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「お兄ちゃん、あれ作ってよ~!」
「ねー、お兄ちゃん、いつもの作って~」
 私には兄妹がいる。2歳下の妹と3歳下の妹だ。妹たちが小学生に上がってから、母親が仕事をするようになったため、土曜日の昼は小学生の私たちだけで食事をすることがほとんどだった。
 私が子どもの頃、土曜日の小学校の授業は午前中で終わるものだった。だから学校から帰ってきたらランドセルを置いて、友だちと早く遊びたかったのだが、可愛い妹2人にお願いをされてしまったら仕方がない。妹もそれをわかっているのだろう。だから私が家に着くなり、2人が出迎えてくれた。右手と左手をそれぞれ握られれば、逃げられない。まぁ、逃げる気は初めからないのだが。
「いつものやつだな。わかった作ってあげるよ」
「わーい!」
「やったぁ!」
 妹2人はお互いに手を叩き合って喜んだ。
 これまで3人で食べたものは、冷蔵庫の中を創意工夫して料理したものだったり、缶詰をそのままおかずにしたり、卵焼きを作ったり、簡単な料理をしたものだ。小学生の私のレパートリーなんて、それほど多くはない。だけど、妹たちが、おねだりしてくるなら、あのメニューしかない。私も帰ってきてから気づいていた。テーブルの上には食パンがあることを。
 私はテーブルにあった食パンを手に取り、冷蔵庫を覗き込む。マーガリンとマヨネーズが入っているのを確認すると取りだした。そして食パンにマーガリンを塗り、砂糖をめいっぱいふりかけ、その上にマヨネーズをめいっぱいつけて、トースターで焼いた。
 数分でチンという音が聞こえる。妹たちはもう食卓のイスに座ってスタンバイしていた。このトーストが待ち遠しいのだ。マヨネーズの酸っぱさが食欲を誘い、ジャリジャリする食感がたまらない甘い砂糖と、香ばしいマーガリン。私たちにとって、ご褒美以外の何物でもない料理。
 上の妹はいつもクールで、下の妹はご飯と海苔ばかり食べる超偏食なのに、このトーストだけは違う。2人もがっついて食べて、牛乳も美味しそうに飲み干してしまう。
「はー美味しかった!」
「やっぱり、お兄ちゃんが作るトーストは最高だね!」
「ありがとう。お前たちにそう言ってもらえれば、作り甲斐があるよ」
 美味しいものを3人で笑顔でお腹いっぱい食べると元気づけられる。しかも、食パンとマーガリンと砂糖とマヨネーズしか使っていないので、台所も汚れていないから、後片付けをしなくていい。小学生の私にとっては後片付けをするのも一苦労なので、面倒なことはなるべくしたくないというのが本音だ。
 栄養バランスなんて考えていないジャンクフードだけど、このトーストは兄妹仲良く過ごすことに一役買ってくれた。今のように冷凍食品や即席の食品がなかった時代だったので、面倒なことは多かったのだが、今となってはいい思い出だ。

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