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来週の相場見通し(5/1~5/5)②

1.日銀金融政策決定会合

植田新総裁のもとでの第一回目となる金融政策決定会合が実施された。幾つかのポイントを指摘しておきたい。

① 学者という重荷

まず市場の雰囲気なのだが、植田総裁は初の学者出身の総裁ということで、何かと「学者だから・・・」という目線で市場から評価されるようだ。例えば、今回の決定会合は2日目の13時過ぎまで継続した。これまでの日銀の決定会合は、12時頃には終わるケースが多かった。展望レポートがある場合でも、12時半くらいだ。13時まで時間がかかる場合は、大きな政策変更を伴う時だ。今回は、大きな金融政策の変更はなかったが、かなり長引いた。初回ということもあるのだが、市場では「学者だから、説明が丁寧で時間を要する」とか、「これからの会合は平均的に13時を超えるだろう。学者だから」という声が聞こえてきた。また、記者会見の説明でも、黒田総裁のような断定的な見解を示すというよりは、「色々な状況があり得る」と全方位的な発言が目立ったことから、「学者だから・・・」と言われていた。これからも、何かと「学者だから・・・」との枕詞がついてしまうのだろう。ちょっと気の毒に感じる。

② フォワードガイダンスの変更

今回の会合でフォワードガイダンスの修正が行われた。しかし、これは、フォワードガイダンスを、何か意図的に変更したわけではなく、コロナが収束したにも関わらず、コロナに紐づいて残っていたガイダンスを消したり、金融緩和局面の際に使用していた文言を外したりと、現状の金融政策に沿ったガイダンスに調整したに過ぎない。市場の予想通りだ。

③ 検証作業

検証作業の開始自体は、市場の予想通りだ。しかし、その検証作業にかける時間が「1年から1年半」という点に、まず市場は驚いた。2016年の7月末の金融政策決定会合で、黒田総裁は「物価動向や金融政策の総括的な検証作業」を行うとアナウンスした。そしてその検証作業の結果を次回の9月の会合で発表したことがある。このように、これまで日銀の検証作業は数ヶ月の短期間で行われてきた。市場では、「1年から1年半の検証作業=検証期間中は現状の金融政策の維持=金融引き締めの後退」とイメージされて、「超ハト派的」と捉えられた。しかし、この点については記者会見でテレビ東京の大江さんが「検証期間中には、金融政策の変更はあるんですか?ないんですか?」と直球で質問してくれることで明確になった。「検証作業中にも、金融政策の変更はある」とのことだ。いつも思うが、記者会見でいかに有効な質問が出るかが重要だ。その点、大江氏はいつも的確な質問をして、市場の疑問解消に努めてくれている。要するに、今回の検証作業は金融政策とはリンクしないということだ。ECBも2019年の理事会で「1年間の検証作業」をアナウンスした。あのパターンの検証作業となるのだろう。検証作業中に、現行の金融政策の副作用が目立ったり、検証結果の途中段階でも現行政策のマイナス面のほうが大きいと判断されれば、いつでも金融政策は変更になるということである。但し、市場では「YCCの解除は検証作業期間中はあるだろう。しかし、マイナス金利解除は検証作業が終了後となるだろう」というビューがベースシナリオは変わっていない。

④ 展望レポート

今回の注目ポイントの1つは、はじめて公表される2025年の物価見通し(CPIコア)であった。市場では1.8%程度が予想されているなか、強気な見方では政策目標の2%台到達を予測する向きもあった。結果は1.6%と市場よりも、かなり弱気のビューが示された。ちなみに、2023年は1.8%、24年度は2.0%と前回の時点からそれぞれ0.2%引き上げられている。つまり、日銀の解釈からすると、24年度に目標の2%に到達する。しかし、それは一時的で25年には1.6%と大きく低下してしまう。だから、金融緩和政策を維持するというロジックだ。この点はシンプルで分かりやすいが、本当にそのようにインフレ率が低下するかは分からない。最近、あまりに色々な物が身近で値上げされており、意外に2%物価目標を上回る状況もあり得ると考えている。

⑤ 市場の反応

結果から言えば、円金利は小幅に低下した。下のチャートは、20年金利であるが、10bp程度低下した。しかし、一段の金利低下は、国内要因からは難しいだろう。

(20年金利)

10年金利もやや低下した。(下図)しかし、今年の1月に現状維持が決まった時と同じような動きとなるだろう。持続的に低下するというよりは、下がった分は、戻ってしまうと思われる。

(日本10年金利)

為替市場は、大きく反応した。しかし、これは金融政策というよりは、膠着してた相場が上にブレイクしたのだろうと判断している。クロス円で円安効果も大きいだろう。

(ドル円相場)

全体として、今回の金融政策決定会合では、大きな変更は何もなかった。しかし、市場のムードとして、市場では「就任前より就任後に、植田総裁は現実路線化している」との見方が強い。すなわち、政治からの影響や様々な圧力の中で、なかなかドラスティックに黒田日銀路線から変更することは難しいとのムードは強まっている。すなわち、出口戦略に対する植田総裁への期待感は低下している。まだ、そうした評価は時期尚早と思われるが、なんとなく市場のムードはそんな感じだ。

2.衆院解散

4/9、4/23に実施された統一地方選と衆参両院議員補選では、維新の躍進、立憲民主党の凋落が反映された。衆参補選では、薄氷の勝利とはいえ、自民党は4勝1敗となった。岸田首相が衆院解散を行う可能性が強まっている。
岸田首相が早期解散を行う要因は5つ。①足元の支持率が上昇していること、②来年の9月には自民党総裁選を迎えること、③広島サミット閉幕後には支持率が上がりやすいこと、④本年末には軍事費増大の政府支出の財源として増税を検討すること、⑤最大野党の立憲民主党が凋落していること

