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クラリネットのこと9♪ ヴェルディ「椿姫」の主題による演奏会用幻想曲

自分のことを、週末音楽家と表現している。もちろんプロほどの実力も覚悟もないのだが、限られた時間と能力を最大限に発揮して、勇気を持って、音楽に(私なりに)真剣に向き合っている。
離婚してからというもの、音楽活動に執着することが増えた。まあ独り者だし、付き合ってくれる人々がいるうちは、このスタンスで行く。そのうち年とって飽きられたらしょうがない、その時はその時。YouTuberでもやろう。

古い仲間たちと、新しい仲間たちと、昨年末におさらい会をした。2021年に続き二回目。お誘いいただき、とても楽しく、美しい時間だった。名古屋の素敵なサロンのようなホールで、素晴らしい名古屋を代表するピアニストとのゴージャスな時間。皆さまの華やかなソロを、しっかりと聴かせていただいた。皆さま、ブラボー!
そのおさらい会で、今回私が演奏したクラリネットの名曲、「『椿姫』の主題による演奏会用幻想曲」にチャレンジした。その軌跡と考察を、文章でも残したいと思い、書き始めた。前置き長い。ご容赦ください。

ヴェルディのオペラ「椿姫」について

「椿姫」は言わずと知れたヴェルディのオペラ。高級娼婦ヴィオレッタと青年貴族アルフレードとの悲しい愛の物語。ああ切ない。この切ないところが、心を打つ。YouTubeでもフル版が観賞できますし、「椿姫」で探せば日本語字幕のある動画も出てくる。良き時代。

個人的には、カルロス・クライバーのバイエルン国立歌劇場をよく聴いた。コトルバスとドミンゴの掛け合いが絶妙。もちろんクライバーのタクトが踊る。CDでも持っているが、アップルミュージックでも聴けるのです。はぁ、良き時代。

是非是非観たり聴いたりして欲しいが、カンタンにストーリーをいうと、恋をして、盛り上がって、別れる(片方が死ぬ)。これだけ。そこに、何よりも素晴らしい音楽があり、その音楽に誘われて感情の発露があり、素晴らしいオペラになってしまう。正直ストーリーだけなら誰でも思いつくような三文芝居だ(小デュマごめんなさい)。それを、素晴らしいオペラにしてしまうヴェルディ、スゴイ。ああ、このスゴさを言葉で表せられない自分に無力感。

この「椿姫」を作曲する当時、ヴェルディは人気歌手と同棲していたらしい(のちに再婚)。彼は奥様を早くに亡くされていて、奥様が亡くなった後も義父から援助も受けていたようで、なかなか再婚には踏み切れずにいた時期だったようだ。愛あれど結ばれない境遇が生んだ傑作、といったところか。

かの朝比奈隆御大が、和訳されている歌詞がある。とてもとても、文芸的なのだ。そう、少なくない意訳があるのだが、そこに文学的価値をもたらしている。最近は翻訳機能が優秀なので直接的な意味はテキストから拾えば直ぐ分かる。その直接的な意味を越えたところの、行間の、感情の発露を、何とか日本語にしようとする強い意志。遺族の方の厚意なのか、公開されていますので、是非ともこちらも、ご覧下さい。

ロヴレーリョさんと、その時代

おっと、もはやオペラファンの戯言をただただ書いている文章になっているではないか。オペラについてはファンというほど知見はないが、一年に一度くらいは生で観たいと思っている。新国立劇場も、久しく行ってないなぁ。10年以上経つかも。5年前にウィーンで観たトゥーランドットとラボエーム以来、まともに観てない。今年は観るかな!

今回演奏させてもらったサロンホールのオーナーから、「椿姫よかったよ!」とわざわざお声がけいただいた。オペラがお好きらしく、最近「椿姫」をご覧になられたばかりらしい。これは大いに恐縮。スンマセン、もっと精進します。

このクラリネットのための演奏会用幻想曲は、私がオペラを好きになる前に、好きになった曲。若かりし頃、超絶技巧に憧れ、美しいメロディからの、いやメロディより華やかなヴァリエーションに歓喜した。それからはて、椿姫ってなんだろうと思い、オペラに入っていった。オペラというものをマトモに観た、初めての作品。確か、高校で2時間モノの映画版を観たのも椿姫だった(その時は記憶が薄い、たぶん「オペラなんて軽薄!交響曲サイコー!!!」とかイキがっていたと思う)。メロディは一度聴いたら忘れられない。大学のオーケストラの顧問の先生がこれまたオペラファンで、春の演奏会の度に「乾杯の歌」をやらされていたこともある。お元気かしら、みんな。

