私と、サッカー。第5話『~2010・若若~』

 2010年6月11日。2010FIFAワールドカップ南アフリカ大会開幕。あまりにも、あまりにも待ちわびたその時がついに訪れた。4年という期間は小学3年生にとっての体感では普通の人間の15年分、犬やフィギュアスケート選手の単位で言えば80年分といった時の流れなのである。南アフリカVSメキシコで始まる開幕戦。ガイドブックに載っているヨハネスブルグ・サッカーシティスタジアムの写真だけを頼りに何度イメージトレーニングをしただろうか。

大会オープニングゴール・チャバララのゴラッソからのダンスパフォーマンス。さすがに何回このシーンを再生&マネしたかは数えられるわけが無い。

 さすがにブブゼラの音だけは想定外だったけど。当初の予想ではブーイング感覚で鳴らす「怒りのブブゼラ」みたいな位置づけを予想していたが、普通に得点後などの興奮するタイミングでボルテージが高くなっていたし、何より本当に常時鳴りっぱなしだった。大会終了後は本気で購入を検討して「こんな小さい家のどこでブブゼラを吹けるの!」と母親に怒られたのも懐かしい。少なくともAmazonの購入画面までは到達していたと記憶している。

 音で言うと、ブブゼラだけでなく、テーマソングや関連ソングもこの大会を美しく彩った。NHK放送の『タマシイレボリューション』(Superfly)には聞くとサッカーの情景が思い浮かぶパブロフの犬状態にさせられたし、公式テーマソングの『WAKA WAKA』(Shakira)は今でも好きな一曲である。PVの2番Bメロのベッカムのゴルパフォ(@札幌ドーム)からのシャキーラの激しすぎる踊りの流れが好きすぎる。
 
そして、私が1番好きな曲が大会スポンサーのコカコーラのCMのタイアップ曲Wavin’Flag(K'NAAN)である。特に、この曲をバックにゴールシーンをブラウン管で観てコーラがデフォルメされたキャラみたいな奴が喜び合うみたいなCMが私の人生で1番好きなCMなのだが、2024年現在、インターネットの海からは私は当該CMを見つけることが出来なかったのでどうかこのCMの動画がある・見つかったという人はご一報願いたい。(私自身DVDにこのCMをダビングはしているのだが、古い物だからそもそもディスク自体のありかが不明&見つけても正常に作動しない可能性が高い)

 はっきり言ってフットボールの中身について全て事細かに語っていくとキリがない。公式球のジャブラニが無回転を生みやすく空気圧ゴリゴリボールだったことも相まったゴラッソ祭。グリーン(イングランド)やヤクブ(ナイジェリア)の信じられないミス。基本的には暖色系の国旗が好きだっただけだと思われるタコのパウル君伝説。マラドーナの一挙手一投足。スアレスのハンドからのギャンPK失敗。ゴールラインテクノロジーが各国で導入されるきっかけとなったランパードのゴールの明らかな誤審(試合自体はあの同点ゴールがあったとしてもドイツが勝っていたと見ているが単純にワールドカップ史に残るゴラッソが無効となった事実がギルティーすぎる)。うん、本当にキリが無い。

Pick up Match ~Slovakia VS Italy~ (3-2)

