見出し画像

来週の相場見通し(4/15~4/19)①

1.はじめに

今回は簡易版です。テーマは「葛藤」。葛藤を通じて、市場のポイントを確認する。まずは中東情勢が緊迫化しているため、中東を中心に整理し、追って異なるテーマの葛藤を取り上げるつもりだ。

2.中東の葛藤

まずは緊迫化している中東の葛藤だ。今週は週末にかけてイスラエルとイランの情勢が急速に緊迫化した。そうはいっても、これは既定路線だ。イスラエルがシリアにあるイラン領事館を攻撃したのが4月1日であり、4月2日にはイランの最高指導者のハメネイ師が「神のお力により、この犯罪を必ず後悔させる」と報復を宣言した。更に4月5日には、サラーミー革命防衛隊総司令官が「報復がなされないことは、あり得ない」と発言している。これまでも、イランは報復攻撃を必ず実施してきた。ソレイマニー司令官が米国に暗殺された際には、イラクにある米軍基地を砲撃した。2023年12月25日にイスラエル軍が革命防衛隊のムーサヴィー准将を殺害した際にも、イランはイラクにあるイスラエルの情報機関(モサド)の拠点にミサイル攻撃を行い、報復した。「やられたら、やり返す」というのが、イランのやり方である。但し、市場がそれほど懸念していなかったのは、イランは現段階でイスラエルと本気で戦う意向はないことは明らかであり、報復攻撃は行うものの、これまでのように限定的な報復で、事を大きくすることはないだろう。実際にはヒズボラ等を通じた「代理戦争」形式の報復を継続するだろう。あくまで裏方に徹するはずだ。このように捉えているからである。
何故なら、イスラエルは孤立を深めている。下のエコノミスト誌の表紙が示すように、イスラエルはガザへの苛烈な攻撃により、世界から非難され、いよいよ最大の同盟国である米国からも、厳しい言葉を浴びるようになっている。イスラエルが、このように自滅して、世界から孤立を深めることは、イランにとっては、非常に喜ばしいことだ。しかし、イランがイスラエルと全面的に戦争となった瞬間に、米国はイスラエルを完全に支援し、西側諸国も米国と連動して、反イランを明確にするようになる。せっかく、イスラエルが孤立しているのに、イスラエルを蘇らせてしまうのだ。本当は大規模な報復攻撃をしたいが、それをやりにくいのである。革命防衛隊の強硬派は、米軍とも戦うくらい燃えているとの報道もあるが、そうした過激な軍部を抑えながらも、メンツを維持するために、それなりの報復攻撃をしなければならない。これがハメネイ師の葛藤であろう。

こうした中で、最新情勢に動きがあった。イスラエル資本が運営する多国籍企業Zodiac Maritime社が所有する貨物船MSC ARIESが、イラン革命防衛隊の急襲により、拿捕されたとのことだ。そして、イスラエル軍報道官によれば、イランがイスラエルに対して、無人機で攻撃を開始したとのことである。イスラエル側も領空を閉鎖したと報じられている。戦争状態ということだ。
こうした状況下では、偽情報も飛び交うことから、当面は情報には慎重になる必要があるだろう。「ホルムズ海峡を封鎖する」とか、「イランに核攻撃をすべし」とか、色々と強い言葉も飛び交いやすい。そういうワードに市場は反応しやすいため、注意を要するが、そのような可能性は極めて低いだろう。但し、イランは「やられたら、やり返す」主義と述べたが、イスラエルは、「やられたら、10倍返しにする」ことを貫いている国である。これがイスラエルがアラブという周囲が敵国の中で、生き抜いてきた彼らの正義である。そして、イスラエルとしては、イランをこの戦争に巻き込むことで、世界のイスラエル批判をかわし、国内ではネタニヤフ政権への反対デモを蹴散らし、求心力を高めたいと考えている。すなわち、イスラエルはイランの報復攻撃に対して、敢えてイランのメンツを潰すような軍事行動を取る可能性も否定できない。事態をエスカレートさせないために、バイデン政権はイスラエルと、イランの双方に自制を呼びかけ、空母を派遣して圧力を強めているものの、ここ最近の米国はこの地域での強い影響力を失っている。
マーケット的には、この動きが週末の間で収束できるのか、来週もメインテーマになるかで状況は変わってくるだろう。市場では「遠くの戦争は買い」という言葉もあるように、基本的に米国株式市場にとって、中東での戦争が直接大きな影響を及ぼすことはない。しかし、市場は「前例のない事件を嫌う」ことも確かだ。中東戦争がこれまで何回も繰り広げられてきたように、市場はイスラエルとアラブ諸国の戦争や、イスラエルとイランの代理勢力の戦い(ヒズボラ等)には慣れている。しかし、イランはアラブ諸国ではなく、ペルシャ人であり、イスラエルの建国以来、イスラエルとイランが直接戦ったこともなければ、イスラエルやイランの本土が直接攻撃されたことすらない。つまりは「前例のない事件」になる可能性がある。

