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地域金融機関の株価

1.はじめに

地域金融機関の株価変動が、話題になることが多くなった。一時期は、「地域金融機関の株は、株式ではない」などと言われた時代もあったものだが、ここ数年はアクティビストも地域金融機関株を購入したり、日銀の金融政策の変更期待などから、大いに盛り上がっている。今回は、地域金融機関の状況について、全体像をざっくり掴むべく、ポイントを取り上げたいと思う。

2.地域金融機関の状況

①    各地域金融機関の状況はかなりの相違がある

地域金融機関(以下、地銀)といっても、その実体にはかなりの相違がある。地銀はその規模も資産内容も、カルチャーもかなりの差がある。例えば、同じ第一地銀でも、貸出金が10兆円を超える銀行もあれば、4千億弱の銀行もある。京都銀行のように8千億円を超える有価証券の含み得益を持つ銀行もあれば、評価損の銀行もある。4千人を超える従業員のところから数百人の銀行、業務純益が700億円を超えるところから、10億円程度の銀行まで、実に幅広い。唯一の共通点は、どの銀行も総資金利ザヤが極めて低いことだ。下の図は、千葉銀行と富山銀行の状況だ。どちらが良い悪いというのではなく、そもそも全然ビジネスモデルが異なるということを示すものだ。

②    第一地銀のバランスシート変化

第一地銀のバランスシートと主要な利回りの変化が下の図である。2001年度には136兆円だった貸出金は、2021年度には1.7倍の238兆円に達した。ちなみに、この間の日本の名目GDPは3%しか上昇していない。貸出金が増加しているのは、そもそも預金が182兆円から318兆円に増加していることと、悪化する貸出金利回りを、貸出残高を積み上げることでカバーしようとする銀行側の戦略によるものだ。

貸出金利回りは、どんどん低下してきた。2001年度は2.23%もあった貸出金利回りは、21年度には0.96%まで低下している。こうした収益状況の悪化を、地銀は貸出残高を増やすと同時に、経費率を引き下げることでも凌いできた。人件費率もかなり下がった。但し、それでも地銀のビジネスは厳しい。そもそも、もともと収益性が低いのだ。日銀が今のような強力な金融緩和政策を取る前でも、総資金利ザヤは極めて低い。20年前でも総資金利ザヤが0.42%という低収益のビシネスモデルなのだ。

③ 地銀の店舗数や人員変化

もう少し、地銀の変化を見ておこう。2000年に第一地銀は7100店舗あった。銀行店舗への来店客は年々減少しているほか、今では大半のことがネットで完結することから、地銀の店舗戦略の修正がよく議論になるが、なんと第一地銀の店舗数は、2021年にも7100店舗と変化していない。新規の建て替えとか統廃合はあるものの、絶対数は変化していないのだ。一方で第二地銀は3770店舗から2590店舗に1200店舗も削減しているほか、メガバンクは2400から、2070に減らしている。行員数は第一地銀が2000年の148千人から129千人へ小幅削減、第二地銀は63千人から35千人に大幅削減、メガは113千人から89千人と減っている。総じて見ると、メガや第二地銀のリストラは進んでいる一方で、第一地銀の変化は鈍いのが現状だ。地域の雄である第一地銀は、ビジネスモデルの変革や、リストラの必要性が指摘され続けているが、それでもやっていける体力があったということだ。しかし、その体力はどんどん削られてきている。

④ 金融庁の調査結果

 2018年に金融庁が、地銀の数が多過ぎるとの問題意識のもとで、オーバーバンキングの調査を行っている。この調査結果は、それなりに話題を呼んだが、1行単独でも不採算な県は全体の49%、2行では無理だが1行なら存続可能な県は28%だった。つまり8割弱が今のままでは、存続できないという結果になったのだ。かなり衝撃的なものであり、金融庁が地銀再編を進めたがっているものとして話題になった。

