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来週の相場見通し(9/13~9/17)

 マーケットでは、菅総理の自民党総裁選不出馬により、日本株が急騰する展開が継続している。欧米株も、経済指標の減速が目立つなかでも比較的底堅い推移。欧米金利は、金融正常化への思惑や旺盛な起債により、緩やかに上昇している。なにしろ今週は、3年債、10年債、30年債の入札に加えて、企業から800億㌦弱もの社債が発行されるというとんでもない週となった。しかし、投資家の需要は強く、入札は全て好調で、社債のクレジットスプレッドはむしろタイトになった。これは、かなり驚くべきことで、投資家の米国債券への投資需要の強さを示している。

まずは、お祭りモードの日本株からだ。菅総理は、9月に入っても総裁選での再選に挑む姿勢を表明していただけに、9/3の突如の総裁選不出馬の決断は、市場にとってサプライズとなった。もっとも、8/22の横浜市長選で菅総理が全面支持した小此木氏が惨敗して以降は、菅総理の動向は慌ただしく、二階幹事長やら、小泉環境相と面談する回数が増えていたことから、市場では「菅総裁は総裁選出れないだろ~」というムードは出ていた。しかし、党役員の人事交代を9/6にも実施すると報じられていただけに、9/3にいきなり総裁選不出馬と、その後の辞任を決断したには驚きであった。

日経平均は8月末の2万7千円台後半から、3万円まで一気に上昇した。この間に日経平均の予想PERは13.1倍から14倍弱まで上昇した。現在の日経平均のEPSは2,160円程度で変化はなく、バリュエーションの切り上がりによる株価上昇である、つまりは、総裁が交代することで、日本が再始動することへの期待感である。ちなみに、この菅総理の退陣で年末に向けた日本株上昇材料は、かなり豊富になっている。

① 「お祭り相場 第一段階」(総裁選から、内閣組閣まで)

まず、この展開がサプライズであったことから、マーケットは準備ができていなかった。そういう中で「総裁交代お祭り相場」が開始した。この段階は、総理が交代となることで、日本を取り巻く閉塞感の全てが解消されるという「幻想と期待」の時間帯である。日が暮れてきて、太鼓や笛の音が鳴り始め、金魚すくいのお店や、りんご飴の屋台がオープンした段階だ。この後のお祭りは楽しいに違いないというムードが漂う時間である。正直言って、コロナ対策はどの総理が対応しても、そんなに完璧にできるわけがない。そして、菅総理はコミュニケーションに問題はあったとはいえ、何もしなかったわけではなく、1年という短期間に多くの仕事をやった。しかし、それでも菅総理がここまで評価を落としたのは、コミュニケーション力の問題であろう。このことは、有事下におけるリーダーのコミュニケーション力がいかに重要かということを示している。ところで政治家は、理想を語らせたら、どなたも雄弁である。菅総理も、1年前の総裁選でのスピーチは実に雄弁であった。政治家で、コミュニケーション力に差が出るのは、理想を語るスピーチではなく、現実の厳しい状況に対する説明や、失政や失策に対する説明である。従って、これから総裁選挙を戦う各候補者は、どなたも、それなりに説得力のある雄弁なスピーチで日本の明るい未来を語るだろう。そのことは、株式相場のお祭りを一段と盛り上げることになるだろう。それが幻想だとしても・・・日程としては告示日の17日に共同記者会見、そして23日から26日にオンラインで政策討論会が開催される。

② 「お祭り相場 第二段階」 (衆院解散総選挙)

