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骸骨探偵・第3話


#創作大賞2024 #ミステリー小説部門

 骸骨探偵へ、急いで情報を共有しなければならない──と思い、僕はすぐにその場を後にした。
 が、その直後に腹の虫がすさまじい音を立てた、それこそ漫画みたいな音で、人にも聞こえてしまうんじゃないかと言うほどの音。
 ……腕時計を見ると、時刻は既に14時半過ぎを指していて、お昼ご飯を食べていなかった僕は腹ペコだった。
 けれど、どこかでお食事というのも骸骨探偵を待たせることになるし、僕はコンビニへと寄り道することにした。
 買い食い程度なら時間もかからないし、ギリギリ失礼にはならないだろう、多分。

「いらっしゃいやせー」

 自動ドアを開くと、言い慣れすぎてやる気があるのかないのかわからないような声がする。
 僕はすぐさま適当な総菜パンを二つ手に取って、レジへ持っていく……と、その間にあった新聞が売られているコーナーが目に入った。
 見出しには『水を崇めるカルト』なんて目を引かれるような内容がチラリと見えた。

「256円になりまーす……」

「……あの、すみません、これも追加で」

 水を崇めるカルト、なんてものを見てしまえば今の僕には必要な情報のはずだ。
 水難法師、オカルト……どう見たって、関連性があったっておかしくないからだ。

「あ、はーい。袋入りますか?」

「いえ、このままで」

「はーい、466円になりまーす」

「じゃ、これで」

 財布の中から500円玉を出して支払いを済ませ、僕はパンを加えながら新聞を広げる。
 少々不作法だけど、片腕に鞄の持ち手をひっかけ、両手で新聞を持って読みつつ、パンを口の動きだけで咥えて食べる。
 相当アホみたいな食べ方してるけれど、時間が惜しいんだから仕方がない。

『水を崇めるカルト宗教・お布施の強要で幹部逮捕』

 見出しに書かれた全文は……逮捕、か。
 死んだわけじゃないなら、怪異とはまた違うと思うだろうけど……と、読み進める。

『「水には神が宿っている」その触れ込みで、コップに淹れた水を拝み、感謝する宗教団体【万龍教 清きせせらぎの会】の幹部【水沢(みずさわ) 香苗(かなえ)】(62)が7月5日、信者への過度なお布施の強要が原因となって逮捕された。
万龍教 清きせせらぎの会(以下、万龍教とする)は、過去にも入信を拒否した相手に対ししつこく付きまとって入信を強要したことが原因で逮捕されたことや、他の宗教施設への放火や強引な引き抜きや暴行など、過激な行為への枚挙に暇がない宗教の1つであった。
今回もまた、信者に強引なお布施を強要した水沢容疑者が外部からの通報で警察に逮捕されており、水沢容疑者は「身に覚えがない」と容疑を否認している』

 ……万龍教、かぁ。
 そういえば過去に姉が『いやぁ、今日は帰り道に万龍教って宗教にしつこく勧誘されちゃって、断るの大変だったなぁ』と愚痴を漏らしたことを思い出した。
 他にも、確か犯罪行為……なんだったか、誰かを襲っているとか、そんなだったか。
 そういうのを通報したことがあって、結果的に誰かを逮捕に追い込んだとか、そういう話を聞いた覚えがあった。
 水を崇める、過激な行為……もしかすると、ここにヒントがあるのかも……と思い、僕は新聞を閉じてメモと一緒に鞄にしまい、パンとおにぎりを食べながら骸骨探偵と待ち合わせとした住宅街近くの十字路へと歩を進めたのだった。

「骸骨探偵さん!」

「ここでそう呼ぶな」

「ほぐぇっ!」

 合流一番、頭を引っ叩かれた。
 オフィス街やスクールゾーンを抜け、住宅街に戻った時には彼と合流することが出来た。
 が、まぁ確かに往来で骸骨探偵なんて名前を呼ぶのはよくなかった。
 けど、他にどう呼べばいいか知らなかったんだから、仕方ないと思ってほしい。

