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ざわついて 眠れない夜は 古傷が疼く。 


ざわついて眠れない夜には、黒歴史が堂々巡りをする

季節外れの暖気で、妙に春めいた一日。
夜になると、大粒の雨が降りしきって、空気が重く感じられる。
時折、建物が揺れるほどの強風が吹き付ける夜。

こんな夜は、気持ちがざわめいて、なかなか寝付けない。
昨夜は、そんな夜だった。

まだまだ、寒いはずの、2月。
大粒の雨が屋根をたたき、テレビの音がかき消される。

昼間の仕事の疲れで、すぐに寝付けると思い、
早めに床に入ったが、雨音や強風のせいか
どことなく 気分がざわついてくる。

気温が高めのためか、冬支度の布団の中で、身体が火照って
なかなか寝付けない。

こんなときは、ずいぶん昔のことを思い出すことがある。

それも、黒歴史。

あのとき、
どうしてあんなことをやってしまったのだろう。
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

ぐるぐると、思いが堂々巡りをする。


疼く 黒い記憶

中学生の時の過ち。
もう、50年も前のことだ。

ある日、
美術教室の軒先に、発泡スチロールの束が放置されていた。
中学2年生の私は、「ゴミ」が放置されているものと思い、そのうちの一つを踏みつぶして壊した。

すると、一緒にいた仲間の一人が面白がって、私と同じように、発泡スチロールを踏んで壊した。

その刹那。
美術室から、美術教師が鬼のような形相で飛び出してきて、
唾を吐き飛ばすような勢いで
 何してるんだ
と叫んだ。

美術教師は、叫ぶのと同時に、破壊活動を行っていた友人に向かって真っすぐ走り寄り、いきなり、彼の頬を平手で殴りつけた。

私は、一瞬のことで、足がすくんでしまった。

私は、破壊行動を終えて、彼から一歩離れたところに佇んでいたため、美術教師の視界には入らなかったらしく、美術教師は、彼を一発殴ったあとは、わき目も振らず、壊れた発泡スチローのところに屈み込み、何やらぶつぶつ言っていた。

殴られた友人は、「すいません」と言って、その場を離れ、私もその場を離れて自分たちのホームルームへ戻った。

「俺が最初にやったんです。」

そう、申し出るべきだったろう。
しかし、その時はそれが言えず、私はその場から逃げてしまった。

ホームルームに戻ってから、その様子を見ていた女生徒から、
「どうして、自分から名乗り出ないの?」
と言い寄られたが、何も言えなかった。

自分自身、顔が青ざめ、わずかに手足が震えているのが分かった。

情けないと思いつつ、鬼のような形相をした美術教師が恐ろしくて、自分から言い出すことができなかった。

他の仲間は、みんな、どう思っていたのだろう。

その後、何ごともなく過ぎる日々の中で、ずっと、心が締め付けられる思いがしていた。

ざわついて、眠れない夜には、時々思い出す。

美術教師に殴られた彼とは、卒業まで、外見上は変わらない関係ではあったが、やはり、心には棘のようなものが刺さったままだったと感じていた。

卒業して何年かした同窓会で、彼と再会した際、思い切ってその話をした。

改めて自分の行動を彼に詫び、お互いの気持ちを交わし合ったことで、わだかまりは解消したが、彼もまた、苦い記憶として残っていたようだった。

いまだに、心がざわつく記憶だ。

後悔しないように生きることは難しい。

ざわつく夜は、古傷が疼く。

春不遠

春が待ち遠しい

志賀高原 大沼池

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