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「前例に囚われない教育」VS「エビデンスベースの客観的に正しい教育」

「今の教育制度は、その教育を受けた子どもたちが生きていく社会と合っていない。個別最適な学びにして、学校の先生の業務はコーチング中心でいいのではないか。」

「受け身の授業じゃなくて、もっとディスカッションを増やして、アクティブラーニング型の授業にしよう。」

「既存の集団授業が合っていない子向けには、北欧でうまくいっている◯◯教育を取り入れよう。」

教育。国民全員が教育を受ける日本において、誰もが意見を持つことができる数少ないトピック。

誰もが関われるという垣根の低さから、これまでの先行研究によるエビデンス(根拠)なく、自由な発想からアイデアが生まれることが多いです。

教育は子どもの人生を大きく左右するもの。個人の主観のみに基づいた教育を公教育で行うことは、なるべく避ける必要があります。

とはいえ、過去のエビデンスに基づいたものしか実践しないと頑固になっていると、新しい時代に合った教育を創ることは難しくなります。

この「前例に囚われない新しい教育」「エビデンスベースの客観的に正しい教育」のジレンマは多くの教育に関わる方が抱えていそうだと思い、先日そういったツイートをしてみました。

今回のnoteでは、CLACKで内部のプログラムを改善するため使用している「社会的インパクト評価」のアンケート結果を公表し、このジレンマ解決の鍵にしようと思いました。

そもそも社会的インパクト評価って?

社会的インパクト評価とは内閣府の調査による定義によると以下となります。
社会的インパクト評価:「社会的インパクトを定量的・定性的に把握し、当該事業や活動について価値判断を加えること」

ここで、社会的インパクトとは、短期、長期関わらず当該事業や活動の成果として生じた社会的、環境的なアウトカムを指します。
簡単にいうと、事業による影響を売り上げや規模だけでなく、社会にどんな影響をもたらしたかを可視化しようというものだと思ってもらえればと思います。

詳しく知りたい方はこちらのサイトをみてみてください。

なんでCLACKはインパクト評価やってるの?

短期的に数字で効果の測定をしづらい教育の分野では、長年いかにその教育効果を測定するかが非常に重要な問題となってきました。

CLACKの支援における成果として、Tech Runwayに通う高校生が情報系の学科に進学したり、IT企業でインターンしたり、ITエンジニアになったりした人数を数えることはしてきました。
しかし、より本質的に測定していきたいのは、Tech Runwayに通った高校生が、今後の人生を生き抜いていく上で必要な力を身につけられたかどうかです。

そのため、長期的な「生き抜く力」に繋がっていくであろう自己肯定感や問題解決能力、職業観といった非定量的な要素を測定していくため、2020年のTech Runway3期生より社会的インパクト評価測定を実施することにしました。
 
素人のメンバーのみで1から勉強してアンケートを作成、それをプロボノメンバーで測定しまとめたため、詳しい方からすると気になる点が多々あるかもしれません。
それでも、「社会的インパクト評価ツールセット」、厚生労働省の「子どもの強さと困難アンケート」、その他都道府県で過去に実施された社会的インパクト調査の項目等から引用し、運営の改善に生かしつつ、これから支援を広げていく上でのエビデンスとして蓄積できるよう努めてきました。

図1 アンケート項目のイメージ


今回のnoteで伝えたいことの一つは、「CLACKのような活動歴の浅いNPOでも自分たちで測定方法を学び、良い結果・悪い結果に関わらず公開し、活動をよりよくしていくことができる」ということです。これを読んだ方が社会的インパクト評価に対して関心を持ってくれたら幸いです。

そして、より多くの方に社会的インパクト評価について関心をもっていただき、社会的インパクト評価に取り組む事業者が増えることによって、支援の必要性が可視化され、社会課題の解決に必要なリソースを今よりももっと集められるのではないかと思っています。

アンケート結果のまとめ(抜粋)

詳しく結果をご覧になりたい方はこちら

CLACKでは、Tech Runwayという、3か月間の高校生向け無料プログラミング教室を開催しています。その中で新大阪教室6期生・堺教室1期生の生徒に対してプログラム初日と最終日に同じアンケートを取り、有意な差が出たものが表1です。

表1 Tech Runway新大阪6期生・堺1期生のアンケートでプラスの影響のあったもの

その結果と、新大阪教室3期以降で集計していたアンケート結果を組み合わせた結果がこちらです。

表2 Tech Runway新大阪3~6期生・堺1期生のアンケートでプラスの影響のあったもの

次に、以下の仮説に基づき、「家庭での週の学習時間」「家庭での週のプログラミング学習時間」のTech Runway参加前後での変化も測定しました。(表の1年、2年、3年は参加生徒の学年です)