「外では探偵さん、と呼べ」

「は、はい……」

「……そっちはどうだった」

「はい、かなり重要そうな情報が手に入ったんです」

「そうか、俺も犯人を二人まで絞り込んだ」

 かなりいい線まで来ているのかもしれない。
 もしも骸骨探偵の絞り込んだ犯人に、水谷雅彦がいるのなら。
 二択を確実な一択へと変えられるだろう。

「それじゃあ、事務所で情報整理ですね」

「あぁ、そのためにお前を呼び戻したわけだからな」

 骸骨探偵とそう話しながら、住宅街の端の方。
 つまり、探偵事務所・コツコツへと歩を進めていったところで。
 僕らはソレを見た。

「──! っ、ぁ──!」

『水底ニ沈メ』

 事務所、玄関扉の真ん前。
 そこに晴天の今ではあり得ないはずの水たまりが出来ていたのだ。
 そして、その水たまりは人のような形を成して、人を襲っていたのだ。
 襲われている人は──

「経子!」

 金元経子、ついさっきまで事務所でオレンジジュース片手にくつろいでいたであろう、彼女が。
 人型のような水たまりが、自分の腹に当たる部分に経子の顔を付けて抑えて、呼吸を出来なくさせていたのだ。
 当然経子自身も水たまりを引き剥がそうと、倒されたままの身体で必死に抵抗している。
 そんな彼女を助けるべく、骸骨探偵もすぐに動いていたのだ。

「ぬぅんっ! っ、なにっ……?」

 骸骨探偵は水たまりへと殴りかかった、しかし彼の拳は無防備な水たまりの頭に叩きつけられただけで、何もない。
 水たまりの頭が吹き飛んだと思うと、ほんの少しの時間だけで元に戻ってしまったのだ。
 物理的に叩いたり斬ったりしても、効果はないのか。

「くそっ……!」

「水……なら!」

 僕は持っていた鞄からタオルを取り出し、大きく広げてから水たまりに向かって押し付ける。

『グ……!』

「水なら、布で吸収すればいい……! っ、ごめん金元さん、見苦しいもの見せるかもだけど……!」

 タオル1枚では、吸える水はたかが知れている。
 だから僕は着ていた衣服を片っ端から脱いで、水たまりに押し付けて吸わせ、その辺に投げ捨てる。
 幸いにも今は太陽が一番眩しい頃、滴るような水もすぐに地面に染みたり、太陽の熱で蒸発してしまうだろう。

『邪魔ヲスルナ!』

「っ、するだろ……!」

 僕がパンツ1枚になるまで衣服を押し付け続けていると、水たまり側がたまらず叫んだ。
 どれほどの水を奪えたのかわからないけれど、人型の水たまりは少しばかり縮んでいる。

『水底ニ沈メ!』

「わ、っと!」

 水たまりはその場で半分になって、僕の顔に向かって飛び込んできた。
 咄嗟に飛びのいてそれを避けると水たまりは地面に激突して砕け散り、地面に染みこみ始める──
 ことはなく、経子を抑え込んでいる方の水たまりに合流して、少し縮みながらも一つに戻った。

「くそっ……こうなったら……!」

 水を吸わせられる最後の布、僕のパンツ。
 女子高生の前、それに私有地の中であっても外には外。
 人に見られれば間違いなく社会的に死ぬであろう最終防衛ライン。
 出来れば使いたくはなったけれど、人の命がかかった前では迷っている場合じゃなかった。

「……目つむって、金元さん!」

 意を決し、最後の1枚に手をかけた──ところで。

「待たせたな」

「え、探て──」

「後で新しいのを買う、許せ」

 事務所の玄関から、骸骨探偵が出てきた。
 ……どうやって出てきたんだ? と思うのも束の間、彼は僕がパンツを脱ぐよりも早く行動に移っていた。
 彼の骨ばった、というか骨そのものの手には塩の瓶が握られていたのだ。
 骸骨探偵はそれの内蓋を開け、中身を水たまりの腹の部分に撒いた。

