マガジンのカバー画像

チョコレートブラウンの板塀のある家

10
記憶の中の人達 愛理の思い通りには動いてくれません。
運営しているクリエイター

記事一覧

チョコレートブラウンの板塀のある家 総集編

はじめに これは、作者愛理が、雄介を主人公に仕立て、大部分が実体験を元に文章化したものです 文中時々、登場人物が主人公になる場面もありますが、基本雄介の人生と思ってください 未成熟な雄介の人生に何が起きるのか?雄介の心の中を覗きながら記してみました 30代、50代、60代の雄介が登場します。 自分では至って普通のつもりで真面目に生活するが、他の人を思いやる筈が自分の気持ちが先に走ってしまう、何故か間抜けな雄介です 読んでみてくださると嬉しいです チョコレートブラウンの板

チョコレートブラウンの板塀のある家 最終章

前の記事 第二の人生を考える雄介 雄介は、ロス出張から帰りクリーニングバッグにジャケットとパンツを入れて美恵に渡した。 今回の出張は、雄介が希望しての会議だった。時代の流れとともに、有能な若手が台頭してきて頼もしい限りであるが、机上で印鑑を押すだけの日が来るのも怖い。 役付なので定年は無いが、雄介は、この出張を会社人間としての総括と決めていた。母や叔父の最期を見ていて、身体が自由に動くうちに好きな事をしようと思った。 子供達が巣立ち、それぞれの家庭を持った時、同居は

チョコレートブラウンの板塀のある家 8

前の記事 啓介の葬儀 叔父の啓介が亡くなったと報せを受けたのは母のアキヨが逝ってからしばらくしてのことだった。 叔父の葬儀は、チョコレートブラウンの板塀の中で執り行われた。従兄弟の実や叔母の時とは違い、雄介達も招かれた。 叔父は、とても穏やかな顔をしていた。はとこ達が寂しそうに叔父の棺を囲み、花を手向ていて、雄介達もそれに加えてもらった。誰からともなくすすり泣く声が聞こえた。 葬儀の後、赤木家の末子(三男)からこの家を壊すと聞かされ、雄介は、なんだかもったいないよう

チョコレートブラウンの板塀のある家 7

前の記事 雲ひとつない空は恐ろしくさえ感じる いつもと変わらない景色の中を風が泳いでいる。明日は雨なのだろうか、小鳥が車の屋根スレスレに滑空して行く。 母の旅立 施設に入所して15年目、母のアキヨは旅立った。 肺炎を患い急遽入院するも、処置の甲斐もなく、長子が見守る中寂しい生涯を閉じた。 職場にいた雄介の携帯に、呼吸器をつけた母が表情を歪めながらピースする写真が送られてきた。淋しさからか、否、苦痛からか目尻に白く光るものが見えた。雄介と愛理が駆けつけた時、既に母は愛す

チョコレートブラウンの板塀のある家 6

前の記事 正規のルートがあった! 叔父の啓介と昔話に花を咲かせていると、沢の辺りから全く役に立たなくなっていた雄介の携帯電話が、突然振動を始め、黒電話の仰々しいベルの音が鳴り響いた。 雄介が赤木家の再訪を果たした頃は、まだ携帯電話の方が幅を利かせていた。ずっと後になってスマホが普及したような気がする。 愛理が電話の向こうで、不機嫌だがそれ以上に心配そうに「一体、何処にいるの?おばさん達に会えた?事故してない?」と矢継ぎ早に質問を浴びせかけてきた。無事叔父さんに逢えたこと

チョコレートブラウンの板塀のある家 5

前の記事 突如現れた板塀 遠い昔に思いを馳せながら、雄介は獣道かと思われる坂を草を掻き分けながら登って行った。 突然視界が開けた先には、アスファルトで舗装された広い道の向こう側に、チョコレートブラウンの板塀に囲まれた大きな白い家が建っていた。 雄介は頭の中に幾つものクエスチョンマークを散らばせねばならなかった。四駆を乗り捨てた辺りには(大きな道らしきものは無かった筈だが?)と、辺りを見回しても他に家はない。道に迷ったのだろうか? 雄介が幼いころの赤木家は、生け垣に囲ま

チョコレートブラウンの板塀のある家 4

前の記事 長子他所の子になる 長女の長子は、読書が好きでいつも本を読んでいた。愛理や雄介が遊びに誘っても、歳が離れているせいもあり殆ど相手にしてもらえなかった。 父の明夫は、長子に野山を駆け回るような活動的な子になって欲しいからか、外に誘おうと模索していた。 長子が、小学校に上がる前くらいまで、父親の弟の宗次が一緒に暮らしていた。宗次も書物を読み漁り、殆ど一日中離れに籠っていた。叔父を慕っていた長子は、多分にその影響を受けて育ったと言う。 愛理は、父の葬儀の時に、金バ

チョコレートブラウンの板塀のある家 3

前の記事 愛理の家族構成 父 明夫(愛理が年長組の時他界) 母 アキヨ 長女 長子 次女 愛理 長男 雄介 捨て猫と湿った布団 愛理は、授業が終わると自宅の方に帰る友達(雪)と一緒にいた。 雪は徒歩通学なので、バス通学だった愛理が乗るバスの運転手さんに見つかるはずはないと思った。 ランドセルを並べて懐かしい道を、久々に雪と大声で戯れながら帰った。 雪の家の前で別れを告げた後、愛理は誰もいない自宅へと、興奮気味に駆け出していた。 ミャーオ!ミューン〜 子猫の鳴き声が

チョコレートブラウンの板塀のある家 2

前の記事 叔父(赤木)の家の家族構成 叔父さん 啓介 おばさん 美津子 長男   実 次男   真也 三男   三男 愛理の失踪「実は家にいて!真也と三男は沢の方見て来て!誰かに出会ったらきいてよ!」 雄介は、美津子の悲鳴のような声に飛び起きた。いつの間に寝てしまったのだろう、さっきまで従兄弟達と遊んでいたのに。 雄介がむっくり起き上がりキョトンとしていると、「愛ちゃんが帰ってこないのよ。お友達はみんな帰って来たのに」と慌てたおばさんの声が隣の部屋で聞こえた。叔父さん

チョコレートブラウンの板塀のある家 1

雄介山道に苦戦する 山間の新緑の木の葉の間からキラキラと落ちてくる木漏れ日。 雄介は汗ばんだ額に手を当てて目を細めた。 薄緑の幼い葉達はまだ小さすぎて十分に日除けの役割を果たすことができない。隣の常緑樹の葉は、嬉しいことに雄介の日傘となり、そよぐ風は巨木の吐息にも感じられる。 深い緑の4輪駆動は、先細る道に阻まれ、途中で乗り捨てるしか無かった。車2台程かろうじて停められる空地のある沢の所から、すでに40分歩いている。道に迷ったのだろうか。子供の頃はこんなに遠いと感じる