見出し画像

来週の相場見通し(1/15~1/19)②

1.不可解な日本株上昇

「来週の相場見通し①」で、年初からの市場は、欧米債券市場や為替相場は分かりやすいが、日本株は難解だと書いた。後半は、この日本株から取り上げる。
下のチャートのように、昨年何度も上値を抑え込まれてきた3万3千円台後半を抜けて、3万4千円台に到達してからは、1本調子で上昇している。

(日経平均株価)

ところで、24年の年明けは能登震災でスタートした。翌日には羽田空港で飛行機の衝突事故が発生した。何やら「明けまして、おめでとうございます」と言いにくい正月で始まった。海外に目を向けても、1月13日の台湾総統選挙を前に、中国は台湾を威嚇するような行動を取ってきた。中東ではイランの革命防衛隊の英雄であるソレイマニー司令官の追悼式を狙ったテロにより、100名以上が犠牲になった。はっきり言って、良いニュースは何もない。
こうした中で、日本株は勢いよく上昇している。一体、何が起こっているのだろうか?
よく耳にする日本株上昇の要因は以下のものだ。
①日銀のマイナス金利解除の思惑の後退
②日本企業の改革への期待
③海外投資家の日本株再評価
④デフレからの完全脱却、インフレ社会へ
⑤新NISA開始による需給のサポート
⑥EPSやPERから判断される上値余地の大きさ

それなりに説得力はあるものの、これらの全てが決して新しい材料ではない。昨年からの継続案件である。何故、今なのか?これが腑に落ちないのである。

上記の要因を少し深堀してみよう。
まず日銀のマイナス金利解除時期の後退である。下のチャートは、現金給与総額の前年比の推移である。今年公表された11月分は前年比0.2%と市場予想の1.5%を大幅に下回るショッキングなものだった。

(現金給与総額 前年比)

実質賃金も下のチャートが示すように▲3%となり、20カ月連続のマイナスとなった。

(実質賃金 前年比)

そして、最後が日銀のGDPギャップである。昨年の第3四半期のGDPギャップが前期の▲0.15%からマイナス幅を拡大して、▲0.37%になった。

(GDPギャップ)

能登震災に加えて、こうした弱い経済指標が出たことで、1月のマイナス金利解除の思惑は、ほぼ消滅した。円債の2年金利は0%近辺へ、10年金利も一時は0.5%台へと低下した。

(JGB 2年)
(JGB10年)

しかし、これが何だというのだろうか?日銀が金融政策の正常化を止め、再び厳格なYCC政策に戻るというのなら状況は違うが、そんな話ではない。マイナス金利解除の時期が多少、後退したに過ぎず、市場では4月の会合で実施されるとの見方が強い。このマイナス金利解除の後退が、日本株をサポートしているとは思えない。

次に②日本企業の改革への期待、③海外投資家の日本株再評価、④デフレからの完全脱却をまとめて取り上げたい。日本企業は東証の資本コスト経営の本格化、PBR1倍回復に向けた改革を継続するだろう。しかし、これも何ら新しさがない。海外投資家の日本株再評価の話もよく耳にするが、あまりにふわっとした話である。下の図は、海外投資家の日本株へのフローを現物と先物で見たものだ。11月には2週連続で1兆円を超えるフローがあったものの、その後は冴えない展開である。少なくとも、昨年の後半に海外投資家の日本企業への再評価が強まった形跡はない。

次に昨年1年間の海外投資家の日本株フローを、2013年のアベノミクス時と比較したのが、下のチャートであるが、2023年は4月から6月に大きな資金流入があったものの、その後は伸び悩み、結局は年間6兆円程度の買い越しに留まった。年後半に資金流入が加速した2013年のような勢いはなかったということだ。

(海外投資家の日本株ネットフロー)