Donato Lovrelio, 1841-1907

ロヴレーリョ(Donato Lovrelio)というイタリア人が、この曲を書いた。1841年にアドリア海に面したバーリに生まれ、1907年にナポリにて死亡。「三銃士」を書いたデュマ(Alexandre Dumas 1802-1870)とも友人だったらしい。いやもしかすると、年代的にそれこそ「椿姫」を書いた小デュマ(Alexandre Dumas fils 1824-1895)と友達だったかも?なんかその方がしっくりくる。そう、「椿姫」はヒロインが椿の花をいつも持っていたからつけられた戯曲の原題。ヴェルディのオペラ「椿姫」は転じて「La traviata=道を踏み外した女」という改題が正式だけれども、日本では戯曲の原題と呼び名を合わせているのが一般的。たしかに、「道を踏み外した女」って、ちょっとヤバい。

当時はイタリアオペラ全盛期で、恐らく現代の映画やドラマと同じように新作が出たら、みんなが観たい聴きたいだったんだろうと推測。そのニーズに応えるために、ロヴレーリョさんのような方が、演奏しやすい管楽器のソロでオペラの魅力を拡散するために書いたと妄想。ロヴレーリョさんはフルート吹きだったが、クラリネットも吹けたらしい。この「椿姫」以外にも、たくさんのオペラのテーマを使ったファンタジーが、この時代に生まれている。かの有名なサラサーテのカルメン幻想曲とかも、まさにこの時代。

「椿姫」の主題による演奏会用幻想曲

さて本題。クラリネットの魅力を十二分に表現したこの曲の中身に迫っていこう。難易度も高いが、やりたい度も高い。そう、クラリネット吹きなら「やってみたい!」と思う曲なのだ。実際、アップルミュージックだけでも9人のプレーヤーが出てきた(もっとあるかも)。YouTubeだとCDのアップロード含めて40以上あるね。クラリネット吹きなら絶対知ってる曲といっても過言ではないだろう。

曲の構成としては、序奏があって、その後テーマとヴァリエーションのセットが4回。テーマは、

・そはかの人か(1幕)
・乾杯の歌(1幕)
・私を愛して(2幕)
・花から花へ(1幕)

となっており、テーマを演奏したあと、テクニカルなヴァリエーションを演奏する。テクニカルなヴァリエーションについての詳細は、プロの方にお任せしたいところ。アマチュアにとってはかなり高度なテクニックを要求されるが、部分的には練習すればできなくもない。
ただ演奏して思ったのは、「吹けること」より「ブレスコントロール」が難しかった。この年になるまであまり気にしていなかったし、息は長い方だと勝手に自負していたが、上へ下へとアクロバティックに動く音形を、4回続けることがシンドイ。フィギュアで1回や2回転ジャンプは飛べるけど、4回転ジャンプになると超高難易度になるのと似ている、かも。最後の「花から花へ」に「飛び続ける=volare」という歌詞がある。今の私には、飛び続けることはできなかった。またいつか、チャレンジする。飛ぶ!


個人的に好きなのは「乾杯の歌」のヴァリエーション。とても楽しい!たしかに難しいし、跳躍だらけで大変だし、ブレスはもちろん大変だし、リズムもタッカで大変。でもでも、乾杯の歌の陽気な感じを、飛び跳ねる酔っ払い感を出しつつ、テクニカルに聴かせるヴァリエーションが、何とも秀逸。ここだけは上手くいった方だが、いつか早いテンポで、酔っ払い代表として、もっと酔っ払い感を出した演奏を目指したい。


テーマについても考察。こだわったのは、歌詞。Mistreriosoのところと、Dee volareのところと、Amamiのところ。

A quell'amor, quell'amor ch'è palpito
Dell'universo, dell'universo intero,
Misterioso, misterioso, altero,
Croce, croce e delizia,
Croce e delizia, delizia al cor.
その愛は、     
全宇宙の鼓動であり        
神秘的で気高く     
この心は苦悩しながらも歓びにあふれるのです。
(翻訳は直訳に近いものを採用しました)

この特に、「Misterioso」のところが好きだ。愛のインフレはさておき、本当に素晴らしい。これは主人公の二人が何度も歌う歌詞。そう、恐らくはヴェルディが伝えたかったことなのではないか。悲劇ではあるが、愛の素晴らしさ(多少インフレ気味とはいえ)がビリビリと伝わるからこそ、世界でも大人気のオペラとして今もなお演奏されているのだと、思う。

実は今回、「乾杯の歌」以外については上記のように歌詞もしっかり読み、イタリア語の歌い回しや発音を楽譜に書き、アマチュアだからこそできる演奏以外の努力を結構やった。結果的には演奏にあまり身にはならなかった。ただ、自己満足感はとてもある。胸一杯。これからも、この曲と付き合っていくための素地ができた。とても好きな曲だし、もっと考察して、演奏に活きるものにしていきたい。ひとまずは、記録の意味でもシェアしたいと思い、書いた。あまり新しい情報はない。悪しからず。

いつかこの投稿の下に、納得のいく演奏を載せたいものだ。





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