こうした中、地銀は形態を変化させてきた。2004年の北陸銀行と北海道銀行の統合を皮切りに、統合で規模の経済を追求して生き残るという経営統合が進んできたのだ。しかし、そうした経営統合もあまり成果が出ていない。2020年のひろぎんHD以降、銀行同士の合併ではなく、単独持ち株会社化が目立っている。これは新たな動きであり興味深い。つまり、銀行という組織から金融サービスを提供する総合カンパニーに変化しようとしているのである。銀行業の高度化と、地域ビジネスへの本格参入による事業ポートフォリオの多角化だ。これまでの地銀経営は「金太郎アメ」と呼ばれるほど、画一的だったが、これからは銀行によるサービスに大きな差が出てくる可能性がある。政府も規制緩和でサポートしている。金融庁の独占禁止法特例法、資金交付制度、金融機能強化法、銀行法の業務範囲規制の緩和、日銀からは地域金融強化のための特別当座預金制度、貸出促進付利制度など、色々と地銀をサポートしてきたのである。

※(2)は第二地銀

3.地銀株の状況と過去の事例

① 最近の地銀株の堅調ぶり

最近の地銀株の上昇は強烈だ。下のチャートは、東京きらぼしFGの株価であるが、過去2年で150%弱も上昇している。 同行に限らず、大きく上昇している地銀株はたくさんある。

(東京きらぼしFG)

下のチャートは、TOPIX銀行業指数である。メガバンクも含め79の金融機関で構成された指数だ。昨年後半から、日銀の金融政策の変更が意識されるにつれて、ぐんぐん上昇している。

(TOPIX銀行業指数)

② 地銀の本業(融資業務)の好調

イメージ的に、「日銀の金融政策修正=金利上昇=銀行の本業収益の改善」が意識されて、株価は上昇しやすい。しかし、銀行の本業収益が回復するには、貸出金の基準金利となるTIBOR6ヵ月物などの上昇が必要だ。昨年末に日銀がYCC政策の変動許容幅を25bpから50bpに拡大したが、下のチャートのようにTIBOR6カ月物は0.13%から0.16%に僅かに0.03%上昇したに過ぎない。つまり、銀行の本業の収益改善などは、住宅ローン金利の一部上昇による極めて限定的なものに留まるということだ。

(TIBOR6カ月物)

こうした状況の中で、銀行株が上昇しているとしたら、それは株式市場がTIBOR6カ月物の上昇に繋がる、日銀のマイナス金利政策の解除を織り込んでいるということになるだろう。実際、市場ではマイナス金利解除の織り込みが進んでいる。マイナス金利が解除されたら、TIBOR6ヵ月物は上昇するだろうか?2006年の事例を振り返ろう。
2006年に日銀は、まず量的緩和政策を解除し、それから数カ月後にはゼロ金利政策を解除した。この時には、TIBOR6カ月物は0.2%台から0.6%台に急激に上昇し、その後に0.9%近辺まで上昇した経緯がある。

(2006年のTIBORの動き)

 銀行は装置産業であり、かなり貸出金残高が大きくなっている中で、TIBORが大きく上昇すれば、勝手に収益は改善する。なにしろ200兆円を超える貸出金があるのだ。足元の株価上昇は、こうした近い将来の貸出利回りの改善による収益アップを織り込んでいるのだろう。

③ 地銀株の注意点

もう一度、TOPIX銀行業指数を注目してみよう。この指数は1992年を1000として指数化したものだ。現在は200程度であり、いかに80年代からバブル崩壊前までの銀行株がパワフルであり、その後に凋落したかが分かるだろう。下の図の左側のチャートがそれを示している。

