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〝彼女〟のいない特殊部隊はもはや信用ならない

 『ローグ・ワン』や『この世界の片隅に』が巷を沸かせるなか、今日劇場公開された『バイオハザード:ファイナル』。「ファイナル」すなわちシリーズ最終作、もう金輪際続編は作られないらしいのでほっとした。2作目から5作目がとてつもなくつまらなすぎて、一刻も早い幕引きをずっと心から願っていた。「つまらない」と言い切るからには私はしっかりこれまでのシリーズ全作を見たわけで、「つまらないなら見るのをやめればいいだろバーカ」とか「わざわざつまらない映画のつまらなさをブログで書くなバーカ」とか思われてしまっても仕方がないけれど、もちろん「つまらないつまらない、つらい」といいながら見続けたのにはやむを得ぬ理由がある。

■ いつでも探しているよ、どっかに君の姿を

 すべては〝彼女〟のためだった。5作目『バイオハザードV リトリビューション』(2012)に〝彼女〟が再登場するとの噂を聞きつけたことで、シリーズすべてを見るハメになってしまった(※)。〝彼女〟とは1作目(2002)で特殊部隊の女性隊員レイン・オカンポ役を演じていたミシェル・ロドリゲスである。私が初めて彼女を見つけたのはこの『バイオハザード』でだった。かつて、ここまで「圧倒的に不利、かつわけのわからない状況下で異形と戦う女戦士」を演じるにうってつけの人材がいただろうか。あの反抗的な態度、うつろなのか鋭いのかよくわからない目、ゾンビに噛まれた後も減らず口をたたき続けるタフネス、死んだと早とちりされ突きつけられた銃を掴んで顔をあげての「まだ死んでねえよ」、その数分後にやっぱり死んでゾンビ化して襲い掛かってくる律儀さ。一人でいくつもの「いい仕事」を積み重ねる彼女に、私は惚れた。役名「レイン」ではなく、「ミシェル」として記憶に残った。

▲ ミ「まだ死んでねえよ」

▲ 数分後

 もちろんアクション映画の世界をざっと見渡してみれば、他にもたくさんの素晴らしい女戦士がいる。『エイリアン2』のクライマックスで、少女ニュートを助けるため体中に武器を巻きつけながらエレベーターで降下していくリプリーや、精神病院の職員を殴り倒し軽やかなステップで脱出を図る『ターミネーター2』のサラ・コナーはその筆頭といえるだろう。だが、彼女らは画面の真ん中に写りすぎている。ミシェルのように画面の脇から異彩を放つ存在に、私はよりグッと惹かれる。観客の脳裏に強烈な印象を与え、かつ主役を「食う」ことはせずあくまでも脇に留まる節操を備えている人材はそういない。そしてそういう人材こそ、アクション映画には欠かせないのだ。女性陣の中から過去に好例を探すならば『エイリアン2』のバスクェス、『スターシップ・トゥルーパーズ』のリズあたりだろうか。彼女らもかなりイイ線いっていたが、ミシェルの映画への貢献度は群を抜いていると思う。

▲ 左上から時計回りで リプリー/シガニー・ウィーバー、サラ・コナー/リンダ・ハミルトン、バスクェス/ジェニット・ゴールドスタイン、リズ/ディナ・メイヤー

 彼女を知って以降、ファンらしく出演作を片っ端からチェックするようなことはしなかったが、自然と何度もいろんなところでその姿を見つけた。『S.W.A.T.』でサミュエル・L・ジャクソンが『七人の侍』風に精鋭を探し求めて彼女のもとを訪れたとき、ミシェルは見事に「男勝りの女警官」を体現していたし、『LOST』でのアナ・ルシアも理不尽な退場が惜しまれるはまり役だった。『世界決戦 ロサンゼルス』では見せ場が少なかったけれど、『アバター』での死にっぷりや『マチェーテ』での暴れっぷりは素晴らしかった。どんな映画においてもミシェルはいつでも1ミリもブレずにミシェルであり続け、何度死んでもまた同じミシェルとして登場し、私を安心させたのだった。

▲ ぜんぶ違う映画だけど、ぜんぶだいたい同じ人

 そして私はいつしか、映画に特殊部隊や特殊チームや愚連隊的な一団が出てくるたび、ミシェルを探すようになった。屈強な男たちの間に彼女の不機嫌な顔が見つからないとガッカリした。彼女以外の女優が「紅一点」を演じているとイライラした。「この映画には何かが足りない」と思い、よく考えてみればその何かとはミシェルの存在感だったりした。「この部隊にミシェルがいたら状況は違うはず」といったん思い始めると、もう映画に集中できなくなった。そういうカラダにさせられてしまった。

 そういえば『バイオハザードV リトリビューション』以降、私はミシェルの姿をとんと見ていない。そろそろ新しい映画で、あの不機嫌顔を見たい。減らず口を聴きたい。願わくば、今後ともぜひ新境地とかに挑戦することなく、着実に全力でだいたい同じ人を演じ続けてほしい。


※ ミシェル・ロドリゲスが十数年ぶりに再登場した『バイオハザードV リトリビューション』を見るために、私がしかたなくこのシリーズを1作目からあらためてぜんぶ見直そうと思い立ったのが2013年。5作目に辿り着くまでに2年くらいかかった。『ウォーキング・デッド』は数カ月で5シーズン分くらい駆け抜けられたのに、『バイオハザード』シリーズは冒頭に記したとおりとにかく見るのが苦痛で、なかなかレンタルDVDに手が伸びなかった。
 1作目は傑作だ。公開当時、思い入れ深いゲームが映画化され、かつそれがいい出来でとても嬉しかったことを久々に思い出した。2作目はちっともおもしろくないけど、ゲームから飛び出してきたようなジルとレポーターの女性がいい感じなのでまだ見られた。ひたすらつらかったのが3作目以降だ。毎回、ミラ・ジョボビッチの語りから入る冒頭シーンやスローモーションで飛んでいく銃弾を見せられるのが苦痛で、やたらと出てくるアンブレラ社のロゴマークとか、なんかもっさりした陰謀が渦巻いてる感じとかが気恥ずかしく、ストーリーにも魅力を感じられず、ようやくがんばって5作目まで辿り着いたと思ったら、ようやくミシェルが画面に現れたと思ったら、ほとんど彼女のよさが発揮されないまま映画終了。なぜこのシリーズが十数年間作られ続けたのかわからない。……さすがにディスりすぎだろうか。

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