書評⑦世界インフレと戦争~恒久戦時経済への道~
ラストまで終わりました。すごい暗い気分になるような内容ですが、今の日本の指導者にこれだけの知性がある人はいないということにも絶望しました。
次はLIVE PARADEの考察をします。
歴史上のインフレ4波
フィッシャーは、歴史上インフレは4波発生していると位置づけている。
第1波は、12世紀までの安定期がもらたらした人口の増加である。ベビーブームによる若年層の増加によって、需要が増大し、特に燃料と食料価格がインフレが発生した。
第2波は、1407年から1660年までで第1波の2倍の水準で、長期にわたって続いた。その原因は第1波と同様に人口の増加による食料、エネルギー需要の増大による。
第3波は、1729年に始まり1820年まで続いた。第3波もまた、第1波、第2波と同様に早婚化と多産化による食料とエネルギー需要の増大である。
そして、いずれの貴族階級や地主階級が所得をインフレから守るため、インフレも地代や金利が上昇させたため、実質賃金が下落し、社会的な不均衡が増大し、社会の大きな混乱を引き起こした。
なお、第3波以降の19世紀の西洋世界は、産業資本主義と第1次グローバリゼーションによって、全体を通してデフレ基調であった。
第4波は、1896年に始まった。原因は人口の増大である。医学の進歩によって死亡率が減少と出生率の増加による。さらに、第二次産業革命による生活水準の向上と民主化の進展によって、政府に対して社会福祉の充実を要求することで需要が拡大し、デマンドプルインフレを引き起こした。
第1波から第3波までの違いとして、実質賃金の上昇と格差が縮小したという点である。この理由として労働組合の結成、民主化の進展による社会福祉政策の充実、ケインズ主義的な財政金融政策が行われたことがある。
その後、1980年代以降のインフレはエネルギーや食糧価格が急騰するコストプッシュインフレで、それまでのインフレと同様、実質賃金の低下と金利上昇による格差拡大、社会不均衡が政治秩序の不安定化を招いた。それが冷戦の終結である。
インフレの第5波の発生
2022年のインフレは、第5波と呼ぶことができる。ただし、人口減少局面における高齢者層の従属人口の増大と生産年齢人口の減少がもたらしたインフレであるという点が異なっている。一方、人口動態が原因であることや、気候変動が要因である点。エネルギーや食糧価格の高騰から始まった点。実質賃金の低下、金利の上昇による格差の拡大は共通点である。そして、第1波から第4波で政治的な混乱を発生したことからも、第5波においても、政治的な混乱が発生する可能性がある。これらを防ぐためには、第4波の教訓で、大きな政府が決定的な役割を果たし、農業政策やエネルギー政策で危機を緩和することができる。
しかし、第5波はインフレ前に新自由主義や第二次グローバリズムにより、格差が拡大し、アメリカのグローバル覇権戦略の失敗による世界秩序の不安定化、地政学的リスクの上昇など、すでに危険な状態だったのである。
そして、高インフレがもたらすものは反乱、内戦、革命、戦争であるが、現下の世界では新興国だけでなく、アメリカや債務危機によりナショナリズムが先鋭化するEU、第二次グローバリズムによる経済成長の行き詰まった中国による東アジアの地政学的危機など、大国においても、政治秩序の不安定化がある。
日本はどうするべきか
現下の危機的な状況下で日本においては、安全保障の強化と防衛力の強化が必要である。安全保障においては、食料、資源・エネルギーの確保最低限である。エネルギーにおいては供給源の多様化、省エネ化などが必要である。
そして、安全保障上重要な産業や技術に積極的に投資する安全保障の強化を目的とした産業政策、コストプッシュインフレの物価を下げるための消費税の廃止(低所得者ほど負担が重いため)を実施するべきである。
こうした、軍事や経済の安全保障の抜本的強化、サプライチェーンの再構築、ミッション志向の産業政策、内需の拡大、格差の是正と社会的弱者の保護のために、政府は「大きな政府」を志向しなければならない。また、財源については、自国通貨建ての国債はデフォルトすることがないため、心配する必要はない。金融政策は需要を維持するため低金利を維持するべきである。
加えて、通貨安を防止するための資本移動の規制、特定の財の価格統制を実施すべきである。価格統制については、第1次石油危機の際の灯油やLPガスの価格統制、2020年のコロナ禍でのマスクなどの特定価格以上の転売禁止などがあり、通常時でも薬価や電力価格など実施されおり、奇異なものではない。
大規模な積極財政による資源動員、産業政策による資源配分、資本移動の規制、価格統制はさながら戦時中のようだが、コストプッシュインフレは戦争と深くかかわっており、今回もウクライナ戦争に端を発するもので、アメリカのグローバル覇権戦略の失敗による世界秩序の危機なのであり、まさに戦争中なのである。しかもこの世界秩序の危機は長期化するのであり、この戦時経済体制を長期に構築させなければならない。
つまり、日本がこれから構築しなければならない経済体制は恒久戦時経済である。
恒久戦時経済を構築し世界の変化に対応するのか、アメリカの庇護下に入って生きていくという10年前の夢を見続けながら生きていくのか、中国の東アジアの覇権に屈し、その下で惨めに生きる道を探すか。
いずれにせよ、恒久戦時経済をしなければ、日本の今後は悲惨な結末を辿ることとなるだろう。
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