超こわくない話(ギャグ劇団笑)『怪談師VS怪談師』
「来た」
カオルコは声を上げた。
夜。
マンションの玄関から、マントを纏った女。
怪談師・“ノロイFノロコ”である。
コイツは毎年、決勝戦で火花を散らすライバル。
目出し帽、手袋、ブーツ、サングラス。
全てが黒づくめ。
秘密結社のメンバーのような印象。
さながら黒いKKK。
噂通りだ。プライベートでも、マント姿。
コイツは犬畜生にも劣る。
「キサマの怪談は怖くない」
「子供だまし」
などと、カオルコのSNSに誹謗中傷してくる。
一週間前くらいからは、"ピンポンダッシュ”で、プレッシャーをかけてくる。
「ニャーゴ」
ノロコは、猫に首輪をつけて散歩させている。
猫に首輪をつける神経もわからない。
とにかく、コイツは異常だ。
「こらしめてやる」
カオルコは頷いた。
ポケットの中のスタンガンを握りしめる。
明日は「最恐怪談トーナメント・決勝戦」。
ノロコの攻撃が激しくなったのは、決勝で今年もぶつかるから。
コイツを制裁するのは、未来の怪談界の為でもある。
やるなら、今夜しかない。
このスタンガンで脅せば、ノロコは明日のトーナメントにはこなくなるだろう。
コイツは、スタンガンの脅しに勝てるほど、怪談を愛してはいない。
偽物KKK・ノロコに、そんな根性などない。
トーナメントを欠席させるだけでよい。
決勝を休んだら、酷いバッシングにあう。
もう、この業界にいられなくなる。
完全に廃業である。
ざまみろ。
赤信号で止まっているノロコ。
人っ子一人いなかった。
チャンスである。
「おい」
カオルコはノロコの首にスタンガンを押し当てた。
『ビビビビィ』
電圧に身体を震わせるノロコ。
「何のマネなの」
「明日の決勝戦、欠席しろ。次は、もっと酷い目にあわせるぞ」
「わかった」
ノロコが負けを認めた。
さすがにスタンガンの威力には、勝てなかったらしい。
「ざまみろ」
元来た道を引き返す。
『ギャアオ』
猫の鳴き声。
振り返ると、体長2メートルほどもある化け猫が立っている。
「明日、決勝戦休むのはアンタよ」
ノロコは化け猫とともに襲い掛かってくる。
「うるさい女」
カオルコは、スタンガンを投げ捨てると、かめはめ波で応戦した。
電柱が真っ二つに折れて、倒れかかってくる。
『グギャオ』
奇声を上げながら炎上する化け猫。
住宅街は、地獄の様相。
いつの間にか、怪談師VS怪談師から、ジャンルが変わってしまった。