問題は、右側のチャートである。これはTOPIX銀行業指数の2006年前後の動きである。2005年4月の270程度から、2006年の半ばに急上昇した。日銀の金融政策の正常化期待である。2006年8月に450をつけた。7割弱も上昇したのだ。しかし、なんとそこがトップになってしまっている。政策変更の期待感で株価は上昇するが、いざ政策変更が実現すると、市場は我に返るのである。何に我に返るのか?それは地銀ビジネスを取り巻く環境の厳しさである。日銀の金融政策変更で、一時的に本業の貸出収益は改善する。しかし、地銀を取り巻くビジネス環境の厳しさは何ら変わっていない。これは、足元でも同じ状況だ。生き残りをかけたビジネスモデルの転換を模索している最中であり、まだ明確に新たなモデルを見せているところはない。単に利鞘が回復したとしても、それは一過性のものだ。過当競争の中で、すぐに貸出利回りも低下してしまうだろう。つまり、本当に見極めるべくは、地域金融機関の持続的なビジネスモデルの実現可能性であり、日銀の政策変更ではないのだ。今回も日銀が実際にYCCを撤廃したり、マイナス金利政策を解除したところが高値になる可能性は十分ある。2006年と異なるのは、当時よりも地銀を取り巻く状況は厳しいこと、だからこそ、地銀も今度こそビジネスモデルの変革に動いていることだ。つまり、勝ち組と負け組がはっきり出てくるということだ。
恐らく、今回の決算、そして3月の本決算では有価証券評価損等では、今まで見たことないようなレベルの数字が出てくるだろう。日銀の金融政策変更による本業収益への期待を打ち砕くような評価損を計上する先もあるだろう。金利上昇局面で地銀株に投資するには、それなりの胆力と見極める目が必要だろう。

今回、整理しようと思ったのは、ここまでだ。ここから先は、もっと地銀に興味がある人だけ読んでください。

4.地銀の資本政策と投資家との対話(おまけ①)

① 地銀の資本政策

投資家は、銀行に対してROE、ROIC(投下資本利益率)、WACC(加重平均資本コスト)を重視し、資本効率向上のために事業の選択と集中を期待している。 ROEは取るリスクで異なるが、地銀はRAFとROEの整合性が取れないケースもみられる。目標だけ高いROE向上を謳っても、投資家には評価されないだろう。RAFとはリスク・アピタイト・フレームワークのことで、要するにどの分野にリスク資本を振り分けて、取るべきリスクとリターンを明確にすることである。従って、本来はRAFとROEは結びつくのだ。

ところで、そもそも 銀行の企業価値の算出は難しい。銀行と言うビジネスモデル上、レバレッジが高い。すなわち総資産に対する負債の割合が大きいため、成長率やROEのような企業価値に与える影響が大きい項目の値が少し変化しただけで、算出結果が大きく変化するのだ。投資家が目にするデータも、通常の企業分析とは異なるものも多い。例えば、リスク・コスト調整後収益を「RACAR(レイカー)」と呼ぶ。これは業務粗利益から、信用コストと経費を差し引いたものだ。このRACARを与信額で割ったものが、「RAROA(レイロア)」である。またRACARをリスクアセットで割ると「RORA(ローラ)」である。もう意味不明だと思うが、銀行内部ではこういう計数を使用して、健全性や適正な収益などをモニタリングしている。事業会社を見ている投資家にとっては、馴染みがないだろう。

② 地銀の投資家との対話の好事例

地銀の決算説明会資料などを見ていると、投資家目線になっていない銀行が多い。これからの課題だろう。しかし、中には投資家との対話が可能な丁寧な資料を開示している銀行もある。例えば北國FGなどは、その典型だろう。北國FGは2032年の10年後の計画を公表している。私が知る限りは、こんな先の未来を示しているのは同行だけだ。22年3月期のROE4.2%を2032年に8%に引き上げる目標を立てているが、そのためのカード・リースやコンサルティングなどのビジネスが生む収益を、現在の32億円から125億円に育成するとしている。中期経営計画の3つの施策の最初が「資本効率の向上」であり、総還元性向40%以上を掲げ、地銀最高水準のPBRまで自社株買いを継続するとのことだ。もちろん、政策保有株は保有しない方針で、3年で50%売却する。自己資本比率8%を維持するためのコア資本を特定し、余剰資本の1000億円を株主還元と成長投資に向ける。資本コストは5-7%と数値で示しており、投資家との対話が可能だ。この北國FGのように、具体性と戦略がある中期経営計画を示してくれれば、投資家としてもその実現性と整合性を精査することができるだろう。投資家に対して、真摯な事例だと思われる。今後は、地銀の決算説明や中期計画もこのように成熟していくことが期待される。

5.地銀を取り巻く環境(おまけ②)