総裁選が終わり、組閣も完了すると、通常はいったんお祭りは終了モードとなるのだが、今回は終わらない。何故なら、その後に衆院解散総選挙があるからだ。現在の自民党は衆院で276議席、公明党の29議席と合わせて305議席も保有している。総議席は465議席で過半数は233議席である。70議席を自公で失っても政権交代にならない状況だ。通常ではあり得ない。しかし、菅総理の選挙での弱さや直近までの低迷から、あり得ないはずの政権交代が起こっても不思議ではないムードが漂っていた。それが、日本株のPERに重くのしかかっていたはずだ。しかし、このテールリスクは大きく後退した。特に今回のような激しい自民党総裁選挙を勝ち抜いた総理は、恐らくはそれなりに高い支持率でスタートするだろう。こうなると自民党は、そもそも選挙で大きく議席を落とすこともないかもしれない。何故なら、最大野党の立憲民主党の勢いが全くないからだ。2009年の政権交代前には、民主党の支持率は3割弱もあった。鳩山氏の人気も高かかった。しかし、現在、これだけの菅政権の混迷の中でも、立憲民主党の政党支持率は5%~10%と冴えない。枝野立憲民主党代表の存在感もまるでない。マーケット的には、そんな立憲民主党が共産党とも組んで、むりくり政権を奪取することをリスクと考えていたわけだが、そのリスクはもうなくなった。第二段階のお祭りのクライマックスは、衆院選挙での勝ち方の度合いだ。新総裁のもとで強い政権がスタートするなら、株式市場にとっては追い風がまだ続くことになるだろう。

③ お祭りを支えるしっかりした屋台骨=企業収益

日経平均のEPSは2,160円であり、3万2千円まで上昇しても、まだPERは15倍に届かない。また、ここまで上昇すると、年初来騰落率は欧米株と同程度の17%となる。全く問題のないレベルだろう。しかも、今後のEPSが引き上げられれば、日経平均はさらに無理なく3万円台がベースラインとなる。PBRに意味があるとは思わないが、これまで日経平均はPBR1.37倍程度がトップとなることが多かった。現在のレベルだと、3万2500円レベルだ。すなわち、日経平均は企業業績の回復により、3万2千円程度までは無理なく上がっていける下地はできている。そこから上を目指すには、更ならEPSの上昇と、新政権において期待と幻想が剥落しないことが条件となろう。

④ 新型コロナ感染者の抑制とワクチン&治療薬

東京都の新型コロナの新規感染者は8月に一時5千人を超えた。Googleの予測では8/19には1万人に達するとのことだったが、その後感染者は急速に減少している。ワクチンの接種回数はあまり増えていないが、政府によれば9月中には希望する国民全てに2回接種できるワクチンは確保済みとのことであり、変異株の懸念はあるものの、総選挙が行われる頃には、感染者は相当に抑制されているかもしれない。また非常事態宣言は9/12から9/30まで延長されるとのことだが、このまま抑制が進めば、次は解除に向かうことだろう。画像3

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加えて治療薬についても、明るいニュースが目立つようになってきた。開発段階で第三相にある経口投与型の治療薬として、富士フィルムの「ファビラビル」、中外製薬の「AT-527」、ファイザー社の「PF07321332」、興和の「イベルメクチン」など色々出てきている。今年中にも初期の結果が出て、承認へ向けた動きが加速する可能性もある。これは、昨年モデルナなどのワクチンが出てきて、株価を強烈に押し上げたのと風景が重なるものがある。

このように日本株を取り巻く環境は急速に良くなっている。もともと8月末安、年末にかけて上昇するアノマリーを持つ日経平均株価は、引き続き好調な推移を見込んでいいだろう。

