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「海がきこえる」を観た

・話題になっていた映画だったので、TSUTAYAでDVDをレンタルして観てみた。地方民なので、渋谷のミニシアターまで見にいくことは叶わず。


・冒頭の、松野から電話で呼びだされた杜崎が自転車に乗って学校に到着するまでのただの「移動」シーンに5〜8カットほど要している。これはこの映画の色々なことを象徴していると思う。語弊をおそれずにいうと「雰囲気映画」だと自己紹介しているというか。アクション性は少ないし、ゆったりとした時間感覚が流れるけれど、一方で静的なレイアウトとか、落ちついた色調とか、近年流行りのアニメと比べるとローファイなルックとか、時代が一周回ってこのあたりの要素がいまちょうどウケてるような。(あるいは、この移動シーンはクレジットとか広告とかを入れるためのものだったのかな。そのへんはわからない。)


・杜崎が自宅で床に座りこんで松野と電話するシーンにこれは顕著で、電話機を手に持って、床に座りこんで、廊下を走ってくる弟から体を少し避けて、受話器を持つ反対の手で指先を少し遊ばせて…と、ていねいで細かな日常芝居のひとつひとつの作画に力が入っている。こういうのを見たときになんかいいなと思う感覚もわかる。映画を観たあと登場人物の動きを自分でもマネしたくなるやつ。スマホがあたりまえになった現代からすると、有線の電話機でクラスメイトと長電話するという体験に少しだけ憧憬をもったりする。テクノロジーが進化してしまったがゆえに失われてしまったことへの関心。


・Bunkamuraでリバイバル上映されたことで評判になるというのが今の時代っぽいなと思う。なぜなら、この物語というのは基本的に「事件」は起きないし、時間のすすみ方もゆっくりとしているからだ。たとえば、Netflix等でこの作品の配信が始まったとしても、これほどの話題にはならなかったと思う。視聴者に「刺激」を与えつづける現代のコンテンツ像とはかけ離れている。スマホが触れない劇場という環境で、強制的に物語に没入することができる「ミニシアターに観に行く」というおしゃれな体験とセットでウケているような気も。


・もはやアマプラなりネトフリなり動画配信サービスに加入する人々が多くなったここ数年の環境だからこそ、あえて「配信では見られない/体験できないこと」に視聴者のニッチな需要がある…という感覚も、まあなんとなくわかる。サブスクはまあ、お金を払えばだれでも加入できるわけだし。こういう言い方もアレだが、「文化的感度が高い+配信では見られないレアな体験をしている」というアピールは、いかにもSNSで「映え」そうではある。「ジブリの中でも一般認知度の低い映画をミニシアターで観る」っていうのは、なんかおしゃれだ。


で、ようやく作品そのものを観て思ったことの感想↓


・酷い言い方をして相手を傷つけたこと、感情的になって言い合いをしたこと/直接手をあげて殴ってしまったこと…等の、未熟で幼かったころの「あやまち」ともとれる行動を、数年後に同窓会で再会したときにお互い「清算」してしまっている感じは、なんかいいなと思った。べつだんとやかく問い詰めたり、ことさら謝ったりせず、フラットにしている感じ。


・過去のできごとから数年経ったときに、「あの時のアレはああいうことだったんだ」と急にわかる瞬間があって、その瞬間にようやく相手の気持ちを考えられるようになったり、自分の未熟さを思い知って反省したり…とか、個人的な話をすると、そういう今となっては手遅れな「答え合わせ」をくり返してばかりの人生だと思っている。


・それはこっ恥ずかしいことだし、黒歴史が増えるということでもあるので、できるだけ経験しないほうがいいことだとも思うけど、そういう青臭さとか痛みを経ることで、「一歩だけ大人に成長できた」ような感覚にもなれる。同窓会で元クラスメイトと再会すると、コイツも自分と同じような内省を経て今ここにいるんだよな、と思える。そういう認知がお互いにあるので、当時とはちがう会話をできるようになるというか。


・この映画での同窓会のシーンは、高校を卒業してクラスメイト全員「大人」になったように見えるけど、実際のところ話の内容が「サークルで宗教勧誘された」だの「異性と終電を乗り過ごした」だので盛り上がっていて、まだまだ子どもだなと思う。ていうか、杜崎も松野も、高校時代をふりかえって「あの時のオレらはまだ青かった」みたいな顔してるけど、いや卒業してまだ1年しか経ってないじゃん!?とも思う。まだまだ地に足をつけて大人ぶる時期でもないような。まあ、そういう「大人ぶる青臭さ」がこの年代の特権であるような気もするけれど。


・例のラストシーン、吉祥寺駅で杜崎と再開したときの里伽子はひとことも言葉を発さず、少しだけほほ笑んで小さくお辞儀をしていたの、マジでズルい。高校時代はあれだけ自己中心的でまわりをさんざん振り回した人物だったのに…。女性から見るとどういうふうに映るのかわからないが、いち男の意見としては、すごい魅力的な人になったなと思ってしまう。この「成長スピードの速さ」に面食らうというか。里伽子の場合はもともと容姿端麗で文武両道ともっているポテンシャルが強かっただけに、この先どんなふうに成長するんだろう・・・と、さらに「先」を見てみたくなる。

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