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来週の相場見通し(2/7~2/11)

 相変わらず、米国株式市場は激しい値動きが継続している。ネットフリックスの衝撃的な失望の決算でムードが悪化した市場であったが、アップルとマイクロソフト、グーグルの好決算により、ムードがかなり改善していた。しかし、2/2の引け後に公表されたメタ・プラットフォームズの決算が、再び米国株式市場を混沌の中に引き戻してしまった。メタは急落し、1日の時価総額消失としては米国史上最大となる2510億ドルを吹き飛ばした。金額的には、ソニーグループとNTTがいきなり同時に破綻したくらいの時価総額である。しかし、そこにまた救世主が登場した。アマゾンである。アマゾンは決算発表で強固なビジネスモデルを示し、4日の米国株式市場で1日の時価総額上昇としては過去最高を記録して、マーケットの雰囲気を再び回復させた。これは凄い事なのだが、いかに米国株式市場において、こうした大きなクジラ達の影響力が大きいかということを見せつけている。一国サイズの時価総額を持つのだから当然なのだが、こういうマーケット、こういう社会に生きていることを忘れるべきではない。(ちなみに、今回の表紙は戦隊ヒーローは、プラットフォーマーを意識して選んだ。)

さて、2/3時点では、S&P500社の内、260社が決算発表を終えたが、78.5%が予想を上回る決算を提示した。22年も5-10%のEPSの伸び、23年は10%以上の伸びが予想されており、オミクロン株のピークアウトも鑑みると、米国企業の業績面での心配は不要に思える。ちなみに、22年の増益見通しはエネルギーが34%、一般消費財が28%と好調で、金融だけが▲10%の減益予想となっている。そして、足元では米金利上昇の中でも、ナスダック市場が崩れていないこともポイントだ。後ほど解説するが、米国の雇用統計を受けて、米金利は今年の高値を更新している。そんな中でも、米国株式市場は底堅めの展開で、頼もしい。

決算について少しコメントしておこう。まずメタ・プラットフォームズの決算であるが、私は「通過儀礼」と捉えている。今回の決算で市場が最も注目したのは2点だ。1つは同社として初めて世界全体でデイリー・アクティブ・ユーザー数が低下したことだ。米国はやむを得ないとしても、グローバルで初めて低下したことで、同社の成長ストーリーの終了が意識されたわけだ。しかし、これは必ず待ち受けている未来であった。世界の人口比でも相当の割合まで同社のユーザーは増加したのだから、永遠に増え続けることはできないわけで、どこかで頭打ちになる。そんなことは自明だ。ゆえに、同社はユーザー数の獲得から、ユーザーが没頭する時間に目標をスイッチしている。ユーザーが1日にフェイスブックで費やす時間が増えれば、広告の価値は上昇するからだ。従って、ユーザー数の頭打ちは本来失望することではない。それと、もう一つは、メタバース事業を担当する部門「Reality Labs」が21年に100億ドル以上の赤字を出していることがわかったことだ。メタバースという、先のまだ見えないビジネスへの巨額投資に対して、市場はリスクと捉えたわけだ。しかし、同社はフェイスブックという社名まで変更してメタバース事業へ突入したのだ。巨額の先行投資は既に発表されていたし、同社だからこそ、これほどの巨額投資が出来るのだ。この先行投資により、ライバル社に対してメタは相当に優位なポジションに就くという戦略だ。それが成功するかはまだ分からないが、同社は成長の機会をこの分野に求めたのであり、そのための布石も長年かけて行ってきた。こうした企業を短期的な決算で評価するのは、そもそもおかしいのだ。とりあえず、通過儀礼として売られるのだろうが、売られた後は買いたい投資家は幾らでもいるだろう。ようは、同社の未来のビジネスモデルを信じるかどうかだけなのだ。