『ガ、アアアッ! オ、アオッ! アアアアアッ!』

「!」

 布で水を染み込ませるよりも効果的に、水たまりへとダメージを与えていた。
 水たまりはタンスの角に小指をぶつけた人のように悶絶した声をあげ、慌てたように経子から離れて排水管へと飛び込んでいった。

「た、助かった……?」

「けほっ! ごほっ! がほっ! ご、ぅえっ……はぁっ、はぁっ……すーっ、すーっ……ふっ、けほっ」

「無事か、経子」

 水から解放された経子はすぐさま口の中に入ってしまった水を吐きだしたあと、大量の空気を吸った。
 たまたま僕らが戻ってきた直後に襲われた……のか、そうでないのかはわからない。
 けれど、かなりの間水中で無理やり抑え込まれていたのだから、きっと苦しかっただろう。

「生きてんだから、無事……だけど……けほっ、ちょっと、クラクラする」

「……庭出助、一度事務所の中に入るぞ」

「あ、はい」

 僕はぐっしょりと濡れた服、と投げ捨てた鞄をかき集め、事務所の中に入る。
 ……暖かい季節とは言えども、流石にパンツ一丁は寒いな。
 こういう時のための替えの服とか、骸骨探偵に頼んだら貰えるかなぁ。

「さて、落ち着いたか」

「あ、はい……ちょっとさぶいですけど」

「許せ。男の服の替えはない」

「あ、はは……」

 濡れた衣服を外の日に干し、経子から毛布を借りて羽織り、ソファに腰を下ろす。
 僕と違って替えの服があった彼女は悠々とオレンジジュース片手にすまし顔だ。
 襲われたばかりだってのによくあんな顔してられるなぁ……。

「情報をまとめたメモはあるか」

「はい、鞄の中に入れといたので」

 骸骨探偵に促され、僕は鞄の中に聞き込み調査で得た情報をまとめたメモを手渡す。
 彼はメモの中を骨ばった……というか骨そのものの手でめくりながら読み始めた。

「ふむ……俺の集めた情報と合致させればかなり絞り込めるな」

「じゃ、書き出していこうか」

 骸骨探偵がメモを読み終えたところで、経子がどこからか持ってきたノートをテーブルの上に広げた。
 彼はそれにありがとう、と返しながら二つのメモを広げる。
 骸骨探偵自身の調査で得た情報、僕の調査で得た情報、その二つをまとめてノートに書き始める。

庭出助が集めた情報
・被害者、庭出助(にわでじょ) 翔子(しょうこ)はカナヅチだった
・庭出助翔子は定期的に会社の取引先の相手である水谷雅彦(現在故人)と会っていた
・庭出助翔子は行方不明になった時期、退職届のみを提出し姿を消している
・水谷雅彦は真冬でもプールや川で泳ぐほどの水遊び好き
・水谷雅彦の死因は水難事故、雨の日に河川敷で足を滑らせたこと
・水谷雅彦の死亡時期は庭出助翔子が行方不明になった時期と一致

俺(骸骨)が集めた情報
・木津都にはプール付きの家を建て、真冬にそこを利用している男がいた
・木津都には水の神を信仰する宗教【万龍教 清きせせらぎの会】の支部施設がある
・万龍教は水そのものを崇めており、不純物が一切存在しない水への感謝と祈りを捧げている
・万龍教には過激的で前科一般の犯罪者もいる
・庭出助翔子は過去に万龍教の信徒の一人を犯罪行為を通報し、万龍教の勧誘を断ったこともある

「……こんなところだな」

「そう、ですね……」

 僕ら二人が集めた情報によって、犯人の候補が絞り込めてきた。
 水難法師という怪異の発生条件と、水、及び姉そのものへの関係から考えると。

「犯人の候補は二人だな、一人は万龍教・木津都支部の信徒が一人。死因は水難事故、台風の日に河川敷で座禅を組んでいたところ河童のごとく流されたマヌケの【水丸(みずまる) 大雅(たいが)】」

