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来週の相場見通し(11/29~12/3)速報

 感謝祭の薄商いの市場に、とんでもない爆弾が届いた。南アフリカの新たな変異株報道である。実は、今回のレポートでは、欧州での反政府運動などの混乱を取り上げようと思った。ゆえに画像にはハンガーゲームの反政府の象徴であるポーズをを選んだのだが、この南アの変異株による市場の混乱で、内容を変えることにした。今回は速報版である。

さて、昨日の時点では、この変異株は、まだ「デルタ」などのギリシャ文字の名前も付与されていない「B.1.1529」なるものであった。この変異株は、まだ正体不明であるが、それゆえに市場は勝手にまずはリスクオフモードで反応した。これは、市場の特徴だ。この変異株は、「デルタ株よりも感染しやすく、かつワクチンが効かない」とか、勝手な憶測が飛び交っている。また、この変異株が免疫不全のヒト、すなわち南アフリカで多いHIV患者の中で進化したのでは?との話もあり、「エイズ+コロナ?」的な根拠のない恐怖の妄想を生じさせている。誤解のなきよう、繰り返すが、この変異株はまだ詳しい正体は不明だ。つまり、この変異株に関する報道は、全て今の段階では憶測や噂に過ぎない。何の根拠もない。しかし、それでもいったんは最悪のケースを織り込むのが、市場の特性であり、株価の急落と米国金利の低下(質への逃避)は、自然な動きだ。この変異株の正確な正体が分かるにつれ、それが本当に深刻なものか、これまでの変異株の延長線上の脅威かを、市場は改めて評価することになるだろう。その後、WHOは海外時間にこの南アフリカの変異株を「懸念すべき変異株」に指定し、ギリシャ文字の「オミクロン」を割り当てた。これから詳しいウイルス分析が開始される。個人的には、市場への影響は一時的と考えているが、それは正体をしっかり確認してから判断したい。しかし、タイミングとしては最悪だったといっていいだろう。また、日経平均株価については、泣きっ面に蜂というか、中国政府が滴滴グローバルに上場しているNY市場から撤退する計画をまとめるように指示を出したとの速報もあり、滴滴に出資しているソフトバンクグループが5%もの下落となり、日経平均株価を押し下げた。この報道が本当なら、その他の米国上場の中国企業への波及も意識されることから、ちょっと長引く可能性があるだろう。ソフトバンクのチャートは以下だが、25日移動平均(紫)も75日移動平均(黄色)も割り込んだ。復活に時間を要しそうだ・・・

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日経平均株価は、前日比▲747.66円安の28,75162円で引けた。これまで、2万9千円前半では底堅く、3万円手前から上値が重いという相場が継続していたが、この日の爆弾で一気に下抜けた。海外市場では、更に大きく下落して先物は27,850円まで売られて安値引けしている。テクニカル的には、あらゆる注目移動平均を下回り、短期間で復活できないと、上値は相当に重くなる可能性が懸念される状況だ。(下図)

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海外市場は、ブラックフライデーの半ドン取引で本来は薄商いであるなか、典型的なリスクオフ相場となった。株価は急落、VIX指数は28まで急上昇(下図1)、為替市場では円高の進行、米金利の急低下(下図2)、資源価格の急落(下図3)、新興国スプレッド急拡大(下図4)などが一斉に発生している。

(VIX指数 1)

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(米国10年金利 2)

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(原油価格 3)

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(新興国スプレッド 4)

