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非嘔吐過食と歩む25年・私のダイエット遍歴⑥

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◆【25〜27歳・絵描きの卵でフリーター】順調に太りゆく中、人生最大の片想い

「自分の生きたいように生きる」と決めた私は、イタリアンレストランで働きながら、絵の学校に通うことにした。小さな頃から絵が得意で、女優を目指す以前はイラストレーターになりたかったんである。(だからこそ、推しのイラストサイトも運営できた)
専門学校ではないんだが、業界では名の知れたちょっとしたスクール。すごくオシャレで、独特な雰囲気の学校だった。何年か前に、廃校になってしまったんだけれど。

週に2回、午前中の4時間だけ絵を描きに行って、それ以外はアルバイトに明け暮れた。

アルバイトは夜帯がメインだったが、人がいない時や土曜日はランチ帯にも入った。ランチに入る日は11時〜23時まで働く。途中2時間ほどはアイドルタイムだったが、休憩中でも時給を出してくれるいう高待遇だったのでお金はかなり稼げた。

この頃は、とにかくよく歩いた。自己啓発本で「早朝2時間ウォーキングが良い」とか「歩くたびに〝ありがとう″と唱えると良い」とか、そういうのを見て実践していたんである。

朝5時に起きて、2時間ほど歩いてから帰宅し、朝ごはんを食べて準備して、絵の学校に行き、夜はそのままバイトなんてこともしょっちゅう。

ただ、歩いている割に、そんなに痩せなかった。むしろ順調に太っていった。
と、いうのも、週に1度程度の過食衝動が、まだ治まらずにいた。

休みの日や仕事帰りなど、リラックスタイムが取れるタイミングに合わせてコンビニに寄る。

店内を物色し、菓子パンを数個、生クリーム系のデザート、和菓子系のデザート、クッキーやチョコなどの甘いお菓子を次々カゴに放り込み、口直し用のしょっぱいお菓子もいくつか選ぶ。お菓子だけではなく、おにぎりや、麺類などのご飯系も2種類くらい買う。あとはアイス。アイスクリームは別腹だから、食後に食べたくなるので必ず買う。暴食すると喉が乾くため、ペットボトルのお茶と、あと炭酸系も1本あると捗る。

炭酸は、消化を促す。

そんな感じで2〜3,000円ほど買い込み、帰宅次第、端から貪り食うのである。全部食べるのに1時間もかからない。30分もあれば平らげる。家に家族がいてゆっくりできなさそうな時は、公園のベンチで食べることもあった。

大体途中で気持ち悪くなって後悔するのがお決まりのコースで、どうしても食べきれない時は残りを捨てるのだが、もったいなくてチューイングだけすることもあった。そしてどんよりした気分で「明日からはダイエットだ」と決意する。

翌日は絶食するものの、午後からお腹が空いてきて、結局また何かしら食べてしまう。
こんなことをずっと繰り返していた。

なぜ食べるのか。その理由は自分でも分からないが、とにかく止められない衝動なのだ。衝動というよりも、気づくと自然に足がコンビニに向かってしまう。

大島弓子さんの『ダイエット』という漫画で、主人公の福ちゃんが「(過食をすることで)ニルヴァーナに辿り着く」というような一節があるんだが、それが自分の感覚にはいちばん近かった。過食は、私にとって瞑想のようなものだった。

過食衝動が治らないのに加えて、酒飲みになったことも太った要因である。

わたしの働くイタリアンレストランは、お酒の豊富さも売りで、ワインやらカクテルやら世界のビールが充実しており、それらの試飲や勉強をするうちに、私はすっかりお酒にハマってしまった。

日曜日はお店は営業しないので、土曜日の営業が終わると、みんなで近くのバーに飲みにいく。もちろん、始発が来るまで飲み明かす。

毎週の過食と深酒で、面接時にはスリムだった体もあっという間に浮腫んでぶっくぶくになった。この頃から、大体「163cm/63kg」が、わたしのデフォルト設定になる。

お気に入りのビール。

そんな中、わたしは人生最大の恋をした。
絵の学校で出会った、ひとつ下の男の子だ。(彼をT氏とする)

もう、ひと目見て「ビビビッ」と来た。
何がって、見た目がタイプど真ん中すぎたのもあるが、とにかく(一方的に)運命を感じ、「女はこの男こそを得め(by.筒井筒)」といった心地だった。理屈ではない。