バイデン政権は、今のネタニヤフ政権に手を焼いている。先般は民主党上院議会のトップであるシューマー院内総務が、「ネタニヤフ首相は国益よりも、みずからの政治的な生き残りを優先し道を見失った。ガザ地区での民間人の犠牲をあまりにも容認し、国際社会でのイスラエルへの支持を歴史的低水準にまで押し下げた」と異例に発言をしている。本年では、イスラエルに新政権が誕生することを期待しているであろう。しかし、いざイスラエルとイランの戦争になれば、米国は最大の同盟国であるイスラエルを全面支援する道しかない。イスラエルを助け、ネタニヤフ政権を助けることになる。イランの脅威が沈静化すれば、ネタニヤフ政権は再びガザ地区のラファへの攻撃を再開して、ハマスの完全中立化を完遂させるだろう。そして、多数の民間人が犠牲になることだろう。これがバイデン政権の葛藤である。

イスラエルとイランが戦争状態になった場合、その他の国はどう動くのだろうか?メインシナリオは、「動かないし、動けない」だろう。ロシアは、イランを支援する発言を出しそうだ。プーチン大統領は、このところ国内において反ユダヤ的な発言を何度かしている。しかし、ウクライナ戦争の最中であり、軍事的にイランを助けるような状況ではない。中国はどうだろうか?中国は中東でどこかの国に肩入れすることは避けている。イランともサウジともイスラエルとも良好な関係を維持しようとしている。但し、中国の中東での影響力は高まっている。昨年の3月は、中国が仲介してサウジアラビアとイランは外交関係を修復した。あの外交修復の発表は、北京から発信されたことは記憶に新しい。
仮に中国がイスラエルとイランの戦争のエスカレートを抑止するような影響力を発揮した場合には、米国に代わるグローバルサウスのリーダーとしての評価を高めるだろう。ややこしいのは、上海協力機構である。イランは昨年、この正式なメンバーとなっている。上海協力機構は、もちろん軍事同盟ではないものの、BRICSのような経済的な枠組みよりは、もう少し踏み込んだ「準軍事同盟」的な側面も持っている。戦争と言うよりは、団結してテロ等を防ぎ、地域の平和安定を維持することをミッションとしているものの、こうした中東地域での不安定化のさいに、どのように動くのか興味深い。

今のところの動きでは、ビットコインが急落している。有事の際には安全資産として機能すると言われてきたが、この局面では大きく下落している。デジタル・ゴールドじゃないんかい。これから24時間から48時間で色々な動きがあるだろう。来週の市場のオープンまでに落ち着いてくれれば良いが、そうでない場合は、日経平均株価はドスンと下がることになる。米国債が安全資産として大きく買われるか、あるいは原油高によるインフレ懸念でむしろ売られるか・・これは状況の深刻さで異なりそうだ。地理的に近い欧州は、株価は急落し、ドイツ国債などは質への逃避で買われるだろう。
とりあえず、速報的に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?