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では、この後の市場はどうなるのであろうか?私は、今回の件は「過大な恐怖による不意打ち」であり、一時的な調整で終了すると考えている。今回、市場が恐怖したのは、新たな変異株による経済再開逆戻りへの懸念ではない。ウイルスは変異するのが仕事であり、これまでも何度も変異している。また新たな変異株による新規感染者の増加でもない。現に最近まで欧州を中心に感染者は過去最多ペースで拡大している中でも、世界のリスク資産は堅調に推移してきた。そういうリスク要因は、もう市場には耐性が備わっている。今回のオミクロンに市場が動揺したのは、「ワクチンが効かない」という憶測である。「ワクチンが効かない=これまでと全く別の変異株=重症化する=死亡率上昇」というイメージである。しかし、これは疑わしい。何故なら実は今年の5月にも南アフリカでは「B.1.351」という変異株が登場した。これも、当初はファイザーのワクチンをすり抜けると警戒されたが、恐らくほとんどの人の記憶には残っていないだろう。つまり、これまでの変異株と同じような脅威だったわけだ。今回も、ファイザーは100日以内にこのオミクロンへのワクチンを生成できるとの報道も出ている。下の図はモデルナの株価であるが、昨日は20%以上も上昇した。こうしたメッセンジャーRNA企業が十分に対応できると思われるから、株価急落の中で買われているのである。

(モデルナ)

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来週の市場はまずは、落ち着けるかどうかである。この週末にどれだけのこのワクチンに対する新たな報道が出てくるかにも依るだろう。これまでの変異株の延長線上なら、市場の回復は早いかもしれない。個人的には岸田政権の水際対策にも注目したい。シンガポールは過去14日にアフリカへの渡航歴がある人を隔離、英国はアフリカ数カ国のフライトを一時停止した。米国もアフリカ南部からの渡航に制限をかけた。岸田政権になってから初の水際対策となる。迅速な措置を期待したい。日経平均株価は、いつもながらリスクに晒されると極めて脆弱だ。南アフリカから地理的にも遠く、国内のコロナの感染も抑制されている日本株が、激しく下落するのはいつもの構図だが、日本株は冷静に押し目買いで対応していいと考える。日本株は、VISIONに注目したい。

V・・・Valuation  今回の急落により、日経平均のPERは13倍前半である。割安だから株価が押し上げられて上昇するわけではないが、株価はサポートされる。下落すればするほど、下げには強くなるはずだ。

I・・・Inflation  世界を苦しめているインフレも日本では、ようやく前年比でプラス圏というレベル。少なくとも他国のように利上げとは程遠い状態。

S・・・Stable 政権の安定度だ。先の選挙で与党は絶対安定多数を確保した。今の世界でこういう民主主義国家はほとんどない。仮にこのオミクロンが新たな脅威になっても、日本だけはいくらでも追加の財政支出を簡単に組むことができる。

I・・・Innovation 岸田政権はまだよく分からないが、自民党の政策集をミリ限り、最も言及が多いのは技術開発やイノベーション支援である。とくに最先端分野にはこれまでにない補助金がつく。だからTSMCやマイクロンが日本に設備投資するのだ。

O・・・Overseas 海外投資家は年初から日本株を1.2兆円も売り越している。ひとたび見直されることになれば、日本株の買い余力は高い。

N・・・Normal 経済正常化である。日本では新型コロナの感染が今のところ、極めて抑制されている。世界で感染がまた問題になるなか、この日本国の安全性は高い評価を受けるだろう。だからこそ、水際対策は重要なのだ

このように日本株はポテンシャルがある。しかし、不足しているのは「vision」そのものだ。すなわち、岸田政権の全体像というか、向かうべき将来の日本像がまだ見えないことだ。新しい資本主義とか、何のことか分からないのだ。また自民党の党政策と政権の特に財務省サイドとの見解の対立などから、アクセルとブレーキが同時に踏まれるようなちくはぐさも目立ち、これが日本株の上値の重さになっていると思われる。しかし、岸田政権はスタートしたばかり、まだ通常国会も行われていないのだ。これから個別具体策で岸田政権のvisionは明確になっていくだろう。ということで、日本株はパニック的に大きく下落した局面は、しっかり押し目買いで良いと考えている。週間見通しについては、追ってレポートしたい。

今回は特別バージョンでした。


   



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