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病気のフリをする病気〜ミュンヒハウゼン症候群の実際

こんにちは、精神科医のはぐりんです。精神科医のリアルな日常とホンネをお届けしています。
※4分で読めます

精神科の診察は、診察室での対話をベースに、それをもとに診断や治療を進めていきます。

(外見上見てわかる)体の症状や検査結果といった客観的な情報が少ないため、「病気のフリをすることもできるのではないか?」そう思われる方もいるかもしれません。

私たち精神科医は、基本的には診察時に患者さんが訴える症状を(ウソではなく)存在するものとして対応していきます。

「うつ病で休職したいので傷病手当を書いて欲しい」と来院された方がどんなに疑わしくても、最初から「詐病(仮病)」を疑って診察することはまずありません。

ただその場合でも、基本的には何度か通院してもらってから、あるいは家族や同僚からみた普段の様子など客観的な情報をいくつか集めてから診断書を書くかどうかを判断していきます。治療を継続していくつもりがあるかどうかも重要です。

それと、外見や話し方、診察時の様子などから、なんとなく経験則で判断できることも少なくありません。初見で、「この患者さんは診断書だけもらってfade outしそうだな」とか、逆に明らかに調子が悪そうであればその場で診断書を書くこともあります。

それに関連して、今回は「ミュンヒハウゼン症候群」という一風変わった興味深い病気をご紹介したいと思います。

ほら吹き男爵、とも言われたミュンヒハウゼン男爵からとった病名ですが、病気のフリをして治療を受け続けたり、病院を渡り歩いたりする病気、のことを言います。

、、結局はウソをついているのだから「詐病」なのでは?

このミュンヒハウゼン症候群、詐病とは根本的に違う部分があります。詐病は傷病手当や休暇、あるいは保険金などの実利を目的とする場合を指すのに対し、ミュンヒハウゼン症候群にはそれがないのです。

ただし「ウソをついている」「症状があるフリをする」という点では、詐病とミュンヒハウゼン症候群は共通しています、、??

混乱しやすい部分ではあるのですが、ミュンヒハウゼン症候群は病気であるという「役割」を演じることで、周囲からの同情を集めたり、優秀な医師にかかっているという事実による心理的な充足を目的としています。

「ウソをついている」「症状を偽っている」という自覚はありますが、そうしてしまう原因が自分の中の抑圧された葛藤や心理背景にあるとまでは気づいていないことが多いのです。

私も過去に一人だけミュンヒハウゼン症候群の患者さんを長く診ていた経験があります。その方は医学生で、豊富な医学知識を持ち合わせていました。巧みに症状を装い、度々救急車を呼んだり入院治療にまで至りました。

彼女の背景には、多忙な医学生であることへのストレスや不安があったのです。また同胞葛藤親子関係の問題も抱えていました。詐病とは違い、その心理背景に迫り取り扱っていく必要があるのです。

ミュンヒハウゼン症候群という診断に至るまでには、多くの時間とマンパワーを要します。こういった巧妙な患者さんの場合、病気であることを証明するよりも病気でないことを証明する方がはるかに大変なのです。

ウソをついている患者さんに対しては対応する側も疑心暗鬼になったり、あるいは陰性感情を抱きやすいものですが、ミュンヒハウゼン症候群は列記とした病気のフリをする『病気』なのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。












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