それにしても、⑤の立憲民主党の凋落ぶりは際立っている。大分選挙区では、立憲民主党議員の知事選出馬に伴うもので、絶対に負けていはいけない補選だったが、これに負けた。千葉5区は政治とカネの不祥事で自民党の薗浦健太郎氏が議員辞職をしたことによるもので、懲罰的に自民党候補には逆風となるはずだが、ここでも立憲民主党は勝てなかった。立憲民主党は最大野党である。その責任は大きい。枝野幸男代表から、泉健太代表になって、立憲民主党の凋落ぶりはますます加速している。
そうなると、岸田首相にとっては、ライバルは野党ではなく、自民党内ということになる。岸田首相の宏池会は派閥としては、超名門だが議席数では弱小派閥であり、盤石ではない。最大派閥の清和会は安倍氏が殺害された後、新会長を巡るごたごたが継続してきたが、このところ萩生田氏が次期会長として頭一つ抜けてきた。もちろん、萩生田氏は岸田首相のライバルとなる将来の首相候補である。岸田首相としては、萩生田氏が清和会の会長となり、勢力を増す前に衆院解散を行い、来年の自民党総裁選は、無風で乗り切るというのは戦略として描いているだろう。
そういうことなので、6月解散、7月総選挙という可能性は想定しておくべきだ。ちなみに、現職の首相の支持率が回復している中で総選挙が行われ、更なる信任を手にすることは、政策の実行性を高めるため、市場においてはポジティブな反応となるだろう。特に現在は、海外投資家のマネーが日本株に大量に流れてきている。「岸田政権はマーケットフレンドリーでない」との市場の当初の評価も、岸田政権の新しい資本主義の中身が、どんどん変容し、分配重視政策から、まずは成長重視政策に切り替わっていることで、すっかり聞こえてこなくなった。衆院解散自体は、株式市場にとっては追い風となると思われる。

3.日本株への追い風

日本株がじりじり上昇している。来週はGWで動きにくいものの、GW明けは海外で変なことが起きなければ、2万9千円台、そして3万円トライという流れになってきている。
その中でもインバウンドへの期待は強い。 3月の訪日外国人数は182万人となり、2月の148万人から増加し、2019年の7割弱まで回復した。また、23年1-3月期の訪日外国人客の旅行支出は18万5616円であり、19年同期比で28%超増加した。5/8以降は新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に引き下げられることから、更なるインバウンド消費が期待される。特に中国からの訪日客は7.5万人程度と依然として19年の11%の水準と低迷しており、今後の伸びが期待される。
海外投資家の日本株フローは、4月の第三週目までで、既に岸田政権発足以降の最大の流入額となっている。(下図)単月で3兆円を超える勢いだ。これから、日本企業の決算発表が集中的に出てくるが、この流れは継続するだろう。

(海外投資家の日本株フロー)

4.ECB理事会

最後に来週のECB理事会のポイントを確認しておきたい。ECB理事会に先立ち、重要な経済指標は5/2のECB銀行貸出調査である。既に前回調査では、総合指標はリーマンショック以来の水準まで引き締められていた。今回の調査期間は、3月の中旬頃であり、米国の金融不安、そしてUBSによるクレディスイス買収の混乱期間に該当するため、要注意だろう。ちなみに、ブルムバーグのユーロ圏貸出動向調査指数は下のチャートのように大きく落ち込んでいる。

(ブルムバーグのユーロ圏貸出動向指数)

市場ではECB理事会では、25bpの利上げが予想されている。また同時に7月からのAPPの再投資の完全停止も発表されるかもしれない。いずれにしても、ECB内ではタカ派とハト派の対立は、FOMCメンバーの比ではない。ラガルド総裁としても意見の調整が難しいだろう。ハト派の主張は基本的にはいつも変わらない。これ以上の利上げは、景気を壊すというものだが、タカ派の主張は色々と新たな要因も加わっている。最近のECBメンバー(タカ派)からは、新たなインフレリスクとして、2点が注目されている。1つは「二次的効果」である。これは高インフレが賃金動向へ急速に波及するリスクだ。ドイツの2大労組と言えば、金属産業労組のIGメタルと、公共サービス労組の「ヴェルディ」だが、最近ではこの2大労組の呼びかけで、ドイツでは各地で大規模なストライキが頻発している。ちなみに、今週はドイツの連邦と地方自治体の公務員(約250万人)の賃金交渉が妥結されたが、ヴェルディによれば平均的な賃上げ率は11.5%とのことだ。激しいストライキでかなり高い賃上げ率を求めるという動きは各地で発生しており、こうした二次的効果でユーロ圏のインフレ率は下がらないとの主張は一定の説得力があるだろう。
二つ目は、「グリードフレーション」だ。ECB当局者から最近、企業利益率の拡大をインフレリスクとして見做す発言が出ている。企業は仕入れ価格が上昇したときは素早く製品を値上げし、逆に下った時の値下げは遅らせるなどして、インフレに便乗して高い利益率を実現しているというものだ。これは企業の戦略によるもので資本主義社会における自然なことなのだが、ECBはそのリスクが行き過ぎとして、「貪欲なインフレ」である「グリードフレーション」を指摘している。指摘しても対応できる手段はないのだが。
このようにタカ派のメンバーからすると、先行きのインフレ懸念は根強いだろう。ラガルド総裁が、どのように意見を調整するか注目している。


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