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猿若祭二月大歌舞伎 昼の部 籠釣瓶花街酔醒

初日に幕見。あまりにも良かった。まず、勘九郎の声があまりにも勘三郎で、父の大ファンだった息子が姿を追うところを見てしまって、それだけで涙が出た。
だけど、単純に父を追うのではなく、彼の形になっていたところがさらに泣けた。容貌が悪くても腐らず真面目で勤勉で優しいが故に人に好かれ、だけれども、真面目で優しいからこそ色男の強烈な魅力に勝つことのできない男。その性質故に一人で静かに傷つき、それでも周りに気を遣い、歪み、妖刀の力に後押しされる形で狂っていく様がなんとも良かった。そして、狂い、人を殺める様子が色っぽいという皮肉。まさに全て勘九郎。
鰯売は父の姿を追うことで空回りしているように感じているが、今回の籠釣瓶を経て勘九郎の形になっていくことが楽しみ。
八ツ橋に愛想尽かしをされ、下男治六が八ツ橋を非難する際に、彼を押さえるために次郎左衛門が言った「なんも言っちゃあならねえ」が忘れられない。満座で愛想尽かしをされ、恥をかかされたにも関わらず、それでも花魁には何か訳があるのだろうとまず気にかける気遣い、治六も自分を思ってくれているからこそ噛み付いてくれているのだとわかった上で、まず訳を聞こうと治六を諌める目線、溢れ出しそうな悲しさ、恥ずかしさ全てが混ざり合った感情を押さえつけるような震えた声。自分が一番傷ついている次郎左衛門が最も優先することが周りの人間の心に対する気遣いだということがまた泣けるし、店の人間全てに好かれていたのだろうという次郎左衛門の人柄がよくわかる。
七之助八ツ橋は、登場から息を詰め、見つめてしまった。幕見席で見たので例の笑いに関してはよくわからなかったけれど、千秋楽に近くで見るので楽しみ。
お人形さんみたいに綺麗で、高貴で、その場にいるだけで背筋が伸びるような八ツ橋が、愛想尽かしの場では、化け物か獣かと思うほど感情を露わにしているところの迫力。
仁左衛門、歌六、時蔵、松緑の豪華ハッピーセット。見渡す限り充実のメンバー。今後もよろしくお願いしますよ…………。

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