 この大会の1番の名勝負であり、かつ私の心が最も動かされたのは私の初恋の国である前回王者アズーリことイタリア代表が単独では初出場のスロバキアに敗れてグループリーグで姿を消したこの試合である。私自身、2006年のワールドカップ以来継続的にイタリア代表を応援していた訳では無かったが、それでも「イタリアのグループはイタリア1強だから何も問題はないでしょ!」くらいには思っていたので強いアズーリであって欲しいという気持ちは強かったと記憶している。
 この試合の表の主役はスロバキアにベスト16行きの切符をもたらす2ゴールを決めたヴィッテクであろう。しかし、裏の主役は間違いなくファビオ・クアリアレッラだった。0-2でビハインドの状況で途中出場した彼は文字通り孤軍奮闘。1人で流れを変え幾度となくチャンスクリエイト・フィニッシュの双方に絡み、ディ・ナターレの追撃弾の起点となるシュートや微妙なオフサイド判定に終わった幻の同点弾、そしてこれは記憶に残ってる方も多いと思われるがあの1-3でATに突入する絶望した状況で繰り出せる訳が理解出来ないほどの芸術的なループシュート。そして、惜しくも敗れ去った後は誰よりも号泣する姿。彼をこの試合の先発で起用していれば、いやもっと言うと1,2戦目のパラグアイ戦とニュージーランド戦でも起用していればといったIf展開をも想起させる活躍っぷりを見せた彼に私は虜になった。ちょうどこの歳の周りの小学生達は戦隊モノのヒーロー等に夢中だっただろうが、そんなものには目もくれずサッカーを観ていた私にとって、クアリアレッラは仮面ライダーなのである。そんなこんなで、自らが応援しているチーム以外の特定の選手に肩入れすることがほとんど無い私ではあるが、クアリアレッラに関しては後のウイイレの中でも「私が好きになるクラブ」(次話参照)に移籍させて遊んだりもしていたり、今でも某所でペンネームとして使わせてもらったりもしている。2018-19シーズンに突如セリエAの得点王を取った時はしびれたなあ。

 もちろん、日本代表にも触れないわけにはいかない。大会前は日本全体の雰囲気としても絶望感しか漂っていなかった。自国開催の2002年大会以外ではグループリーグを突破ないし勝利をした事も無く、強化試合での出来もイマイチ。直前のイングランド相手の強化試合で闘莉王と中澤が連続オウンゴール(珍しい)して逆転負けした辺りで1分2敗か3戦全敗が頭をよぎった方も多いのではないだろうか。カメルーン戦。本田圭佑が値千金の先制ゴールを決めた後は魂で守備陣が奮闘し守り切る。連続オウンゴールの面影はそこにはもう無かった。私にとって日本代表のワールドカップ初勝利は格別な気持ちだった。そこからは日本代表の力にも自信を持つ事が出来て、オランダ戦も0-1と善戦、デンマーク戦では伝説の本田圭佑・遠藤保仁の直接フリーキック弾が炸裂した。本田の「ブレ玉」に沸く世間に対しガンバ大阪ファンだった私は「遠藤のやつも技術の結集で凄いやろ!!」とは思っていたけどね。パラグアイにPK戦の末ベスト16で敗れることとはなったが、応援しがいのある素晴らしい大会だった。

 そして、トーナメントが佳境を迎えるにつれ、私が応援していたのはオランダである(理由は私の人生において最も屈辱的な事柄と密接に関連するので割愛する)。理由はともかく、オランダ自体には特に前線に豪華なタレントを多数擁し、魅力的なチームだった。特にスナイデルは攻撃のタクトをふるい続け、同率で得点王にもなるなど良いプレーヤーだという事を痛感させられた。この年はインテルでトレブルの中心選手だった上にワールドカップでもこの出来でバロンドールを取れなかったことは本当に可哀想である。そんなオランダの悲願の初優勝を阻止したのはこちらも初戴冠となった無敵艦隊・スペインである。(当時はまだ明確に認識していなかったが)ティキタカと形容される圧倒的なポゼッションサッカーに加え勝負所を外さないビジャが上手く機能し素晴らしいサッカーとしか言いようが無かった。

 少なくとも、大会終了後のJリーグの試合観戦時にブブゼラの音が無いことが気持ち悪いと感じる程度には没頭し続けた64試合だった。そして、夏休みの自由研究でワールドカップ参加32カ国についての人口や面積などの情報及び国旗を描写したりして余韻に浸りながら過ごしていた頃、私のサッカーにおける「拠点」に大きな変化が生じようとしていたのだ。

画力皆無の私がスペイン国旗の中身を完全再現するのは人生で最も苦戦した作業の1つだったと言えよう。普通に中のゴチャついてる所を描くのに丸一日かかった。
ちなみに日本国旗は15秒くらいで描けた。


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