実はT氏は、数回授業に出ただけですぐに学校には来なくなってしまったのだが、わたしはものすごいストーカー気質だったため、あらゆる手を尽くし、偶然を装いいつつ彼とコンタクトを取ることに成功した。そうして、順調に仲を深めていったのである。

当時、T氏には6つ年上の彼女がおり、結婚も考えているような話だった。
「彼女さんがいるなら、あんまり連絡取ったり遊んだりはできないよね」と探りを入れると、「大丈夫だ」ということだったので、ならばわたしも遠慮はしない。何しろ、こちとら運命を感じている。一緒に酒を飲みに行ったり、絵の展示を見に行ったり、なにかにつけて2人で出かける機会を作った。

そんなある日、私のバイト先に単身飲みに来たT氏から「俺と同じ職場で働かないか?」と誘われる。

その頃、イタリアンレストランには1年半ほど在籍していたのだが、家族経営ということもあって内部で色々と揉めており、すごく面倒臭いことになっていた。ちょうど辞めるなら今しかないというタイミングだった。

当時のT氏の職場では、Adobeのイラストレーターを使える人材を探していたようだ。わたしはちょうど、絵描きの卵として個展のDMを作成するのに独学でイラレを使い始めた頃だったので、「仕事しながら勉強になる上、T氏と働けるなんて最高の環境でしかない。渡りに船!」と二つ返事でOKした。

そうしてイタリアンレストランを辞めて、T氏と同じ職場で働くことになった。
この頃、T氏とは仕事でもプライベートでも、ほとんど一緒に過ごしているような感覚だった(少なくともわたしは)。
周りのパートさんや社員さんからも「2人は付き合ってるんだよね?」と度々聞かれた。はたから見てもそういう感じに見えたわけだから、わたしだけの勘違いではないと確信していた。

仕事終わりに飲みに行き、休みの日には出かける。一緒にグループ展を開催したり、T氏の好きなアーティストのクラブイベントを夜通し観に行ったりもした。

そうこうしてるうちにT氏が彼女と別れたのである。

これはチャンスでしかない!
わたしはすかさず告白をした。

すると信じられない答えが返ってきた。

「お前のことは好きだけど、それは異性としてではない。男友達みたいな感じ」

……はて?

男友達と、なにかい?
君は手を繋いだりするってぇのかい?
毎日のようにメールして、ご飯に行ったりするのかい??
夜通しチャットでお話ししながら、寝落ちしたりするのかい???

ショックを通り越して怒りが爆発したわたしは、何故だか、かえって開き直った。
その後もT氏とはそれまでと変わらない関係性を続け、折を見て何度となくアタックした。そして、何度もフラれ続けた。

多分5回くらい告白し、同じだけフラれたと思う。最後の方はもう、お決まりのコントのようになっていた。

ただ、わたし自身、彼にとってわたしが恋愛対象ではないこと、この恋が叶わないことは薄々勘づいていた。

何しろ彼の好みは「線が細いもの」なのだ。T氏が描く絵や、普段の趣味趣向から、そんなことはすぐに読み取れる。当然、異性の好みに関しても「細くてシュッとしてる人」が好みなんだろう(元カノもシュッとしていた)。

人生最大の恋ですら、体型のせいで叶わないなんてな。そしてこんなに好きなくせに、そのためのダイエットすら成功させられないわたしは、本当に意志軟弱だな。

わたしは自分を責めた。

当然、意志の力でなんとかできるのであれば、それは「過食」とは言わないので、自分の力だけでどうにかできる問題ではなかったのだが。


◆【27歳・変わらずフリーター】痩身サロンで10kg痩せる

告ってフラれてを繰り返してるうちに、T氏は違う職場に転職していった。「いい年した男なので、いつまでもフリーターではいられない」ということだった。

しばらくは忙しくてこれまでのようには会えなさそうだが、それでも交流は続いていたので、遅ればせながらわたしは一念発起。「会えない間に痩せてやろうじゃないか」と決意した。

とは言え、自分ひとりの力では痩せられる気がしない。わたしはネットであらゆる口コミを調べた結果、とあるおしゃれタウンにある、痩身サロンの門を叩くことにした。

そこは下半身痩せに特化したサロンだったので、脚がコンプレックスの私にはピッタリだったのだ。内容的には、今で言う「糖質制限+16時間断食」みたいなメニューをこなすので、そら痩せるわなって感じではあるが、プラスして下半身に効かせる独自のストレッチを施術してくれるとのことだった。

メンターがいると、褒められたくて頑張っちゃう優等生タイプのわたしである。ダイエットスタート時は、恒例の冬太りで69kgほどのドスコイ体型だったのが、2ヶ月ほどかけて58.5kgの標準体型まで大変化した!