企業改革について、今年になって何か新たな材料や海外投資家を呼び込む起爆剤があったとは思えない。何やら、最近では欧米投資家ではなく、中国の投資家が自国株投資を見限って、日本株に資金を急激にシフトしているというような話も聞くが、あまりに後付けの理由に思えて仕方がない。④のデフレからの脱却も、全く新鮮味がない。そもそも昨年11月の13兆円規模の補正予算による経済対策は、「デフレからの完全脱却」が前面に押し出されている。更に言えば、この④と①のマイナス金利解除の思惑の後退は矛盾している。デフレからの脱却が実現するなら、マイナス金利は即座に解除されるはずだからだ。また、デフレからの完全脱却=インフレ社会というわけでもない。確かにインフレ社会ともなれば、日経平均株価はそれだけでも上昇するだろう。株式とはそういうものである。しかし、日本がインフレ社会になるという点について、それが海外投資家の間で広く浸透しているとは思えない。日本の2年連続の賃上げは大きなニュースであるが、海外長期投資家においては、日本の少子化、高齢化という問題は、日本株投資の重しであり、その点はほとんど改善が見られない。24年は出生数は75万人を割るかもしれない。こういう日本の少子化関連のネガティブなニュースは、これから増えていくことは確実だ。
⑤の新NISAについては、相応のサポート要因になっているかもしれない。しかし、これはあくまで長期的な観点で捉えるべきものであり、いきなり需給動向に影響を及ぼすものではない。心理的な改善に過ぎないだろう。
⑥については、日本株の上昇要因であることは間違いない。日本企業の想定されるEPSに対して、平均的なPERで計算すれば、日経平均は4万円でも驚くことではない。しかし、これも今に始まった状況変化ではない。私も中長期的には、日本株には強気である。今年の日経平均は史上最高値近辺に迫る可能性は十二分にあると考えている。しかし、この1月の株価上昇は、整理がなかなかできないのだ。それが、冒頭に日本株は難解だと述べた理由だ。

但し、これも株式相場である。そして、今と似たような相場展開は昨年も起こっている。昨年の5月から6月にかけての相場環境である。5月31日が3万887円、6月1日は31,148円となり、6/6には32,506円まで上昇した。6/8には31,641まで押し戻されるものの、6/16には33,706へと跳ね上がった。あの時の相場である。

(日経平均 昨年5月後半~6月)

当時も特段の要因はなかった。資本コスト経営やら、バフェット効果やらは、既にその前から日本株を押し上げてきた。単にバブル後の新高値を更新する中で、先物やオプションのショート勢が踏みあげられて、ロスカットが荒れ狂う展開になっただけだ。30年以上ぶりの高値水準であるため、高値で買ってしまい、「しこっているポジション」もないため、とにかく「売り物」が少ない。こうした中で、ショートポジションが踏みあげられると、マーケットは、するすると噓のように上がっていく。これも株式市場の1つの姿なのだ。あくまで短期的なものであり、持続可能ではない。昨年の事例で言えば、6月前半の上げ相場はほどなく終わり、3万4千円台への到達は、今年になるまで半年間も時間を要することになった。
年初からの上昇は、この展開に似ている。マーケットで売り需要がない中で、ショート勢(先物やオプション)が踏みあげられている。この上昇相場に、①から⑥に挙げたような「それらしい」理由を当てはめているに過ぎない。どこまで上昇するかは不明だが、持続可能ではないだろう。昨年6月の事例のように高値を付けた後は、新高値を更新するのに相応の時間を要することになるかもしれない。私は、株価上昇は嬉しいものの、今は「様子見」状態であり、追いかけてリスクを取る局面ではないと考えている。安易なショート構築は危険だが、安易な株価指数へのロングも控えるべきで、むしろ個別株の決算をしっかり追っていく局面だと思う。

2.来週のポイント

台湾総統選挙で民進党の頼清徳氏が勝利した。台湾の民主化以降で、初めて1つの政権が3期目に突入することになる。但し立法院では民進党は現有の62議席から51議席に議席数を落として、過半数の57議席を下回った。更には国民党が52議席を獲得したことから、与党の民進党は議会で第二党に転落した。国民党は総統選では負けたものの、議席数は37から52まで増やした。民衆党は8議席に増やしている。つまり、過半数を取得した政党はどこもない状態だ。頼氏の政権運営は難しいものになりそうだ。この状況について、中国共産党は「頼総統の誕生は主流な民意を代表していない」と反発している。中国共産党が民意を語るか・・・。次の注目点は2月1日の第一回立法院会議である。ここで立法委員長と副委員長などの人事が決まる。また、頼氏が新総統として就任するのは5月20日の就任式だ。ここでの演説は注目されるだろう。いずれにしても、新たな台湾を巡る不安は終わりではなく、始まりである。中国はどこかの時点で、新政権の対応と米国の反応を試すために、台湾に対して武力的な威嚇や挑発を行ってくるだろう。これは脅威というよりは、恒例行事のような新政権へのテストと捉えるべきだ。

