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ジンマ、来ませり 第2話 『天獣 其の一』

■ ??? 森 昼

 一人の少女が、草むらに落ちていた宝玉を見つけ、手にする。

少女「キレイな玉」

 次の瞬間、宝玉は妖し気な光を発した。

■ 牢獄 満月の晩

 牢獄にいる桜花とオロチ。
 オロチは壁際で鎖に繋がれている。
 外からは人々の悲鳴が響いて来る。

オロチ「オレの封印を解け。そうしたら、お前を助けてやるよ、ガキ」

━━時間はほんの少し遡る。

■ 桜花の夢の中 昼

  いつも見る夢の中にいる桜花。
  その夢では、桜花が毎回、少年(オロチ)の胸を刀で突き刺していた。
  しかし、何故か自分は号泣していて、少年は微笑んでいた。理由が分からない。
  そして、最後には必ず銀髪の女性が自分を優しく抱いて目が覚める。

■ 桜花の自宅 自室 早朝

義輝「桜花、起きなさい。寺子屋の時間だぞ」

 父の声で目覚める桜花。

〈またあのヘンテコな夢。これで何度目かしら? ま、どうでもいっか〉

 桜花はベッドから飛び起きる。

桜花「お父さん、おはよう! それじゃ行って来ます!」

 桜花、食卓に用意されていた弁当と朝食のおにぎりを掴み上げると、そのまま家を飛び出る。

義輝「やれやれ、とんだお転婆だ。誰に似たのやら」頭を掻きながら苦笑する。

■ 同刻 通学路 早朝

 おにぎりを頬張る桜花。大きな影にぶつかる。
 見ると、それは大きな身体を持った一つ目の妖。

一つ目「大丈夫か、桜花?」微笑みながら桜花を起こす。

桜花「ありがと、一つ目のおっちゃん! ぶつかってごめんね!」

 桜花、笑顔で手を振って走り出す。
 一つ目の妖、笑顔で桜花に手を振り返す。

◎ナレーション

〈ここは人と妖、神族が住まうアマテラス世界。ここでは誰もが平等だった〉

〈争いごともなく、人々は平和で穏やかな生活を営んでいた〉

 里全体の光景。様々な妖や神族が人と平穏な暮らしを送っている。

━━桜花の通学場面に戻る。

 桜花の視線の先に、一人の少女の姿が。友人の早苗である。

桜花「おーい、早苗ちゃん! おっはよう!」

 桜花、早苗と並んで歩き出す。

早苗「桜花ちゃん、おはよう。今日も元気だねぇ」

桜花「私から元気を取ったら可愛らしさしか残らないじゃないか。元気が一番! 勉強は……一番最後!」

 クスクスと微笑む早苗。
 そこに、他の友人たちも合流する。妖と人間、数は半々。
 笑いながら桜花たちは寺子屋に歩いて行った。

■ 寺子屋 午後

 義輝、教壇に立ち授業を行っている。

義輝「であるからして、我らアマテラス世界の民は人、妖、神族と共存の道を選んだというわけだ。ここ、歴史の試験に出すからよく復習しておくようにな」

 義輝、目線を桜花に向ける。
 桜花、涎を垂らしながら舟をこいでいる。
 義輝、チョークを桜花に投げつけ、それが額にヒットする。

桜花「痛い! なにすんのさ、お父さん!?」涙を流しながらおでこを押さえる。

 教室内に子供たちの笑い声が沸き起こった。

義輝「寺子屋ではお師さんと呼びなさいと、いつも言っているだろう。今度舟をこいだら一週間、便所掃除の刑にするぞ?」

桜花「はーい、おと……お師さん」

 その時、授業終了の鐘が鳴り響く。

義輝「よし、それじゃ本日はこれまで。あと、分かっているとは思うが、決して岩戸に近づいてはならんぞ。岩戸に近づくことは里の掟として禁じられているからな」

桜花「はーい、質問です! どうして岩戸に行ってはいけないんでしょうか?」

義輝「言い伝えによれば、岩戸には『天獣』と呼ばれる悪魔が封じられていて、もし禁を破り岩戸の扉を開けば世界が滅びると言われている。これは決して迷信や御伽噺ではなく、実際に一度、人の世界が天獣によって滅ぼされたらしいからだ」

 息を呑む生徒たち。

早苗「お師様。もし、もしも天獣が岩戸の封印を自分で破って出てきたら早苗たちはどうなるんでしょうか?」怯えた表情。
 
 早苗の言葉を聞き、恐怖に怯える生徒たち。しかし、桜花だけはニヤニヤとしている。

義輝「その時はワシがこの『神魔刀』で天獣を退治してやる。世界で十二人しかいない神魔剣士の名は伊達ではないぞ。お前たちを守るくらいは造作もない。だから、心配するでない」

