロチ「生ぬるいんだよ!」放たれた火球を拳で砕く。

桜花「お米丸!」

お米丸「御意!」再び無数の光の矢を大長老に向けて放った。

 しかし、その攻撃を今度は大長老が口から放った爆炎によって掻き消されてしまう。

 桜花たちに業火が襲い掛かる。

 サクヤは桜花の前に躍り出ると目の前に結界を構築し、攻撃を防ぐ。

 再び、大長老は攻撃を放とうとする。

 桜花は後ろを振り返り、未だに会場内には逃げ遅れた者達が大勢いることを確認した。

桜花「ジンマ、来ませり。おいでませ、水精霊ルル」

 桜花の呼びかけに反応し、水の羽衣に身を包んだ少女━━水精霊ルルが現れる。

桜花「ルル、水壁を展開。急いで!」

ルル「了解です、我が主様」

 ルルは天に祈りを捧げる様なポーズを取ると、歌声のようなものを発し、周囲に水壁を展開した。水壁が逃げ遅れた人々を守る結界となる。

オロチ「チッ、あんなクソどもを守らなくてもいいだろうに」

サクヤ「あら、珍しいですこと。それには私も激しく同意いたしますわ」

 大長老が攻撃を放とうとした瞬間、桜花は即座に斬り込んだ。

 しかし、爆炎が放たれるのが一瞬早かった。桜花はその瞬間、爆炎に飲み込まれた。

 爆発の中から、桜花を抱いたオロチが飛び出て来る。

オロチ「炎に飛び込む馬鹿があるか!」

 桜花、一瞬、驚いた表情を浮かべる。

桜花「心配、してくれたんだ」微笑する。

 桜花の微笑を見て、オロチは驚きのあまり言葉を飲み込む。

オロチ〈笑いやがった……びっくりさせやがる〉

大長老「無駄だ! 私を、天獣を滅ぼすことは不可能なのだ。全てを諦め、我らを受け入れるのだ!」

桜花「我は桜花。アマテラス世界における大罪人なり。我が使命は命を賭して天獣どもを殲滅することのみ。故に、天獣の甘言など、我が胸には届かないと知りなさい」

大長老「愚者めが。ならば、このまま焼き死ぬがよい」

 桜花は神魔刀を上段に構えた。

桜花「神魔刀よ、我が魂を喰らえ。神魔覚醒。第二封印門、解放」

 桜花の言葉に反応するかのように、神魔刀の刀身から蒼炎が立ち昇った。

大長老「馬鹿の一つ覚えか! 私に炎が効かぬというのが分からぬか」

桜花「ジンマ、来ませり。おいでませ、黒羊。来りて我が刀に宿りたまえ」

 桜花の召喚に応じ、執事姿の若い男が現れる。

黒羊「かしこまりました、お嬢様」そう言って、身体を霧状に変化させると神魔刀の中に吸い込まれていった。

大長老「なにか恐ろし気な神か悪魔を呼び出すかと思えば、優男一人とは! 笑わせてくれる!」

 次の瞬間、桜花は舞う様に踏み込み、音を置き去りにして大長老を袈裟斬りにする。

 大長老の身体は肩から腰にかけて一刀両断される。

大長老「馬鹿な! 火を纏った攻撃が私に通用するはずがない!」

桜花「刀身にまとった蒼い炎は魂を燃やしたもの。今召喚したジンマは『死神』よ。彼を神魔刀に宿すことによって、私はどんな相手でも斬ることが出来るの。ほんのちょっとだけ、魂を燃料にして、ね」

大長老「己の魂を燃やすとは、貴様、正気か!? 狂っている」

桜花「ええ、そうよ。正気がどんなものだったのか、もう忘れたわ」

 そう言って、桜花は神魔刀の炎を更に激しく燃え盛らせた。

 桜花、大長老に止めを刺す。顔面に蒼炎を纏った神魔刀を突き立てられ、大長老は断末魔の叫びを上げた。

 桜花は神魔刀を鞘に戻すと、会場内に残る長老や里長達に向けて叫んだ。

桜花「総反抗作戦の中止を進言いたします!」

 桜花の言葉に、会場内はざわついた。

桜花「既に天獣の脅威は内部まで侵食しております。情報は敵に筒抜けであり、このまま全軍を挙げての作戦は自殺行為に等しき愚策。ここは防戦に徹することが望ましいと愚考いたします」