[仮説]
・プログラミングを学んでいく中で5教科の学習の必要性を感じ学習時間が増えるのではないか
・実際に使えるスキルを身につけていく中で、学ぶことの楽しさに気づき、学習時間が増えるのではないか

図2 家庭での学習時間・プログラミング学習時間の変化

アンケート結果から見える、無料で高校生がプログラミングを学ぶことで生まれる効果

自己肯定感・自己効力感の向上
「自分は少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じる」、「自分がやりたいことを実現できると思う」、「自分の将来について肯定的に感じる」といった項目が有意に向上していることから自己肯定感・自己効力感の向上にTech Runwayは効果を発揮できているのではないかと考えられます。

②学び、将来に対する意欲の向上
「むずかしい課題にもあきらめずに取り組むことができている」「将来のためにも、今、頑張りたいと思う」といった項目が有意に向上していることから(学びや将来に対する)意欲の向上にTech Runwayは効果を発揮できているのではないかと考えられます。

③学習時間向上
図2から「家庭での週のプログラミング学習時間」は「増加」の生徒が61%、「現状維持」の生徒が30%という点で6割程度の参加した高校生が家庭でのプログラミングを学習するようになったと言えます。プログラミングの学習時間の減っている生徒がいることは今後しっかり改善していこうと思います。

「家庭での週の学習時間」は「増加」の生徒が43%、「現状維持」の生徒が43%、ということで大半の生徒が家庭での学習時間は「増加」もしくは「現状維持」していることがわかります。

週に6時間(+家庭でのプログラミング学習時間)がTech Runwayに参加することで、物理的に学校外の時間が減少するのは間違いない中で、大半の生徒が学習時間が減少していないという結果は嬉しいです。

(もちろん、学年が進むに連れ、受験勉強等のため、学習時間が増えることも想定されるため、Tech Runwayの影響とは限りません)

まとめ

今回のアンケートはあくまでCLACKの団体内部のプログラム改善用のインパクト評価だったため、エビデンスとして蓄積させていけるものとは言えないかもしれません。しかし、外部から資金を集めている以上、子ども達に対し本当に必要な支援を作る一定の責務のようなものが私たちには生じます。成果を見える化し外部に公開していくことは、教育支援業界でいま考えられている以上に重要なのではないかと思います。

今後の社会的インパクト評価について

CLACKでは2022年10月より、子どもの貧困研究や教育のエビデンス評価をs専門とする大学の研究室(もう少ししたら公表できると思います)との共同研究として、本格的な社会的インパクト評価の測定を実施していきます。

研究室と組んで、社会的インパクト評価を測定しようと打ち合わせをする中で、ただ現場で事業を実行していくことよりも遥かに調整と設計のための労力がかかることを実感しています。さらに、分析結果が出るまでに相応の時間もかかります。

しかし、大変だからといって、前例として蓄積することを諦めてしまうと、いつまでたっても日本の教育は、教育支援は、実践者の経験と勘でしか実行されていかない状況が続いてしまいます。

また、客観的な調査をする大きなメリットとして、「真似する」ハードルがぐっと低くなることがあります。新しい制度を作るにしても、「前例はないの?」という言葉で中々前に進まない経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。その際に「誰が見ても分かるデータ」があると、推進する上でも後押しとなります。

CLACKでも調査結果を政策提言に使用し、無料のプログラミング教室を全国に広げることに活用する予定です。
そして、その提言によってCLACKの支援が制度に組み込まれ、NPO・政府の制度が増え、どんどん「真似する」団体が増えていってほしいと思っています。

前例に囚われない教育も、埋もれてしまっているだけで、世界中を探せば必ずどこかに前例がある。そんな『前例がない(ように見える)』画期的で柔軟な教育をより広範囲に広げていくためにも、私たちCLACKのようなまだ活動歴の浅く、日本では前例のない支援に取り組む団体が、エビデンスを意識していくことは重要だと考えています。

最後に

CLACKは法人として4年目でまだまだ未熟な団体ですが、年々規模を倍々にして活動を広げていっています。今回のnoteを読んでCLACKに興味を持った方、ぜひ一度お話ししましょう。最近話せてないなって人もぜひ下のmeetyからご応募ください!


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