「レコードジャケットに見るポップアートの世界」
私は音響マニアの兄の影響により洋楽をひたすら聞く毎日を送っていた。月に1度は中古レコード専門店へ行き何時間も眺めるだけの生活を送っていた。当時マイブームだったのが「ジャケ買い」と言う言葉だ。音楽の内容に惹かれ買うのではなくジャケットデザインのインスピレーションで買う事だ。その影響のためか私はヒプノシス、ロジャー・ディーン、ロバート・フィッシャー、バリー・ゴッドバー、アンディー・ウォーホル、横尾忠則など、当時の現代アートを代表する名作家たちが手掛けた作品のジャケットを買い集めその興味は必然とポップアートへも注がれていった。
ポップ・アートは、1950年代半ばのイギリスと1950年代後半のアメリカで発生した前衛芸術運動である。広告や漫画、大量生産されたありふれた物など大衆文化のイメージを絵画に取り入れて、伝統的なアートに対抗した。その目的は、多くの場合、(貴族主義やエリート主義ではない)漫画や広告などの大衆文化のイメージを芸術に利用することで、あらゆる文化の平凡でキッチュな要素を皮肉的に強調することにあった。
六七年に発表されたザ・ビートルズの「サジェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のジャケットは、その音楽と共に一つの時代の始まりであった。六九年の「ブラインド・フェイス/スーパー・ジャイアンツ」、七一年のウォホールによる「ローリング・ストーンズ/スティッキ・フィンガーズ」「ベルベット・アンダーグランド」のバナナと、当時のロック・ジャケットがもたらすアート的可能性は勢いはとどまることを知らず、31.5cmの型を飛び出したジャケットに時代の有効性が明らかになれば、クリエイターの注目もそちらに向くのは当然で、各国の優れたデザイナー達もロック・ジャケットの分野で腕をふるい、日本においても横尾忠則を初めとする多くのデザイナー、アーティスト達が活躍した。
しかし、80年以降ロックがかつてのパワーを失くしてしまい、同時にCDの登場と共に最盛期のような視覚文化を引っぱる力がジャケットにはもはや無くなっていった。中にはまだまだ面白いジャケットを作り続けている人達もいるが、やはり、音楽の及ぼすパワーもが少なくなり、CDジャケットが12cmと小さくなり視覚的に表現しているパワー不足になってしまった事も確かなことだろう。
そして音楽そのものがダウンロードする時代になりさらにジャケットと言う言葉は死語になりつつある。だが、ここ数年若者を中心にレコードブームが起き再び今、ジャケットを眺めながらレコードに針を落としす人たちが増えていると言う。かつてジャケ買いと言う言葉が流行ったようにジャケットが持つアート的価値が今一度見直される事を期待したい。
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