それだけ減ればさすがに周りから「痩せたね!」と驚かれる。
この時は、Mサイズの服がどれでもするっと入るのが嬉しくて、普段買わないような服をたくさん買った。ミニスカートも買ったし、ピンク色の服もたくさん買った。

T氏にも久々に会ったら、体型の変化をすごく驚かれた。心なしか、態度が少し変わったような気もした。

ところがどっこい、いざ痩せてみると、わたしはT氏のことがそんなに好きではなくなっていた。

不思議なんだけれど、痩せていく過程で、自分が本当に求めているものが何なのか、少しずつ分かるようになっていったのである。
自分の身体と向き合った結果、それまで無視し続けていた心の声も聞こえるようになったのかもしれない。

わたしは、痩せていくうちに、職場にいるひとつ年上の社員のKさんのことが気になり始めていた。それまでも存在はなんとなく認識していたが、1年以上会話すらしたことがないし、接点は一切なかったんだが。

Kさんはマイペースで、のほほんとしていて、得体が知れずどことなく気持ち悪いんだけど(こら)、でもなんだか穏やかなオーラを放っており、見ていると気持ちが癒された。いつの間にかわたしは、癒しを求めてKさんを目で追うようになっていたのである。

「なんか、きっと、わたしにはこういうKさんみたいな人が必要なんだろうな。わたしをぞんざいに扱うT氏ではなくて」と思うようになっていった。

その後、色々あってとんとん拍子でKさんと付き合うことになる。

そのKさんが、今の夫です(爆)

ありがち〜!


◆【29歳・結婚】大体63kg

Kさんと付き合い始めた時は標準体型だったわたしだが、短期間の無理なダイエットで痩せた体型を維持することは難しい。
普通の食生活に戻せば、またたく間にリバウンドした。痩身サロンに高いお金を払ったのに、それが全て無駄になった。(いや、Kさんと付き合えたんだから、無駄ではないのか…?)

Kさんと付き合って1年後には、またデフォルトの「163cm/63kg」に戻っていた。どうもここがわたしのコンフォートゾーンのようだ。

だけど、Kさんはわたしが太っても何も変わらず穏やかだった。「太ったね」と責めることは絶対に無かったし、太っても態度を変えることもない。ありのままのわたしを、静かに受け入れてくれた。とにかく、穏やかな人なのだ。(というか、あまり他人に興味がない人種なのだが、それは後に結婚してから分かることである)

付き合った当日にお互いの結婚の意思をそれとなく確認していたため、半年で同棲を始め、交際1年半で正式にプロポーズを受け、2年目に結婚した。

一応職場内恋愛になるので、結婚もするとなると同じ職場にはいられなくなる。Kさんは社員だし、ちょうど部門異動などでストレスを抱えていたパートのわたしが辞める方がスムーズだと思ったので、結婚に先駆けて退職した。

その後、色々なアルバイトを転々としたが、元々メンタルが安定しないわたしはどれも長く続けられず、結婚前からすでに専業主婦のように彼の収入に甘えていた。

葬儀屋でバイトして、遺族の悲しみが伝播し過呼吸でぶっ倒れて、1日で辞めたこともあった。

なんでこうなっちゃうんだろう。体型も維持できないし、まともに働くこともできない。
本当に自分が嫌になる。

一方夫は、自分を責めて泣いてばかりのわたしに、いつも優しくしてくれた。
わたしが働きもせず、ろくに家事もやらないで家でゴロゴロ過ごしていても、別に気にならないようだった。ありがたいが、申し訳なくもある。

夫はなんで、いつもあんなにメンタルが安定しているんだろう。
どうしていつも楽しそうで、いつも穏やかなんだろう。
自分のことを責めたり、嫌いになったりしないのかしら?
わたしもああいう人になりたいなぁ。
夫みたいに生きられたら、どんなに楽だろうか。

夫の生き方は、わたしの憧れだった。
わたしは夫との結婚を機に、自分のメンタルの弱さと過食衝動に徹底して向き合わなきゃならないと感じた。夫と添い遂げるためにも、わたしは自分の弱さを治さねばならない。