自民党総裁選について、誰が勝利するのかは分からないが、いくつかポイントを押さえておきたい。まず、河野太郎氏は、本当に党員投票でそれほど人気があるのか?である。各種の新聞系の世論調査では、総理になってほしい人のランキングでは、常に河野太郎氏が1位となる。河野太郎氏は、どの層にそれほど支持されているのだろうか?失礼ながら、あの風貌とパワハラ的なイメージから女性にはそれほど人気はないだろう。女性票は宏池会のプリンスである岸田氏が有利そうだ。また河野氏のこれまでの「女系天皇への理解」など、保守派から見れば河野氏はかなりリベラルな政治家であり、やはり支持はしにくい。年配者はどうだろう?河野氏の得意技は、SNSを使用した分かりやすいメッセージの発信だが、恐らく高齢者はあまり見ていない。そうなると、河野氏の支持とは、若手から現役世代の男性が中心ではないだろうか?全国的な世論調査では、河野氏が支持を集めるのも、それなりに理解できる。しかし、自民党の党員投票ではどうだろうか?自民党の党員は、かって1991年には546万人もいたが、現在は110万人程度まで減少している。自民党は120万人を目標に掲げている状況だ。ここ最近は、新たな党員も少しづつ増加しているが、党員の年齢層は相当に高いと推測される。自民党の党員投票で本当に世論調査のような河野氏が圧勝となるかは疑問だ。ちなみに、この種の世論調査は、媒体によりかなり差が出る。9/6~9/9に実施されたヤフーニュースの「総理にふさわしい人」調査では、なんと高市氏が49%を取得して圧倒的な1位だった。2位が河野氏で26.5%、3位が岸田氏で11%、4位が石破氏の9.9%だった。この投票では23万5千人が参加したので、それなりに意味はある。特に高市さんには、現在、かなり追い風が吹いている。それは、自民党内でやはりカリスマ的な存在である安倍前総理が支持をしたこと、それとアンチ高市派が逆に高市さんの存在感を高めている点だ。高市氏は政治的には相当に保守色が強く、靖国神社の参拝や対中強硬路線を明確に打ち出しているため、ファンも多い一方で、強烈なアンチも存在する。それは当然のことであるが、こうしたアンチは政治記者の中にもおり、そうしたアンチ記者が意地悪な質問やヤジで高市さんを困らせようとすればするほど、それを見事にさばく高市氏は再評価されることになる。アンチが高市さんの評価を上げてしまっているのだ。また、高市さんは世間的に言われるほど泡沫候補ではない。自民党の中に、青山繁晴(参院議員)さんが会長を務める「日本の尊厳と国益を護る会」があり、そこには67名程度の議員が属している。その青山氏は、高市さんの推薦人であることを明らかにしている。青山氏は、護る会の代表としてではなく、1人の議員として高市さんを推薦している立場を取っているが、国益を護る会のメンバーの多くは、それぞれの信条から高市さんを支持すると思われる。総裁選の行方は、混沌としている。但し、株式市場は河野銘柄が買われており、河野総裁誕生を見ているようだ。(下図:金曜日の前日比率に注目

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さて、米国に移ろう。米国雇用統計において非農業部門雇用者数は、予想の73万人程度から23.5万人まで急低下した。あまりに上下の変動が大きいことから、単月の数字ではなく、これまでのトレンドで判断する必要はあるものの、米国における学校再開後のコロナ感染再拡大等により、米国の景気の勢いは明らかに減速していると思われる。しかし、今のところFRBメンバーもマーケットも年内のテーパリング開始決定については、ほとんど揺らいでいない。ただし、このテーパリング決定は早まることはないが、後連れするリスクはある。

7月の米求人件数は再び過去最高を更新して1,090万件(下図)となった。経済活動の急速な回復により企業の求人意欲は極めて強いものの、コロナショックからの回復局面では、雇用の戻りは鈍く、明らかに通常の景気減速からの回復期とは異なる状況だ。市場やFRBが想定するよりも、雇用のここからの回復は順調でない可能性は念頭に置いておきたい。

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さて、米国債務上限問題と政府閉鎖が徐々に市場に意識される展開となってきた。米国議会は、引き続きバイデン政権のインフラ投資法案について、民主党内でも整理がついていない。バイデン大統領の支持率は、トランプ前大統領なみに低下しているなか、政府閉鎖となるリスクはある。ところで、政府閉鎖と債務上限問題は全く別の話であるという理解は重要だ。政府閉鎖は、米国にとって珍しいことではない。これまで22回の政府閉鎖が発生している。ちなみに大半は1日~3日の超短期間の閉鎖で終わっている。これまで最も閉鎖機関が長期に及んだのは、トランプ政権における33日間だ。(下図)ところが、その間のS&P500の騰落率は、あまり特徴がない。33日間の長期の閉鎖期間中に、なんとS&P500は10%も上昇している。その程度の話なのだ。

