【ネタバレ有】君たちはどう生きるかの考察と超人思想

ようやく見ました。
君たちはどう生きるか。

 これまでの宮崎駿作品とは違ってめちゃくちゃ明示的に引用が使われていたのが特徴的ですよね。
そこにメインテーマに密接に関わるヒントがあると感じました。

以下ネタバレ含む。















 メインテーマは歴史の継承です。
 そして、それに対する宮崎監督の回答はニーチェの超人思想に基づくものと思われます。

 物語の序盤には、戦争中の軍需により家が栄えている状態、母が亡くなり、父の愛情が継母に注がれている環境、不慣れな生活、現実の不快感がこれまでかと描かれています。

 それから逃避するように、青鷺にそそのかされ、眞人はお伽噺の世界に引き込まれます。その世界では母は生きており、苦手な継母は産屋に閉じこもっています。お婆さんは師弟関係を通じ、眞人と愛着を築き、大叔父は世界を支配し、その権利を眞人に受け継ぐように願います。

 ただし、その世界は純粋な世界。時代を超え受け継がれるもののために殉じ、元の世界(現実)に戻ることはできないと述べられます。

 冒頭に述べたように、この作品は文化的な引用を明示的に行っています。(選定理由は宮崎駿監督の趣味でしょうね)映画(ホーリー・マウンテン)絵画(シュールレアリスム、中世の教会絵画)物語(アリス、白雪姫、青い鳥、白鯨)多分他にも気づいていないものが色々とあるでしょう。これらの芸術が純粋なもの、時間を超えて受け継がれるもののメタファーであり、そのものなのです。 

 この悪意なき13の欠片で世界を作ってくれないかと大叔父が眞人に問いかけるシーンが有ります。
それに対して眞人は自身が悪意を持っていることを伝え、後で明らかになりますが、悪意を含んだ積み木を持って帰り世界を築くことを宣言します。そして、新たな家族と悪意ある現実で生きていくことを主張するのです。

現実に帰る際に、母親との会話があります。元の時代に帰ると戦火に巻き込まれあなたは死んでしまうと。母親はそれでもあなたを生みたいと宣言し、眞人もそれを肯定します。ここでも眞人は、それでも現実を生きることを確信するのです。

この、それでも生きる、というのがニーチェの超人思想です。

以下引用
https://www.google.com/amp/s/hitopedia.net/%25E8%25B6%2585%25E4%25BA%25BA/%3famp=1

あらゆる価値や無意味さあらゆる価値の無意味さや無根拠さがある。人々は生きる意欲を失い、ただ嘆き悲しむようになる。この状況をニヒリズムという。

超人は、絶望的なニヒリズムの状況において、なおも、生きんとする意欲を失わず、生を積極的に肯定し、喜びさえも見いだすことのできる強靭な存在である。

引用終わり。

母親や、眞人を通じて、あらゆるものの価値が失われ、動く時代においても生を肯定し、人生を生きることに対する肯定的なメッセージを、この映画は届けているのです。
「これが人生か、さらばもう一度」という言葉はこの母親のためにあるような言葉ではないでしょうか。そして、我々の現代社会においても、意思をもって世界の一部を作り上げ、積み上げ、前向きに生きてほしいという宮崎駿監督のメッセージではないでしょうか。

他にも、死と再生、フェニックスとしての母親のメタファーや、家族というものに対するメッセージもあると思います。物語の終盤には、悪意ある現実、鸚鵡による軍国主義が文化を破壊します。これは東京が焼け野原になったこと、世界で起きている反精神主義に関する批判でしょう。そういったサブストーリーもたくさんありますがここでは割愛いたします。(追記するかもしれません。)

 最後に、この作品が宮崎駿監督の最後の作品と言われていると聞きました。(僕は信用してないですけど。)
 最後のシーンで、主人公はちっぽけな積み木一つをもって現実に帰ります。そしてお伽噺の青鷺から、そんなもので世界は変えられないだろうな、という皮肉と友達でいてくれた事に関する感謝を伝えられます。これこそ、アニメに魅せられ、アニメで世界を変えた宮崎駿監督自身に対する、アニメからのメッセージのように感じられます。

 こういった文化継承のテーマ、生と死、自身の功績の総括という点から、遺作と言われているのだと考えます。この青鷺の表現に関しては僕は随分感傷的だなと思ったのですが、もう少し歳を取るとそう考える様になるのかもしれません。

この映画は上記の引用や、思想、時代背景など、知らなければ分かりにくいものが大いにあると思います。また、テーマも宮崎駿監督の思想に強く基づいています。それでもこれまでのジブリ映画とは一味違う面白さを持った名作だと感じたので、今回考察をしてみた次第です。

(原作未読なので、また別の読み方もあるかもしれません。あしからず。)

ここまでご覧いただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?