地銀を取り巻く環境は厳しいが、ビジネスの本質が課題解決であるとするなら、課題だらけの地方金融は同時にビジネスチャンスでもある。

① 全体像

課題は盛りだくさんである。どれも簡単ではないが、地域金融の役割は大きいだろう。

② 人口減少

2010年代は北海道、東北を中心に人口が減少したが、この20年代は日本全国が関東以外、2010年代の東北のようなレベルで人口が減少していく。そして、その傾向は改善することなく、より激しく2030年代に突入していく。これは、もう約束された未来なのである。この地域の人口という面での衰退を、「クオリティ」という面でカバーできるか。そこに地域金融はかかっているのである。

③ 高齢者金融と大相続時代

上のグラフは、2019年、2025年、2030年の時点で、どの年代が預貯金や有価証券を保有しているかという総務省のデータである。日本全体を100としたときに、どの年代がお金を持っているかということであるが、どんどん高齢化していくのである。つまり、高齢者金融を考えることなしに、地域金融も成り立たないのだ。

④ 中小企業の後継者問題

中小企業経営者381万人のうち、25年に245万人が70歳となる。半数の127万人が後継者未定らしい。そして、約60万が黒字廃業の可能性に晒されている。これは、大変な問題である。そして、この問題に対して、地銀が期待されている役割は極めて大きいだろう。

5.地銀の有価証券運用(おまけ③)

① 地銀の有価証券の変化

厳しい状況のなかで、地方銀行の有価証券部門は、あらゆる悪材料を補うために「益出し」という形で経営陣からの要請があり、ポートフォリオを切り崩してきた。同時に有価証券運用の多様化にも取り組んできた。
まず簡単に地方銀行のバランスシートの変化を確認しておきたい。まず日銀預け金残高であるが、2017年度では38兆円超であったのが、21年度(22年3月)では97兆円を越えてきている。預け金比率、これは総資産に対する比率だが、12%から23%に上昇している。

右側は、有価証券だが、17年度の70兆円あたりから、21年度は75兆円兆に増加した。しかし、増加は僅かであり、総資産に対する比率は22%から17.9%に低下した。つまり、預け金と有価証券でバランスシートの40%を使用しているわけだ。有価証券運用は本業か?という議論はよくあるのだが、本業であろうが、なかろうが実態としてこれだけのバランスシートを使っているのだ。次に有価証券の構成変化を確認しておく。2017年度と2021年度の比較だが、まず国債は17年度の29.5%から20%を割れるところまで減ってきた。地方債が少し増え、社債と株式が減った。そして、よく新聞で取り上げられるのは、その他証券の項目。17年度の25.5%から31.6%に増加し、今では国債を上回る最大の項目になった。ここには外国債券投資やファンド投資が含まれる。

この「その他証券」項目について、9割の地方銀行が含み損で昨年6月末時点ではその含み損は1兆円を超えて話題になった。今では、もっと増えているだろう。
つまり長引く低金利で収益力が低下するなか、過去の高利回りの国債の償還が進む。その収益を補うために、地域銀行は外国債券やファンドなどに投資して、有価証券運用を拡大してきた。しかし、昨今の米金利上昇等を受けて、かなり厳しい状況というわけだ。今年は、円金利の上昇もポートフォリオを悪化させている。
では、地域金融機関の有価証券運用とは、どのような点がポイントになるのか?ポイントは、制約、バリュエーションとアロケーション、そしてポートフォリオの質の向上だろう。

② 地銀の有価証券運用の特徴

地域銀行の有価証券運用の1つの特徴は「制約」である。そもそも、有価証券運用の原資は、顧客からの預金である。そして規制業種であるため、リスク量の制約がある。外貨調達も簡単ではない。こうした、どうしようもない制約がある一方で、自ら制約を課しているものもある。コア業務純益へのこだわりだ。すなわち有価証券については売買益ではなく、有価証券利息がほしい。いわゆる資金利益に固執するという制約だ。しかし、これは銀行サイドの業務純益を良く見せたいというエゴだ。確かに、昔は銀行の優劣は、資金利益の多寡でジャッジされる時代もあった。しかし、もうそんな時代ではない。株主はもはや、地銀の収益についてそんなことを評価していないだろう。有価証券の議論をすると、必ず最適ポートフォリオなどの証券投資理論が出てくるのだが、これは制約のない世界を前提としている。成約が多くなれば、なるほど運用は難しくなる。ちなみに、地銀が目指す業務純益、コア業務純益など会計上の制約を加味した上で、どのような有価証券運用の在り方がベストなのかについては、まだ最適解はない。というか、そんな制約は取り払うべきだろう。