「もう一人は、僕が調べた水谷 雅彦ですね」

「そうだ」

 水丸 大雅、骸骨探偵が苦労して万龍教から聞き取った話によると彼は過激派の筆頭なんだとかで、問題を色々と起こしていたらしい。
 生前にも問題を起こしていた人だというと、どうしても警戒せざるを得なくて、自然と疑ってしまう。
 全くはた迷惑な人だ……そんなに水が大好きなら河童にでもなって、キュウリ貪ってりゃいいのに。
 っていうか、また万龍教かよ……さっき新聞でも見たぞ、逮捕されてる幹部……ホントどうなってんだ、この宗教。

「生前から過激なことをしてたっていうのなら、一番怪しいのはこの水丸ですね……」

「そうなるな、俺もそこを睨んでいたところだ。だが、何か引っかかる……」

 僕にとっては引っかかるポイントとか、見当たらないと思うんだけどなぁ。
 だって、どう考えたって生前からそれだけに人に迷惑をかけているのなら、やっぱり普通の人に比べると疑いは増すだろう。
 実際、60歳を超えても犯罪行為で逮捕されてる幹部がいたんだし、幹部よりも下の人が何かしてたって驚かないぞ、僕。

「……あの、思うんだけどさ。そのばんりゅーきょーってのはさ、水そのものを崇めてるんだよね?」

「うむ、そうらしい。おかしなことだが、水が神そのものだとな」

「じゃあ、やっぱりこの人が水難法師って考えるのはおかしくない?」

 骸骨探偵が顎に手を当てて考えていたところに、経子が手を挙げた。
 ついさっき襲われたばかりの彼女には、何か別の視点があるのか。

「だってさ、自分が崇めてるものそのものになるのはまだわかるけど、崇めてる存在に対して人って不純物を沈めようとするのっておかしくない?
この人にとって水が神様とか、ご神体そのものだっていうのなら、ソレで人を殺すのってどうかと思うんだけど」

「……なるほどな」

「あぁ、そういうことか……!」

 盲点だった、言われなければ気付かないような、単純だけど筋の通った意見だった。
 確かに、キリスト教の人がパンやワインで人を殴り殺すような真似をするだろうか、と聞かれたら多分NOだろう。
 同じように、綺麗な水を崇めていた人がそれを用いて人殺しをするというのも妙な話だし。
 いや、まぁ……やらざるを得ない時があるのなら、やる可能性はなくはないけど……それでも、可能性は低いだろう。

「あとさぁ、私ってこの宗教との関わりないんだよね」

「……うむ、水丸 大雅の犯行動機が万龍教を拒絶した者……つまり、勧誘を断った他信徒の一人を通報したこともある庭出助翔子への復讐と仮定した場合、一切の関わりのない経子が狙われる道理がない」

 経子の意見だけで、骸骨探偵はロジカルに推理を組み立てた。
 犯人である可能性の天秤は一気に傾いて、水谷雅彦が犯人としての可能性が高まったのだ。

「でも、水谷雅彦の犯行動機は?」

「愛玩、だろうな」

「……愛玩、ですか」

 聞きたくない、聞きたくない。
 恨まれて襲われた、まだそっちの事実の方がマシだ。
 再三言うが僕はシスコンじゃない。
 それでも、家族として大好きな姉が誰とも知らぬ男に弄ばれていたという事実。
 水に顔をつけることも苦手な姉が、水着を買ってまで彼の下に通い詰めていた。
 それを聞かされるだけで、僕の脳みそははじけてしまいそうなほど痛む。

「庭出助 翔子が、わざわざ仕事とも関係ないのにも関わらず水谷 雅彦の家に通い詰めていた……そして、水谷 雅彦自身の病的なまでの趣味を聞くに、恐らく水谷 雅彦は庭出助 翔子と懇意にあり、自分の趣味を共有していたのだろう。
人間というものは大概、好意のある相手に対しては自分の趣味を他人にひけらかしたり、共有しようと誘いに来るものだ」

「……じゃあ、僕の姉が水着を買っていたのは」

「おそらく、自分の趣味の水遊びに付き合わせるためだろう、何の理由があったのかまではわからないが……庭出助 翔子は水谷 雅彦の家に上がり、水遊びに付き合うことで何らかの利を得ようとしていた……」