来週は15日にアイオワ州で共和党の党員集会が開催される。いよいよ大統領選の本番が口火を切ることになる。トランプ氏がここまで圧倒的な優勢の状況を維持してきたが、実際にどういう結果となるかは注目だ。ちなみに、今回の共和党の大統領候補が獲得を争う代議員数は2,429人である。7月の共和党大会で投票を行い、過半数の1,215人の支持を得た人が正式に共和党の大統領候補となる。来週の15日のアイオワ州では40人の代議員数が州全体の投票に基づいて比例配分される。次のニューハンプシャーでは22人、そして注目のサウスカロライナ州では50人の代議員を獲得しあうのだ。但し、ここでの獲得は「誓約」であり、実際にはこの誓約通りに7月の共和党大会で代議員が投票することで、大統領候補が決まる。こういう仕組みである。
ここから、大統領候補達は脱落していくことになる。そして、注目は脱落した候補者が誰を支持するかである。例えば、アイオワ州ではトランプ氏に次いで2位と目されるデサンティス氏だが、ここまで有効な選挙戦を展開できていない。戦略ミスであろう。選挙戦を続けるにはお金もかかることから、アイオワ州でニッキーヘイリー氏に負けたりすると、選挙戦から早々に撤退するかもしれない。そして、そのデサンティス氏が仮にトランプ氏ではなく、ヘイリー氏を支持したりすると、一気にヘイリー氏の人気が高まり、トランプ氏を脅かす存在に化けたりする。それが、米国大統領選挙の面白いところだ。

今回の米国大統領選挙は、これまでの選挙とは色々な点で異なる。現職のバイデン大統領は、就任時には82歳と高齢で、しばしば妙な言動をしており、認知症疑惑がついて回っている。また、ハンターバイデン氏などの疑惑も見え隠れしている。最大の対抗馬のトランプ氏は91件の罪状で4つの起訴を受けている。両候補ともに、大統領選で負けると逮捕されるかもしれないという危機感がある。凄まじい戦いになりそうである。勝ったほうが正義で、手段は問わない・・こんな米国の政治ドラマのような権力闘争が繰り広げられるのかもしれない。また無党派の動向も注目となる。ロバート・ケネディ・ジュニア氏の人気も静かに高まっている。大統領選については、これからも取り上げていく。

来週は18日に台湾のTSMCの決算も注目したい。米国半導体業界については、昨年12月のマイクロン・テクノロジーの決算ガイダンスは、24年の市場にかなりサポーティブであった。TSMCが今年の半導体市場にどういう見解を示すのかは非常に注目だろう。マイクロンの主張を裏付けるのか、そうではないのか。また、市場では生成AIブームが、TSMCの決算にどういう影響を及ぼしているのかを確認したいだろう。

日本では15日に東証が資本効率の改善に取り組んでいる企業の一覧表を公表する。リストに名前がある企業とない企業の株価にどう影響するかを注目したい。ちなみに、第2回の公表は2月15日、第3回は3月15日、第4回は4月15日と、毎月15日に一覧表がアップデートされて公表される。予備校が成績順位を発表するみたいで、ちょっと気持ち悪いが、企業にとってはプレッシャーになることだろう。個人的には、こんな頻繁に開示する必要はないと考えている。これが売り材料になる可能性があるからだ。開示企業が増えないとか、動きが鈍いとかが、市場のムードによっては、日本株全体の売り要因とされるということだ。

国際会議としては、来週はダボス会議が15日から開催される。今年のテーマは、信頼の再構築だが、ダボス会議のテーマは時代を表すので、過去のテーマを復讐しておこう。これを俯瞰すると、2014年くらいから世界の再形成とか、2018年の分断化された世界とか、同じようなテーマを繰り返していることが分かる。要するに悪戦苦闘しているのだ。

ダボス会議の世界経済フォーラムが毎年出しているリスク要因の2024年版も見ておこう。2年以内のリスクの筆頭は、「偽情報と誤情報」である。この2年以内リスクと10年間リスクの内容と順位を眺めていると、色々と興味深いことが分かる。例えば偽情報と誤情報は10年間のリスクでは、5位に後退している。対応できると想定されているのだろう。一方で、2年以内リスクにはランクインしていないが、10年間リスクの2位から4位は生態系や自然に関するものが入ってくる。また両方に入っている「強制移住」という言葉は、何か恐ろしいものを感じる。   

来週も色々な動きがありそうだ、米国決算発表も次々に出てくる。来週は主には米国の地域金融機関の決算、そして再来週は23日のマイクロソフトから、マグニフィセント・セブンが登場する。那須川天心のボクシング3戦目も23日だ。来週も気を引き締めていきましょう!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?