 義輝、そう言って笑いながら早苗の頭を撫でてやる。
 早苗、頬を染めながら義輝に微笑み返す。
 桜花、何かを企みほくそ笑む。

■ 里の外れ 放課後

 友人たちと遊んでいる桜花。
 桜花、ふと視線の先に、奇妙な建物を見つける。

桜花「あれはなんだろ?」

早苗「桜花ちゃん、あれは牢獄だよ」

桜花「牢獄? 誰か悪いことでもして放り込まれているの?」

早苗「噂によると子供を喰らう悪神が封じ込まれているって」

桜花「へえ。それじゃ、どんな悪い奴がいるのか見に行ってみよっか」

早苗「ダメだよ。私、怖いわ」

桜花「それじゃ、代わりに岩戸に行ってみない?」

 友人達、驚いた表情を浮かべる。

桜花「実は、じゃーん。お父さんの書斎からこれをくすねてきたんだ」

 桜花、そう言って懐から宝玉を取り出す。

桜花「この間偶然聞いちゃったんだ。この宝玉で岩戸の扉を開くことが出来るって。お父さん今日は夜勤だし、内緒で岩戸に行ってみようと思ってさ」

早苗「桜花ちゃん! それはもっとダメだよ。もし、岩戸の封印が破られちゃったら、世界が滅んじゃうんだよ?」

桜花「大丈夫だって! その時はお父さんが助けてくれるって言ってたっしょ? ちょっと覗いて帰って来るだけだからさ! みんなも岩戸の向こうがどうなってるか興味ない?」

 友人達、お互いに顔を見合わせる。
 結果、好奇心に負け桜花と行動を共にすることに。

■ 同刻 岩戸 夕方

 里の外れにある岩戸の前に佇む桜花たち。
 周囲に人の気配はない。
 桜花、宝玉を岩戸の前に掲げる。
 すると、岩戸の扉は重たい音を響かせながらゆっくりと開いた。
 瞳を輝かせながら、桜花たちは岩戸の中に入って行った。

■ 同刻 岩戸 内部 

 岩戸の内部は、青白い光に照らされていた。
 内部は洞窟のような石の道が続くだけ。
 桜花たちはゆっくりと進んでいった。

早苗「桜花ちゃん。やっぱり帰ろうよ。何か嫌な予感がするの」桜花の腕にしがみつく。
桜花「臆病だな、早苗ちゃんは。なんならここで待っていてもいいんだよ?」

 早苗、周囲を見回す。あまりに不気味な雰囲気に慄き、首を横に振る。
 そのまま進むと、扉が現れた。
 桜花は宝玉を取り出すと、再び扉を開けた。
 扉はゴゴゴゴ、と重たい音を立てて開いた。

桜花「よっしゃ。中にはどんな化け物がいるのかな?」
早苗「桜花ちゃん、驚かすのは止めて」

 桜花、ひひ、と悪戯な笑みを浮かべる。
 桜花たちは意気揚々と扉の先に歩を進めた。

■ 同刻 岩戸の外世界 夕方

 そこは別世界だった。
 見渡す限り瓦礫の山が築き上げられている。見たこともない建造物が朽ち果て、一つの巨大な街が滅んでいる光景が広がっていた。
 そこは、かつての人類文明が滅亡した姿。
 悪夢の様な光景を目の当たりにして、桜花たちは顔を蒼白させる。

桜花「これは……なに?」驚愕に戦慄く。

早苗「桜花ちゃん! 帰ろう。ここにいてはいけない気がする!」

桜花「うん、分かった。みんな、早く戻ろう」

 その時、桜花の頬になにかが滴り落ちる。
 桜花、恐る恐る頬に滴り落ちたものを手で拭うと驚愕に顔を強張らせる。
 それはドス黒い血だった。
 桜花、ゆっくりと顔を見上げる。
 その視線の先に、友人が宙に浮かんでいる姿が見えた。頭部を大きな手で鷲掴みにされ砕かれているのが見えた。
 そこには見たこともない巨躯の異形が佇んでいた。
 たちまち、友人達から悲鳴が上がる。
 桜花、恐怖のあまり立ち尽くす。
 他の友人たちは一目散に岩戸の出入り口に向けて逃げ出す。

早苗「桜花ちゃん! 逃げて!」

 早苗、桜花を突き飛ばす。
 次の瞬間、早苗は別の異形に捕らわれる。

桜花「早苗ちゃん!」

早苗「桜花ちゃん、助けて!」

 しかし、早苗は異形の大きな手で一息に握り潰された。
 早苗の絶命する姿を見て、桜花は力なく膝をついた。
 背後から友人たちの悲鳴が次々と上がる。
 桜花、ゆっくりと振り返ると、逃げ出した友人たちは全員、他の異形に捕らわれていた。
 友人たちは桜花に救いを求めるも、早苗と同じ運命をたどる。全員、異形に握り潰される。
 一人残った桜花。異形たちが迫りくる。

??「ジンマ、来ませり!」

 次の瞬間、桜花の前に甲冑を着込んだ鬼の武者が現れる。
 鬼武者は桜花に襲い掛かろうとした一体の異形を刀で斬り裂いた。

義輝「大丈夫か、桜花!」

桜花「お父さん? お、お父さん!!」義輝にしがみつく。

 異形、義輝に襲い掛かる。
 義輝、桜花を胸に抱いたまま、一太刀で異形を斬り伏せた。
 桜花と義輝、大勢の異形に取り囲まれる。

義輝「ジンマ、来ませり! 顕現せよ、戦鬼の軍団!」

 義輝の招来に呪文に応じ、二十体以上の鬼武者の一団が現れる。
 鬼武者たちは、ただちに異形どもに斬りかかった。

義輝「鬼武者どもが時を稼いでいるうちに退くぞ!」

桜花「お父さん、待って! 早苗ちゃんたちがまだ……!」

義輝「手遅れだ!」強く歯ぎしりし、口から血が流れ落ちる。

 義輝、そのまま駆け出し、岩戸の中に飛び込む。
 桜花、早苗や友人たちの骸に手を伸ばす。

桜花「早苗ちゃん!!!」

 骸と化した早苗の瞳から涙が零れ落ちた。

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