 骸骨探偵の推理を聞くたびに、僕の脳にじわじわとした痛みが走ってくる。
 このまま脳から出血してしまうんじゃないか、というほどに頭に血が上ってくる。
 ……僕の姉とそんな風に愉しんでいた男がいることにも、僕の姉を弄んだ男がいることにも、怒りが沸いてくる。

「『水底に沈め』という言葉の通り、少なくとも怪異になってからの水谷 雅彦は女を水に沈める趣味でもあるのだろう。
経子を狙ってのあの襲い方……数々の情報から察するに、水谷 雅彦は一度死んで怪異となってからは、生前から縁のあった庭出助 翔子を誘拐し、水に──……すまん、気分が悪くなるか」

「……すみません、大丈夫です。続けてください」

 聞きたくなくても、聞かなくっちゃあいけない。
 姉を攫ったやつに関する話ならば、ちゃんと聞かなくっちゃあいけない。
 例え脳がはじけそうになっても、五臓六腑が逆流しそうになっても、それでも、だ。
 辛いことだとしても、姉に関する話ならば、聞かない道理はないのだ。

「……水谷 雅彦は、庭出助 翔子を水に沈める愛玩行為を行っている可能性が高い。それが命に別状があるか、そうではないかはわからんが……止めぬ道理はない」

「なら、今すぐにでも……」

「あぁ。情報はまとまった、推理もだ、突きつける材料は揃っている。そして、居場所にも見当はついている」

「え、ホントですか!?」

 骸骨探偵は防止のつばを指で軽く弾きながらコツコツコツ、と骨を鳴らした。
 恐らく笑っているのだろうけれども、結構不気味な光景だな……。

「先ほど、あの水たまりに俺が殴りかかっただろう」

「あぁ、確かに……効いてませんでしたけど」

「効く、効かないに関係はない。そもそも俺の骨だけの拳では怪異どころか人間に対してもダメージにはならん、条件を付ければ別だが」

 殴ってダメージを与えられなかった……けれど、それが重要。
 殴った、という事実が大事なのだろうか……もしかして、あの瞬間にGPSでも埋め込んだのか。
 いやいや、相手が人ならともかく水の塊に対してそれは効果が薄いだろう。
 じゃあ、それは……。

「殴った瞬間、俺は呪力というものを拳にまとわせていた」

「ジュリョク」

 ジュリョク、呪いの力と書いて呪力だろうか。
 随分なカッコいい響きだけど、いったい何をしたんだろうか。

「俺の呪力は小さく、弱く、それでいて物理法則を無視してダメージを与えるほどの力はない……だが、この程度でも対象にマーキングをつけることくらいは可能だ」

「っていうことは、もしかして」

「あぁ。埋め込んだGPSのごとく、水難法師がどこにいるかは俺が辿れる」

 そんなだったら、わざわざ今ここで情報の推理とか必要だったんだろうか。
 ……と言いたいのをグッと堪えて、僕は骸骨探偵の説明を聞いていた。
 遭遇したのはたまたまだったんだから、これは突っ込む方が野暮なのだ、あくまで遭遇して、殴って、マーキング出来たのはたまたまなんだから。
 
「奴の攻略に必要なものを揃える。お前たちはこれをまとめておけ、俺は買い物に出る」

「え、あ、僕らは何を」

「事務所でじっとしていろ。それと服は恐らくまだ生乾きだ、乾燥機かドライヤーにかけるなりで乾かせ」

「わ、わかりました」

 骸骨探偵が再度変装用の服に着替え、エコバッグを片手に事務所から出る。
 僕らはそれを見送ったところで、顔を見合わせ……服の乾燥と、骸骨探偵がサッとメモに書き起こしたリスト……にあるものを事務所内から集め始める。
 ……これで、姉を攫った水難法師をどうこう出来るのだろうか。
 と、一抹の不安を抱えながらも僕らは準備へといそしんだのだった。

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