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目指せ!ウメノキゴケの違いがわかる大人

こんばんは。くらどに屋です。

無料マガジンの企画として、実験的に「くらどに屋の地衣さんぽ」を立ち上げてみました。住宅地から日帰りで行けるような身近な場所で、ひっそり生きる地衣類に目を向けてみようというコンセプトです。

カビやキノコと同じ菌類でありながら、体内に藻類を住まわせることで光合成をする生物、地衣類。いわゆる「コケ」と呼ばれるものですが、植物とは完全な別物です。

私は地衣類の生態や姿形に妙に惹かれ、街で見かけては観察を楽しんでいます。ハンドルネーム「くらどに屋」も、地衣類に由来します。

今回は、街路樹や石垣で見られる定番、ウメノキゴケのなかまを見分けてみましょう。

実は種類が豊富なウメノキゴケ

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街路樹のサクラやウメの幹につき、縁起物としても扱われるウメノキゴケ。地衣類というワードを知らなくても、これは大半の方が見た事があるのではないでしょうか。

じつは、ウメノキゴケのなかまは種類が豊富。分類群としてのウメノキゴケ科には、日本にざっと240種類以上います(サルオガセなど、あまりウメノキゴケっぽくない見た目の奴らも含まれています)。

街中に生える種類はもっと少ないのですが、それでも公園の街路樹に10種類以上ついていたりします。

種類を知らずに遠目に眺めていても「コケが生えているなあ」で終わりですが、ウメノキゴケの種類を識別できるようになるや、風景を見る目の解像度が格段に上がります

以下では、公園によく出るウメノキゴケのなかま定番4種をご紹介します。ぜひ見分けるコツを掴んで、名前で読んであげてください。

ウメノキゴケ(Parmotrema tinctorum)

〜丸っこい縁と、紙やすりのようなザラザラ感が特徴〜

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まずはウメノキゴケ。青白い乾燥ワカメのような体が、円形に広がって樹皮や石垣にはりつきます。ルーペで表面を覗いてみると、とても細かい突起が無数に並んでおり、紙やすりのようなザラザラした質感を作り出しています(写真2枚目)。このザラザラ感が、ウメノキゴケの特徴です。

ちなみに、このザラザラした突起は「裂芽」という器官で、雨や風で簡単に千切れます。そして千切れて落ちた先で成長し、クローンを増やす仕組みです。

キウメノキゴケ(Flavoparmelia caperata)

〜言われてみれば黄色っぽい。気泡のようなプツプツが特徴〜

2016.8.6.キウメノキゴケ (4)

キウメノキゴケのパスチュール (2)

黄色いウメノキゴケだから、キウメノキゴケ。

といっても、「あ〜、言われてみれば黄色いですねえ、黄色いってことにしておきましょう」くらいの黄色さです。雨で濡れると、中にいる藻類の色が透けて緑色っぽくなるので、アイデンティティを失いがち。

色よりも、表面に気泡のようなプツプツが密集している特徴(画像2枚目)の方が分かりやすいかもしれません。ウメノキゴケがザラザラしているのとは対照的で、柔らかそうなテクスチャーですね。

このプツプツは「パスチュール」という器官で、役割はウメノキゴケの裂芽と同じ。パスチュールが割れた箇所からこぼれた粉が、落ちた場所で成長してクローンが増える仕組みです。

ナミガタウメノキゴケ(Parmotrema austrosinense)

〜縁がフリル状に波打つから分かりやすい〜

ナミガタウメノキゴケ

2016.8.6.ナミガタウメノキゴケ (2)

ナミガタウメノキゴケは、その名の通り縁がフリル状に波打ちます。こいつは分かりやすい。

このフリルの部分には、「粉芽」という粉がビッシリついています。粉芽も、裂芽やパスチュールと同様、落っこちた先でクローンに育つ器官。1枚目の写真のように、同じ木の幹に同じ種類の地衣類がウジャウジャ湧いていたら、おそらく同じ遺伝子を持つクローンです。

ナミガタウメノキゴケが密集している様子をオシャレと見るか気持ち悪いと見るかは意見が分かれるところ。私は、数が少なければオシャレだと思います。

マツゲゴケ(Parmotrema clavuliferum)

〜目を凝らして、縁の「まつ毛」と「粉の塊」を探そう〜

マツゲゴケ

マツゲ

最後はマツゲゴケ。高校の生物のテキストで、地衣類の例として「ウメノキゴケとマツゲゴケ」が紹介されていた記憶があります。

ウメノキゴケ ほど綺麗な円形にはならず、ところどころ千切れながら広がっているのをよく見かけます。

名前の由来は、縁にある「まつ毛」です(写真2枚目の赤矢印)。まさに「まつ毛」のようなサイズと質感のものが、手入れを忘れた鼻毛のように縁からはみ出しているのが最大の特徴。

「まつ毛」と並んで、丸っこい粉の塊のようなものが縁にくっついているのも特徴です。この粉も、クローンに育つ器官「粉芽」です。

おわりに

こんなの見分けてなんの役に立つの?と疑問に思われるかもしれませんが、普段見ている景色を新たな視点で観察し直すことは、生活に刺激をもたらしてくれます。

これまで「コケ」と一括りにしていた世界を、解像度を上げて覗いてみることで、見慣れていたはずの景色が驚きに満ちたものであることに気づかされます。日常が平凡で退屈だと思っていたのは自分の観察眼が鈍っていただけで、じつはすぐ隣に新たな楽しみが広がっていた。そんな、ちょっと前向きに生きられるような発見のきっかけを、地衣類は与えてくれると思います。

ところで、文中に出てきた「裂芽」「粉芽」「パスチュール」は、どれもクローンを増やすための器官でした。じゃあ、有性生殖はどうやってるの?という疑問を抱いた鋭い方もおられるかもしれません。今後の回で、その辺も解説していこうと思います。

では、今後とも「くらどに屋の地衣さんぽ」をよろしくお願いいたします。ウメノキゴケの違いがわかる大人を目指して、街路樹や石垣を眺めてみてください!

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