つまり、 地銀の有価証券運用の改革を考えるとき、まず考えるべきは、いかに制約から自由になるかだ。実は地銀の有価証券運用には有利な点がある。それはリターンを還元する相手がいないことだ。年金には予定利率があるし、ファンドにはリターンを返すべく投資家の存在がある。しかし、地銀は勝手に有価証券投資を行っており、誰にもリターンを還元する必要がない。有価証券運用の原資は、預金だが、預金の利回りは銀行の有価証券運用成績とは無関係だ。これは、大きなメリットである。 地銀の有価証券投資は、本来は単年度でリターンを還元すべき相手はいない。ゆえに個人投資家のような長期投資による「時間の利」を得ることができるのだ。しかし、実際には期間収益に追われ、無理な益出しなどを迫られており、この機関投資家でありながら、個人投資家のような長期運用ができるメリットを自ら放棄しているのだ。本来、地域金融機関の有価証券の目的は、単年度の期間収益ではなく、ポートフォリオの質の向上である。ポートフォリオの質の向上のためには、短期的な利益の追求が一番よろしくない。期間損益を出さないと、銀行の株価が下がるという意見をよく聞く。しかし、既に地方銀行の株価純資産倍率は1倍を大きく割り込んでいる。すなわち、この先の純資産を食いつぶしていく姿を見込んでいる。投資家は短期的にポートフォリオを壊して、むりやり収益を出すよりも、その収益目標の妥当性、ポートフォリオの質的な改善を評価するだろう。

③ 地銀の有価証券運用には、経営者の理解が必要

地銀の有価証券運用は、基本的に国債を中心とした債券が中心となり、そこに株やファンドなどを組み込むことになる。
下の図のように、市場では株高と債券高が同時に進行する適温相場な時もあれば、債券と株価が逆相関になるときもある。地銀の有価証券運用において最も厳しい状況は、債券安と株安の同時進行だ。いわゆる「全部売り」である。昨年は、まさに米金利の上昇を嫌気して、米国株が売られたが、あのような展開は買い持ちオンリーの地銀には厳しい展開となる。

つまり、地銀の有価証券運用においては、この全部売りの相場にどう対応するのかがポイントになるのだろう。世の中では、それを事前に対応しようという試みが続けられている。いわゆる予兆管理だ。しかし、現実的にはそんなことが出来れば、誰も苦労しない。やはり、相場の荒波には巻き込まれる。その際には渦中の対応が必要だ。これは、主に現場の仕事になるだろう。状況を整理して、その荒波の市場が「リスクを取るべき局面=リスクオンの調整局面」なのか、「全面撤退しリスクを抑える局面=リスクオフ」なのかを見極める必要がある。これが上手にできれば、有価証券のポートフォリオの質は良くなる。しかし、いつも完璧に出来るわけではない。リスクオンの調整に過ぎないと判断して、リスクを積みましたが、結果として相場は本格的なリスクオフとなり、損失が拡大してしまうケースはあるだろう。しかし、これは仕方がない。有価証券投資は、そういうものだからだ。だから、ロスカットルールなどが存在するのだ。
しかし、重要な点はその先だ。渦中の判断を誤り、結果としてロスカットとなった後である。今度は、ポジションを再構築しなければならないが、その判断は現場では無理だ。現場はロスカットをして、意気消沈しているのである。そんな局面でアロケーションとバリュエーションから、ポジションを再構築する局面であるとして、号令を出せるのは地銀の場合は、経営陣しかいないのである。経営陣からゴーサインが出ているなら、現場は動ける。従って、経営陣は有価証券の本質的理解と、銀行の全体の状況を鑑みて、有価証券部門にポジション再構築の指令を出す力量が必要なのだ。このところ、地銀の中にもマーケット部門出身の頭取などがちらほら出現しているが、厳しい局面を乗り切っているのは、やはりそういう経営陣がいる銀行である。


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