見出し画像

宮下奈都著『羊と鋼の森』感想

 クリックしていただいてありがとうございます。

宮下奈都著『羊と鋼の森』文春文庫

 読了したので、簡単に感想を残します。

あらすじ

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていく――。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。 解説・佐藤多佳子

裏表紙

感想(ネタバレを含む)

 この小説はピアノを題材にした小説です。
 読み進めた中で感じたのは、文章に表現される"音”を理解し得ないもどかしさでした。

 私はピアノとチェロを弾いていました。
 チェロの方は弾いていて結構"理想の音”というものがあって、それを目指して練習したし、都度納得のいくものを作り上げていくことができたのですが、ピアノの方はその点あまり自信がありません。

 だからでしょうか、小説を読みながら、外村の立場になって、「自分だったらこのお客さんにどんな音を作るだろうか」と考えても、お客さんになったことをイメージして、「今の私だったらどんなリクエストをするだろうか」と考えても、それを上手くイメージ、ましてや言語化することができそうもなくて、歯がゆいと感じました。

やわらかな音を好む人もいれば、鋭い音、尖った音を好む人もいる。はっきり言葉で伝えてもらえたら、できるだけ希望に合うよう調律をすることができる。けれど、お客さん自身にもわからない場合が多い。少ないヒントから、お互いに手探りで音を探し当てることになる。

p108

 経験も浅い中、自分が調律師としてどのような音を作っていきたいか試行錯誤している外村自身も、歯がゆさのようなものを感じているのではないかと思います。

 「明るい音」についての描写があります。

明るい音にしてほしいとよく言われる。
はじめのうちは、深く考えなかった。たしかに暗い音を望む人はあまりいないだろう程度に思っていたのだ。今は違う。明るいというひとことにも、いろんな意味があるらしいことがわかってきた。

p108

 私はこの、「明るい」という言葉の持ついろんな意味というのが、全く想像できなくて、正直落ち込みました。
 音楽は今でも楽しんでいますが、"音”への理解はそれほどということになりそうです。

 もう一つ、音の「明るさ」についての描写があります。
 双子の妹・由仁がピアノを弾けなくなったことを受けとめ、ピアノを食べて生きていくんだよと言った、双子の姉・和音の演奏を聴いた外村は、次のように考えます。

和音のピアノに加わったのは、影ではない。弾けなくなった由仁の恨みや悔いを引き受ける責任感でもない。そういうものをすべて飲み込んで生まれる強い明るさみたいなものだった。

p213

 元々、所謂「明るい」音を出すのは由仁のピアノでした。
 由仁は音が弾み色彩にあふれる音で、和音は粒が揃っていて端正でつやつやした上品な音を出すのが特徴です。

 そんな和音の音に「明るさ」が加わりました。

 私には、和音の音にどのような明るさが加わったのか、上手く想像はできないけれど、ピアニストを目指す和音も、調律師を目指す由仁も、そして外村や先輩たちも、音を追求し、「ピアノを食べて生きていく」のだと思いました。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?