ソニーグループの決算発表も興味深かったので取り上げよう。同社についても、足元の業績の上方修正やら、小幅の増配なんて、はっきり言ってどうでもいい。まずは戦略投資部門についてである。同社は、決算に先立ち、ソニーグループの子会社のソニー・インタラクティブエンタテインメントが4千億円強という規模で米国のゲーム会社バンジーの買収を発表していた。この子会社の買収としては、過去最大だ。バンジーは、シューティングゲームで定評があるクリエイティブな会社だ。特にライブゲーム・サービスに強い。現在、ゲーム業界は再編の真っ只中にある。2019年にGoogleとアップルがゲームに参入、2020年にはアマゾンとフェイスブック、2021年にはネットフリックスも参入を表明した。そして、ソニーの従来からのライバルであるマイクロソフトは、今年8兆円もの資金でアクティビジョン・ブリザードという、あの「コール・オブ・デューティ」や「ウオー・クラフト」などの大人気タイトルを持つ会社の買収を発表した。こうした中で、資金力では太刀打ちできないソニーの勝ち筋(戦略)が注目されるわけだが、同社はバンジーの買収で、25年までに新作を10本出す目標とのことだ。プレイステーション以外のゲーム領域の拡大が、どこまで進むか楽しみだ。また、ソニーグループは中計の中で2兆円の投資枠を用意しているが、この内8500億円についてしか投資を決定していない。今後もまだ、買収案件は出てくるだろう。投資家の関心の高い、今春の「ソニーモビリティ」設立については、あくまで「アセット・ライト」、すなわち大規模な投資は行わない方針だ。自動車業界の知見は不足しており、パートナーシップや提携を前提として、EV業界への参入を検討していくとのことだ。市場では、当然として、パートナーシップはどこだ?トヨタと組んだら、わくわく・・・みたいな思惑が出る。但し、ソニーは、自動車業界への参入ではなく、「モビリティの価値を高める」ことを主眼に置いている。徐々にその戦略は見えてくるだろう。また、サプライチェーンの影響については、3月の本決算時に精度の高い見通しを示すとしたが、ニュアンスとしてはかなり影響を受けているような印象だった。興味深かったのは、米国の景気動向についてだ。個人消費等の変化に注意を払っているとしながらも、今のところ米国経済の需要が落ちている兆候は感じないとのことで、米国経済は好調との判断であった。実業をグローバルに営む同社からの肌感覚は、参考にすべきものがあるだろう。ソニーの株は、翌日はメタショックもあって売られたものの、こうしたソニーのような株も短期的な目線ではなく、長期的な同社の方向や潜在性で保有したいものだ。

週末の米国雇用統計は、サプライズとなった。その前に発表された1月のADP雇用報告では市場予想のプラス20万人程度に対して、なんとマイナス30万1千人という衝撃の結果となり、市場では雇用統計も相当に荒れるとのムードが満載だった。政府高官からも、1月の雇用統計はオミクロンの流行によるテクニカルな要因で、弱含むような示唆がされていたことから、市場は予想を下方修正して身構えていた。しかし、非農業部門雇用者数の伸びは46.7万人と市場予想の12.5万人を大幅に上回った。また衝撃的だったのが、前月の数字が上方修正されたのだが、これが19万9千人から51万人に修正されたのだ。はっきり言って修正というレベルではない。2倍以上なのだ。11月分も修正され、11月と12月で70万9千人も増えてしまった。失業率は4.0%にやや上昇したものの、労働参加率が62.2%に拡大し、平均賃金が前月比+0.7%、年率では+5.7%もの伸びを示した。文句のつけようがない労働市場の強さである。これでも、オミクロンによる病欠で働けなかった人が360万人、感染拡大による雇用主の一時的な休止や閉鎖で働けなかった人が600万人と報告されている。この予想を裏切るポジティブな雇用統計を受けて、米米国の金利は急上昇した。2年金利は1.31%、5年金利は1.77%、10年金利は1.92%台となり、イールドカーブはベア・フラット化した。30年金利は6bp程度しか上昇していない。
市場では既に今年の3月までに3回、年末までに6回の利上げが織り込まれている。1月のFOMC後に米国の金融機関各社は今年の利上げ見通しを公式に大幅修正したが、(BOA7回、BNP6回、JPM5回) マーケットの織り込みもそれに沿ったものになっている。但し、3月の利上げが25bpではなく50bpになるかどうかは、まだ意見が分かれている。来週10日の1月のCPIが注目あれるだろう。市場では7.3%へ更に上昇すると見込んでいるが、8%台ともなれば50bp利上げ観測が高まりそうだ。一方で予想に届かなければ、米金利は低下すると思われる。
市場では、パウエル議長が「将来的にあまり金利を上げなくて済むように、敢えてタカ派的な態度を示し、人々のマインドにインフレが定着することを防いでいる」など、パウエル議長のタカ派転換は、本当はハト派であることの裏返しなど、様々な憶測が流れている。こうした中、2月16日のFOMC議事要旨も注目されるだろう。今年の相場が荒れたのは、そもそも1月5日に公表されたFOMC議事要旨の中で、市場の予想以上にFRBのバランスシート縮小について活発な議論が行われていたことから始まった。このFOMC議事要旨と、先般のFOMC後のパウエル議長の記者会見の内容と相違点が多いと、市場は動揺することになる。

