〈9〉履き違えられる参酌すべき基準
参酌とは、
・他と照らし合わせて参考にすること
参酌すべき基準とは、
・十分参照しなければならない基準
・これを十分参照した結果としてならば、地域の実情に応じて異なる内容を定めることは許容される
市町村はこの参酌すべき基準を参照して、放課後児童健全育成事業について条例を制定することとなっています。
そして条例で定める設置運営基準は、「利用者が、明るくて、衛生的な環境において、素養があり、かつ、適切な訓練を受けた職員の支援により、心身ともに健やかに育成されることを保障するもの」であって、最低基準としての性格をもつものとされています。
さらに、【設備運営基準】では、次のように記されています。
【第3条第2項】
市町村は、最低基準を常に向上させるように努めるものとする
【第4条第1項及び第2項】
放課後児童健全育成事業者は、最低基準を超えて、常に、その設備及び運営を向上させなければならない
最低基準を超えて、設備を有し、又は運営をしている放課後児童健全育成事業者においては、最低基準を理由として、その設備又は運営を低下させてはならない
前回の記事でも述べましたが、放課後児童クラブの基準はほぼ全て参酌すべき基準です。
もともと全国各地様々な人の力で様々な形で運営されていたものを後から集約しようとしたけれど、そんなにすぐ上手いことはいかない、なので遠い目標作って行く行くは目指せるように頑張ろうねということでしょうか。
それがいつまで経っても目標は目標のまま、現状維持で精一杯、質の向上のために頑張っても設置者が阻む構図のところもあるのです。
放課後児童健全育成事業の根幹が、「参酌すべき基準」や「地域の実情に合わせて」という言葉を使用することで実質変幻自在のものであるように感じます。
質の向上を常に追求できる自治体や組織であれば事業として本当に児童や保護者のためのものになれると思います。
しかし、質の向上を放棄している自治体では、向上はおろか実情の把握すらされません。
このような状態は、公立と民間の保育サービスの格差が今後さらに広げることとなるでしょう。
そして地方の公立しかない場合は、児童を預かる場が存在することだけで良しとされ、向上意欲すら湧かないのです。
それは保護者も同様で、民間か公立かという選択肢があれば、各家庭は必然的にどちらが自分の子どもに良い環境か考えます。ここにニーズが生まれます。
しかし公立一択の場合、そこに入るしかありませんから、もっとこうしてほしい、これはおかしいのではないかという発想になりにくく、ニーズは生まれません。
私の働く放課後児童クラブで質の向上のために動こうとした際、「子どもを預かるということ以外、保護者にニーズは無いでしょう。」と言われたことがありました。
確かにそうではありましたが、それは保護者自身も放課後児童健全育成事業への無知によるものが大きいだろうと思いました。
ニーズが無いから質を向上しなくてもよいのではなく、ニーズが生まれる組織にならなければいけないのですが、この組織としての第一歩からなかなか理解が得られませんでした。
いつまでも参酌すべき基準のままで良いとは思いません。
地域の実情を踏まえ柔軟な制度設計ができる部分と、子どもの権利や健康、発達のために、ここだけは譲れないという部分が必ずあります。
では、全国どこの放課後児童クラブや学童保育所でも統一すべき基準とは何でしょうか。
それは一人あたりの専用区画面積や集団の規模、秘密保持、防災訓練、そしてインフルエンザやコロナウイルス、ノロウイルスなどの感染症予防対策や手作りおやつなど調理する際の衛生管理ではないでしょうか。
さらに学校や発達支援センターなどの他機関との連携構築も必須であるはずです。
子ども達の安全や権利を守るために決して揺るぐことのないよう努めなければならない事項です。
本当の意味での最低基準を守った上に、地域の実情に合わせた+αがあるべきのではないでしょうか。
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