長老A「防戦では滅びるのを待つだけではないか」

長老B「咎人めが、一匹二匹の天獣を滅ぼした程度で調子に乗るではないわ!」

長老C「ならば、お主はどうせよと言うのだ! そこまで吠えるならば代案はあるのだろうな?」

桜花「代案はございます。全ては私、桜花剣聖めに御任せを。私が全ての元凶を絶ち、世界を救ってご覧にいれましょうぞ」

長老A「ほう、そこまで豪語するのであれば、さぞ素晴らしい作戦を思いついたのであろうな。して、その作戦内容とは?」

桜花「それは……お教えすることはかないません」

 桜花の予想外の返答に、会場内は騒然となり怒声に塗れた。

長老A「教えられぬとはどういうことだ!!!」

桜花「作戦が洩れれば私の計画は確実に失敗します。命は惜しみませんが、犬死だけはごめんです」

長老B「いいから教えろ! でなければ、作戦の許可は出せぬぞ!」

桜花「それで構いません」

 静まり返る会場内。皆、絶句していた。

長老A「貴様、それが何を意味しているのか、分かっているのか?」

桜花「はい、承知しております」

 一瞬の静寂の後、再び会場内は怒声に塗れた。

桜花「オロチ。先に外に行っていて」

オロチ「あん? なんでだよ?」

桜花「お願いよ」オロチの瞳を哀願するように見つめる。

 桜花は、三人に対しても外で待つように目配せする。

オロチ「外にいる」舌打ちし、その場から姿を消す。

 オロチにならって、他の三人も姿を消した。

桜花「我、桜花剣聖に全てを御任せあれ。なにとぞ」頭を垂れる。

 その時、「咎人がなにをぬかすか!」という罵声と共に石が桜花に投げつけられた。

 桜花は甘んじてそれを受け、額から流血する。

桜花「其れで、良い」静かに瞳を閉じ、桜花は悪意をその身に受けた。次々放たれる投石により、桜花はたちどころに血塗れになる。

 その時、罵声と投石が止んだ。

 桜花が瞳を開けると、そこには四人の姿が。

オロチ「次、石を投げる奴は命を投げるのと同意と見なすぜ?」

サクヤ「皆様、炎はお好きかしら?」

ルル「焼死が御嫌なら、溺死はいかがかしら? この会場内を水で満たすくらい、造作もありませんよ?」

お米丸「拙者の矢もまだまだ在庫が十分でござるよ。射って欲しい方は挙手をお願いします、でござるよ」

桜花「命令違反」ぼそっと呟く。だが、口元が微笑していた。

 桜花は再び会場内にいる全員に向けて叫んだ。

桜花「これより桜花は世界を救う為に単独行動をとらせていただきます! それでは皆様、ごきげんよう」

 桜花達はその場から立ち去った。

 長老達は怒りに塗れる。

長老A「全ての神魔刀剣士に通達せよ! 咎人……いや、反逆者桜花を討て、とな!」

■ 同時刻 会議場から遠く離れた街道 昼

 外に脱出した桜花一行。

 サクヤとルルの二人は、桜花の負った傷を見て大わらわになる。

サクヤ「きゃあああああ! 桜花様、すぐに治療を!」

桜花「いや、大丈夫だよ」

 ルル、笑顔に憎悪を静かにたたえる。

ルル「というか、さっきの会場、沈めましょ?」

 桜花、大騒ぎするサクヤとルルを必死になだめる。

 オロチは木の上から桜花をジッと見つめる。

オロチ「オレは別に人間が生きようと滅びようが、どっちでもかまわないんだがな」そう言って、口元だけ邪に微笑む。

オロチ〈全てが終わった後、オレと死ぬまで戦ってくれさえすればな〉


 


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