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一方で債務上限問題は深刻だ。米国の歴史上で債務上限が決着できなかったことは1度もない。これは米国債のデフォルトを意味する。2011年には、そういう危機があり、これを「米国債ショック」と呼ぶが、その際には株価は急落した。もちろん、債務上限は合意になり、米国債はデフォルトはしていない。この問題はチキンゲームだ。必ず妥協にはなる。しかし、万が一妥協ができずにデフォルトになれば、とんでもない問題になるものだ。以下のチャートは、法廷債務上限の推移であるが、米国ではこれまでずっと引き上げられてきたのである。そう考えると、債務上限問題も政府閉鎖も、中長期的には恐れるに足らないと思われる。こうした問題で株価が調整局面となるなら、そこは押し目買いチャンスとなるだろう。

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先週末のニュースとしては、バイデン大統領と習近平主席が2月以降で初となる電話会談を実施したことが注目される。バイデン大統領の焦りが見える。アフガニスタン問題で支持率を落としているバイデン大統領にとっては、10月のG20、その後のCOP26は需要なイベントとなる。そのためには、中国との関係の改善が必要な状況だ。この電話会談もバイデン大統領から持ち掛けたとされている。この報道が出るや、株式市場は上昇し、債券は下落した。市場は、まずはこの先の対面での米中首脳会談の実現、そして米中関税対立の緩和を期待したのである。私は、米中が相互に課している広範囲で高い関税率は、徐々に撤廃方向に向かうと見ている。しかし、米国時間に入ると、米国が中国の補助金政策を調査して圧力をかけるというニュースが出た。そして、これを株式市場は米中対立の激化と捉え、株は下落基調を強めた。しかし、これは間違いであると考える。バイデン政権が、トランプ前大統領が実施した対中関税を無条件で外せば、中国に対して弱腰であるという批判を受けることになる。すなわち、対中関税政策を緩和、撤廃するためには、そのための調査という大義名分が必要であり、関税を外すとしたら、表向きは一方的な宥和策ではなく、併せて新たな貿易合意や約束を結ぶ流れになるはずだ。つまり、米中関係の宥和には見えない形で、中国との関係を改善するはずである。私は、米国が中国の補助金政策への調査が始まるということは、トランプ流の関税政策から、バイデン流の新たな貿易合意のスタートと考えており、これはマーケットにとっては良いことだと思う。何故なら、関税政策が修正されると、それは現在の市場の懸念である「材料費高騰における企業収益の圧迫」という問題と、「最終財価格上昇によるインフレ懸念」という2つの大きな市場の懸念に対して、ダイレクトに素早く効果を出すからだ。産業補助金政策などは、もはや中国だけでなく、米国も欧州も一斉にやっている。米国のアメリカン・イノベーション法案など、産業政策そのものである。要するに大義名分の調査に過ぎないのである。

さて、9月はFRBの金融政策においても、米国経済指標への注目度は高まるほか、議会再開後の各種法案への対応が注目されるほか、日本の総裁選、ドイツの総選挙と重要なイベントが多い。株式市場全般においては、リスクに慎重になる必要があるだろう。但し、日本株についてはスピード調整の懸念はあるものの、年末にかけて一段高の材料が豊富であり、もう一段の上昇を見込む。海外投資家の日本株投資も復活してきている。8月の第4週は現物と先物で3,316億円、9月第一週は6,625億円の買い越しとなっている。来週の統計の発表では、更に大きな買い越しとなっていると思われ注目したい。来週の日経平均の予想レンジは、29,750円~30,800円を予想する。

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