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北朝鮮の党大会とこれまでの歩み

北朝鮮で5年ぶりとなる第8回党大会が開催されている。2016年の前回の写真と比べると、金正恩委員長はやはり太ったなーという印象だ。この5年間は北朝鮮にとっても激動だった。
これまでの北朝鮮と金正恩委員長の歩みを簡単に振り返ってみよう。

金正恩委員長の父親である金正日氏が亡くなったのは2011年12月、そこから後継者である若き金正恩委員長の統治が始まる。2012年からは早くもミサイル開発に没頭し、先軍思想を前面に出していく。2013年末には叔父の張成沢(チャン・ソンタク)を粛清し、その狂気を海外に知らしめた。2016年までには国内で粛清ラッシュを継続し、権力基盤を固めていく。2017年に米国でトランプ政権が誕生すると、北朝鮮はまずは政権交代の空白期間をついて、核開発を進めていく。2017年にはミサイルを16発も発射し、なんと水爆実験まで行った。米国のトランプ大統領とは、罵り合いを継続し、戦争前夜のムードとなった。この年にマレーシアで金正男(金正日の長男)の暗殺もやってのけた。空港でVX神経剤で襲撃されるカメラの映像は、北朝鮮の恐ろしさを改めて世界に示した。2017年は、まさに金正恩委員長の「やりたい放題」の1年で瀬戸際外交を展開した。また、忘れてならないのは、この年に韓国で北朝鮮をこよなく愛するムンジェイン政権が誕生したことだ。ムンジェイン大統領は、悲願の南北統一に向けて突き進んでいくことになる。
2018年の金正恩委員長の年頭の挨拶では、「私の机の上には核爆弾の発射ボタンがある」として、米国を強烈に威嚇した。しかし3月に板門店で南北首脳会談が実現すると、急速に対話ムードが広がっていく。あの板門店の南北首脳会談でのムンジェイン大統領の感激した表情は印象的だった。そして、いよいよ歴史的な6/12のシンガポールでの米朝首脳会談だ。
世界は、この中継を固唾をのんで見守った。トランプ大統領でなければ実現しなかった会談である。驚くことに、この会談で二人の首脳は意気投合とまではいかなくても、良い関係性を築いた。そこからは緊張状態が急速に緩和されていくことになる。但し、米国はこの間も北朝鮮に対する厳しい経済制裁を解除していない。融和ムードであったが、良い関係は長くは続かなかった。2019年2月にベトナムで開催された第2回米朝首脳会談は、ほとんど成果がなく終わり、北朝鮮の米国へのいら立ちは募っていく。その怒りの矛先は、韓国にも向かい、韓国と北朝鮮の関係も表面上はかなり悪化する。ところが2019年後半から2020年前半に金正恩委員長の健康不安が浮上し、一時は世界のメディアは「既に死亡した」との観測を報じていた。金正恩委員長の妹である金与正への一部権限移譲も行われ、金与正氏の露出が多くなっていったのもこの時期だ。しばらく死亡説も飛び交ったが、金正恩院長がメーデーの式典に姿を現し、死亡説を一掃した。

しかし、北朝鮮の苦悩は続く。新型コロナウイルスと中国の自然災害である。北朝鮮はコロナ感染者ゼロを表明していたが、国内では深刻な感染拡大にあると予想されてきた。また、中国が2020年は大規模な水害等で食糧品不足に陥ったことで、北朝鮮への支援も相当に細ったと言われており、北朝鮮はコロナと食料不足による飢餓状態にあると予想されている。実際に金正恩委員長は今年の新年の辞に代え、年頭の書簡を国民に示し、その中で北朝鮮の苦難の状況、そして自身の失政について異例のお詫びをしている。相当な苦境に置かれているのは間違いないだろう。

さて、そうした中で第8回党大会が開催された。注目点は核の先制攻撃・報復攻撃を主張していることと同時に、「責任ある核保有国」という立場を表明していることだ。いつの間にか、しれっと責任ある核保有国という存在になっているのは驚きだ。また原子力潜水艦について最終審査段階にあると初めて公式に表明した。最終審査段階にあるということは、今年のどこかでSLBMをぶっ放す実験も行うのだろう。
金正恩委員長はトランプ大統領が退任するまでは様子見を続けている。問題はバイデン政権が発足する1/20以降である。バイデン政権は、国内のコロナ問題、経済問題に集中したいのは間違いない。しかし、国際情勢はそれを許さないだろう。バイデン政権は、外交から始まると考えたほうがいい。コロナで世界の地政学リスクは消えたわけでなく、隠れていた。2021年は、そうしたリスクが徐々に出てくる年になりそうだ。

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