【W杯】日本が勝った時、ドイツ滞在中の私に起こったこと
こんにちは,Claraです.
「ドイツと日本がグループ初戦だね!」
11月の後半,昼食中の話題はもっぱらW杯についてでした.あまりサッカーに興味はなかったとはいえ,ドイツvs日本の試合はさすがに気になります.試合は水曜日のお昼過ぎでしたので,当日は適当に中継を流し,前半が終わったくらいに実験に向かいました.なんとなく,ドイツが勝つんだろうなと思いながら.
同グループになったという話題が上がるたびに「ドイツは強いらしいから,日本は厳しいね」などと忖度じみた答え方をする自分には少しうんざりしていました.日本には心底勝ってほしかった,だって母国なんだもの.けれど一方,日本人としてこの地でうまくやるために「やっぱりドイツ強いね」となるシナリオが私の中にあったのも事実です.
数時間後.実験から戻って何気なく結果を見ると,なんとまあ,日本が勝っている.本当に見事なもんです.一方,日本の友人達からはLINEが数件
"帰り道気をつけなよ".
途端に,心底恐ろしい気持ちになりました.何でって,私が日本人であるというだけで誰かに嫌な思いをさせるかもしれないと気付いたから.瞬時に私がたどり着いた解は,W杯の話題に自ら一切触れないということでした.
そのうちに,同オフィスのドイツ人同僚も実験から戻ってきました.時刻はほぼほぼ17時.彼は試合結果を知っているのだろうかなどと考え,ひとり気まずい.このまま何もないまま定時を迎えたい,サッカーの話題だけはやめてくれとぐるぐる考えていると,彼が突然こちらを向いて,
「今ニュース見たんだけど…おめでとう、日本ナイス!」
私はこのおめでとうに本当に救われました.本当に怖かったのです.当然ドイツが勝つだろうという空気の中の日本の勝利.私は日本人でここはドイツ.大学では何かされるかもしれないということよりもむしろ,どう振る舞うのが正解かわからない恐怖でいっぱいでした.彼はフットボールはフットボールでもアメフト派の人間だったようですが,それでも彼の祝福は私の心を少し軽くするのに十分でした.
翌日,実験室に行くと,明らかにW杯の話をしている同僚達.実験にむかう私に彼らも同様、
「やりやがったな〜〜〜!!ちくしょうおめでとう!!」
と笑顔で祝福を送ってくれます.その中の1人はとても悔しそうに試合に対して文句を垂らしていました,それでも私におめでとうと言ってくれたのです.留学生達も,「ドイツにかましてやったな!」「日本クールだった!」と笑顔で話しかけてきてくれました.
これはまた別の話.その週末,スーパーマーケットのレジにて清算をしようとしていた時でした.レジのお兄さんがまじまじとこちらを見てきます.そういったことはなかなか無いので不思議に思っていると,
「もしかして日本人?」
「ドイツvs日本の試合見た?ドイツも強かったんだが,日本の方が上手かった、グッドゲーム日本!」
と物凄い笑顔.大学で何か言われることは想定していましたが,まさかスーパーのレジで話しかけられる事になろうとは思っていなかったので驚きました.正直何か言われるとしても,ポジティブな内容ではないだろうと思っていました.そう思っていた矢先の,見知らぬレジのお兄さんからの祝福.私はだんだんと,とても嬉しい気分になりました.その日は眠るまで幸せな気分でした.
あのW杯のグループ戦が行われた期間に,日本人としてドイツで働いていたという経験は,なかなかに興味深いものでした.特に,その瞬間にマイノリティは何を思うかという点について.よく考えたら,負けたからと言って相手国の人間に嫌がらせをするのは常識から逸脱した行為です.けれど,自分の置かれた状況を,外国で判断するのは難しい.結果,何か怖いことが起こるかもしれないという漠然とした恐怖をもって,ドイツ人たちを偏見の目で見てしまったのです.
私は,自らの偏見が生んだストレスと恐怖で自分の首を絞めていました.しかし蓋を開けると,サッカーに興味のないドイツ人はいっぱいいるし,だからW杯の雰囲気なんて別に街には無い.腹を立てて何かをした人はいるかもしれないけれど,それはドイツ人だからではなく,その人がやる人間だから.大概の人は祝福してくれる,国籍関係なく.日本人だってきっと同じように振る舞ったはずです.
今も,私はW杯の話題については自らは触れません.ドイツがトーナメント進出ならなかった今,正直今度こそどう振る舞えばいいのかわからない状況ではあります.しかし,やり難いなというストレスは前ほどはありません.
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