そこから、あらゆるセラピーの門を叩くことになる。


◆【29歳〜】自分探しの旅

まず、前世療法を受けた。

本当は、過食衝動を止めるために催眠療法を受けに行ったのだが、そこで「あなたには前世療法の方があってると思う」と言われ、過去生を見にいく流れになった。

過去生、魔女狩りに遭いがち。

結果的に、夫とは過去生から縁があるとか、別れた元カレが前世では私を奴隷にしていたとか、例えば幼少期に遭った変質者も過去生の経験が引き寄せたものであるとか、まぁいろんなことが見えたんだけど、色々まとめると「梶さんには、アロマやハーブとかの自然療法と、星に関することが合ってると思うから、仕事もそういう方面で探した方が良い。フルタイムもやめて、短時間にしなさい。そうすればストレス無く続くよ」ということだった。

そもそも、18歳の頃に引きこもりから脱したのも謎の仙人のおかげだったので、わたしはスピリチュアル的なことに基本抵抗がない。(まぁ、スピリチュアル自体に抵抗はないんだが…うーん、一歩間違えれば宗教みたくなりがちなので、今はそういったものとは距離は置いている。変に崇め奉られているスピリチュアルカウンセラー的な人たちを穿った目で見ているのは事実。日常に根付いたスピリチュアルにしか興味はないし、スピリチュアルというのは、個々の精神のあり方だと思っている)

で、素直なわたしはカウンセラーさんに言われた通り、アロマショップで働くことにして、占星術の勉強を始めた。自然療法の各種資格も立て続けに取得した。

そして過食衝動を癒すため、NLPカウンセリングやアロマヒーリング、カラーボトル、ストーンヒーリング、ホロスコープリーディング 、チャネリング、エンジェルセラピー、その他スピリチュアル要素のあるカウンセリング、ありとあらゆる療法を片っ端から受けてみた。
自分でもホロスコープを読み解いて、自身の性質や弱点を調べたり、どうすれば生きやすくなるのかを紐解いてみたりした。

そういった各種療法を受けると、一時的に目の前が開けた感覚になり、いろいろな問題が解決したような心地になる。
数日の間は過食衝動もなりを潜め、何か自分が一皮剥けたような清々しい感覚がしばらく続く。

だが、少し経つとまたメンタルはぶれはじめ、過食衝動は再燃するのだった。

家のすぐ近くには遅くまでやってるドラッグストアやスーパーがあったので、過食したくなれば夜だろうと構わず、パジャマにコートを羽織って菓子パンやスナック菓子を大量に買いあさり、無心で食べた。
食べ終わると、後悔ばかりが押し寄せてくる。そして、吐くことができない自分をまた責めた。

セラピーでは毎度のように「インナーチャイルドが〜…」「お母さんとの関係性が〜…」「幼少期のトラウマが〜…」と言われ、それを治すために必死で過去と向き合うのだが、何度向き合っても向き合っても、根本的な解決には至らない。

わたしには確かに大量のトラウマがある。
だけど、どれもわたしなりに一生懸命乗り越えてきた。
苦しみながら、自分なりにできる最善の方法で、ここまで生きてきた。
そうして、周りの人とも良好な関係を築く努力をしているし、パートナーもできた。結婚もした。
これ以上何をどう頑張って、どう人生を立て直せば良いのかわからない。

もし、わたしと同じ人生を、わたしじゃない人が経験したら、わたしほど上手くやれるんだろうか?

みんな、わたしと同じ人生を歩んでみてほしい。どうやって対処するのが正解だったんだ?
どこで選択肢を間違えた?

どうすればこうして拗らせることなく、素直で真っ当な人間に成長できたのだろうか。
可愛い女の子になれたのだろうか。

インナーチャイルドを癒すって、それ何回やればいいの?永遠に癒し続けなきゃならないの?

これから先の人生って、これまで生まれた後悔を、削るためだけにあるんだろうか。

過食衝動を治したいと思いながら、もうこれはどうしようもないのかもなと思い始めていた。吐きはしないから、過食症とは言わないだろう(当時は「無茶食い」とか「非嘔吐過食」はまだ一般的な用語でははなく、摂食障害としての認識も薄かった)し、病気じゃなくて意志の弱さがいけないのだろう。

わたしは一生、こうして太ったまま、メンタル弱々なまま、生きていくしかないのかもしれない。

人生をやり直せるとしても、どこからやり直したって上手くいく気がしない。

もはや、生まれないことが正解だったのではないか?

…なんて思ったところで、今さらどうにもできないのだけれども。



〈つづく〉

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