米国のオミクロンについては、ピークアウトの兆しが鮮明だ。米国での累計感染者は7千万人を超えており、「ワクチンと治療薬」に加えて「集団免疫」の段階にも突入している。コロナからの正常化では、米国がもっともパワフルになる可能性が高い。現在予想されているEPSの伸びは、この集団免疫を織り込んでいないため、経済正常化が一気に加速した場合、企業業績の上方修正要因となるだろう。米国の貯蓄率が既に7%台まで低下していることから、経済活動正常化したあとも、それほど個人消費は伸びないとの見方もあるが、依然として超過貯蓄の金額としての規模は大きく、消費への懸念は不要と思われる。
ウクライナ問題は、引き続き予断を許さない状況にあるものの、ウクライナのCDSは明確に低下している。北京五輪の期間中はプーチン大統領が動くことはないとの思惑から、束の間の安定が訪れている。プーチン大統領は北京で習近平主席と会談を行った。4時間に渡る会談であり、単に北京五輪のお祝いではない。様々な協議がされただろう。私の関心は、いつロシアと中国の軍事同盟が締結されるのか、あるいはされないのか?という点だ。この両国は現段階では、軍事同盟の必要性はないという立場を取っている。しかし、その理由は既にそれ以上の関係にあるからという立て付けだ。ロシアと中国は、94年に建設的パートナーシップ関係、96年には戦略的パートナーシップ関係、2011年には全面的戦略的パートナーシップ関係、2014年には全面的戦略的協力パートナーシップ関係の新段階、19年には新時代の全面的戦略的協力パートナーシップ関係となった。21年は中露善隣友好協力条約20周年も迎えた。プーチン大統領と習近平主席の会談は、38回に及ぶなど関係は極めて良い。それでも、軍事同盟はまた別格である。中露が軍事同盟を結ぶ兆候が出ると、国際社会は相当に揺れるだろう。

2月はバイデン大統領にとっては重要な1カ月となる。3/1にはバイデン大統領は初の一般教書演説を行う。それまでに、どれだけ成果を挙げられるかがポイントになる。2/18には今年度のつなぎ予算が期限切れとなる。看板政策のBBB法案については、分割・小規模化して法案審議を進めたい。CHIPS法案や競争力法案など半導体分野への支援法案、退任する最高裁判事の後任指名及び上院での承認など、米国議会が議論すべき案件は山積している。週末の報道では、米国下院で「対中競争力強化・半導体支援法案」が可決されたとのことだ。

市場の注目が久しぶりに欧州と日本の金利にも集まり始めている。欧州のCPIが前年比+5.1%と一段と上昇したことや、エネルギー価格の上昇、また失業率が12月時点で7.0%(ECBの23年末予想は6.9%)まで低下していることから、ECB理事会での議論とインフレの判断が注目されていた。結論から言えば、ラガルド総裁の記者会見はタカ派転換と捉えられ、2/3のECB理事会移行、欧州金利は大きく上昇している。1ヵ月前までは、ラガルド総裁は今年のECBの利上げを明確に否定していたのだが、この日の会見ではデータ次第と変更したのである。市場では、もう年内のECBによる0.4%程度の利上げを織り込み始めた。ドイツ5年金利は6年ぶりにプラス圏を回復している。但し、個人的にはECBの利上げは時期尚早と考える。インフレの上昇の半分以上はエネルギー価格上昇によるもので、コアインフレ率は低下傾向にある。また、米国のような賃金上昇圧力は確認されていない。また米国の需給ギャップが超過需要であるのに対し、欧州経済はそこまでキャッチアップしていない。早過ぎる利上げは、欧州経済にダメージを与える可能性があり、ラガルド総裁としても、本音ではハト派スタンスを崩していないだろう。来週以降、ECBの高官などから市場を牽制する発言が出るか注目したい。日本の金利もじりじり上昇している。しかし、こちらは毎度おなじみチリ紙交換で、日銀が指値オペなどの金利抑制の姿勢を見せると、すぐに収束するだろう。日銀は7月に2人の日銀審議員の任期、来年までに黒田総裁と2人の副総裁の任期を迎える。市場が荒れる可能性はあるが、少なくともまだその時期ではないだろう。

原油がじりじりと上昇している。OPEC総会では、バイデン政権からの増産要請にも拘わらず、供給拡大ペースを増加させなかった。OPECプラスは、足元の原油高は地政学リスクを反映した一過性のもので、今年全体では供給過剰になるとの見通しを持っている。しかし、短期的には原油を大きく下落させる要因はほとんどなく、原油高トレンドの中で、1バレル=100ドル超えとなる可能性は高まっている。ここを超えてくると、スタグフレーションリスクについて、市場で騒ぐ人も増えるだろう。
来週については、決算発表が山場を迎える。日本では1週間で1400社以上が決算を発表し、ソフトバンクG、トヨタ、富士フィルム、東京エレクトロンなど注目企業が出てくる。好調な業績を背景に底固めする展開を想定しているが、国外要因で波乱材料は多い。まだ米国株式市場も安定しているとは、程遠い状況であることや、米金利が1.9%台まで上昇するなか、来週は入札やCPIが控えており、10年金利が2%を上抜ける可能性もあることだ。私は抜けても一時的という見方だが、株式市場はやはり平穏ではいららないだろう。期待したいのは春節明けの中国の株式市場だ。このところ香港株式市場も底堅いことや、北京五輪のお祝いムードで堅調な推移も想定される。中国株がしっかりとなれば、日本株も多少サポートされるだろう。アマゾンやアップルのように、やはりトヨタの決算が日本の起爆剤になってほしいと願うが、さてどうなるか?来週の予想レンジは、26,500円~28,000円を想定する。

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