呪術廻戦・夏油傑とブラック企業の話②

前回はこちら

では続きを書かせていただきたいと思います。


現実とのギャップに歪む思想

『特級呪詛師』夏油傑を語るうえで、欠かせないエピソードがこちらでしょう。

アニメ『懐玉・玉折編』第三話における『うん!』(タン)の後、夏油は伏黒甚爾との戦闘に敗れ、死なない程度の負傷を与えられたのちに高専に戻り反転術式による治療を受けたようです。

同日、治療が終わった足で向かった盤星教支部にて、夏油が見たのは伏黒甚爾から『殺した』と言われていた親友五条悟の姿と、その手に抱えられた護衛対象『星漿体』だった少女。

そして、それを満面の笑みと万雷の拍手で見送る盤星教の信者たちの姿でした。

その光景の中で、夏油が何よりも先に反応を見せたのは『信者の喝采』でも『亡くなった天内だったもの』でもなく親友である五条悟に対してでした。

五条の纏う雰囲気に気圧され、思わず『悟…だよな?』と問いかける夏油に対し、『俺がしくった』『お前は悪くない』と、まるでこうなってしまったのは仕方がないと話す五条。

『…帰ろう』と拍手を続ける信者たちに背を向ける夏油に対し、五条は言います。

『傑。コイツら、殺すか?』
『今の俺なら、多分何も感じない』

抑揚のない無表情の五条に対し、夏油は答えます。

『いい。意味がない』
『ここにいるのは一般教徒で、呪術界を知る主犯は逃げた後だろう』
『元々問題があった団体だ。時期に解体される』

アニメ二期4話にてこのシーンが映像化されましたが、そう諭すように告げる夏油の目は焦点あっておらずブレ続けていました。

『意味ね。それ本当に必要か?』

『大事なことだ。特に術師にはな』

このシーンの後、あれから一年の月日が経ったことが語られます。

この期間の間に五条と夏油は一級術師から特級術師に昇格したようです。

覚醒した五条が独り立ちし、夏油も一人での任務が増えたこと。
その夏は呪霊が蛆のように湧いたこと。
任務のたびに呪いを祓い、取り込むこと。
誰も知らない、まるで吐瀉物を処理した雑巾を丸のみする様な。

『誰のために?』

そんな夏油の脳裏に浮かぶのは、あの時の万雷の拍手。
満面の笑みを浮かべる非術師の信者たち。

あの日見たものは何も珍しいことではない。
それを知った上で自分は非術師を救ってきたはずだ。
強者としての責任を果たせ。

『猿め…』

あの日からずっと自分に言い聞かせ続ける夏油。
知ってか知らずか、いつしかその口からは呪いの言葉が漏れていました

『懐玉・玉折編』はおそらく『起承転結』でいう『転』の部分のがここまでだと思います。

今回はここで私のブラック企業談義に戻りますが、慣れた作業をするときに限って過信しミスをしてしまう。そんな経験がこれを読まれている皆さんにも一度はあることだと思います。

五条の実力を信じていた夏油は、高専結界内で伏黒甚爾に襲撃されても『私たちは最強なんだ』というスタンスを崩しませんでした。

一年後に五条と夏油の両名共に、当時は九十九ただ一人しか冠していなかった『特級』まで学生の身で上り詰めているため、この評価は過大評価ではないとは思います。

しかし実際には二人とも伏黒甚爾に襲撃された際は手も足も出ず、一度は敗北を喫しています。

こういった『日常』になった中に潜む『イレギュラー』は往々にして存在します。

例えば、一見すると日に一度は上がってくるトラブルの報告。

自分一人で難なく片付けられる内容で、『今日もそうだろう』と普段通りにトラブルの対応をし作業を再開させる。

しかし実際には問題の原因は根深い別のところにあり、修復した数分後に今度はもっと大きなトラブルとなって再発する。

『自分なら大丈夫』といつの間にか思い込み、いつの間にか基本のキを忘れてしまう。

そんな自分に嫌気がさすものの、現実は先ほどよりレベルアップしたトラブルと向き合わなくてはいけません。

トラブル対応する中で、あの時こうしていればと自分を責めますが、周囲から返ってくるのは『どこを見ているんだ』という嫌味のみ。

自分の行いを顧みると確かにその通りなのですが、異常の内容も対応の仕方も毎日のように変化します。

そういった内容を何回も何十回も繰り返していくと、次第にこういった考えが生まれてしまいます。

『なんでこの人たちは些細なトラブル対応さえできないんだ』

『どうしてこいつらよりも仕事をしている自分が冷遇されなくてはいけないのか』

職務だからといえばそれまでですが、片や入社し何も学ばず数十年勤め文句は言うのに改善は行わない人たち。

反面、会社環境を変えようと必死に勉強し会社を回すために残業をしてまで改善に努める若者たち。

挑戦はしない身で失敗した人間に対しては不満を募らせ、一方的に文句を言い、年功序列に胡坐をかき続ける人たち。

そういった環境に身を置くと、本当に自分のしている行いに対する評価が狂ってきます(体験談)

そんな自分より遥かに身体を張っていた上司は、

『そんな話に耳を貸さなくていい。何を言われてもトラブル処理を全うする職務が俺たちにはある』

『言わせるだけ言わせておけばいい。誰かがやらなければ進まない』

そういった話をよくしてくれていました。

誰に対しても丁寧なその方の立ち振る舞いは、私が過ごしたブラック生活どころか人生の中で最も尊敬し影響を受けることになりました。

なにか良い感じのことに聞こえますが、ブラック企業の中にもそういった『身を削って会社を回す人』が一定数いて、だからこそブラック企業は成り立っています

全員職務放棄したらただのストライキですからね。

私自身、『夏油傑』というキャラに対してはとても共感するところがあり、特にこの過去編は何度も見直すレベルで好きなので、こうした形でアニメ化してくれたことは非常に嬉しいです。

同時にブラック時代の記憶を思い出してしまうのはアレですけどね。

思い他長くなってしまったので続きはまた次回にでも。

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