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来週の相場見通し(1/23~1/27)

1.はじめに

今週のハイライトは日銀金融政策決定会合であった。市場の予想通り、今回については日銀は現状維持を決めた。共通担保オペの拡充も発表されたが、これは何を意味するかは、後で解説したい。それ以外は、比較的穏やかな1週間であった。今回は、円金利、米金利、欧州金利について、少し解説した後は、米国の債務上限問題や、バイデン政権の状況など、政治の面からマーケットをチェックしていこうと思う。

2.日銀金融政策決定会合のポイント

① 黒田日銀総裁の論理は一貫している

今週開催された日銀金融政策決定会合では、「ほぼ現状維持」が決定された。共通担保資金供給オペの拡充が新たに決定されたことが、「ほぼ」の意味するところだ。さて、発表日の当日は決定会合が何時まで長引くのかも一つの注目であった。正午の12時を超えて、13時頃まで議論が長引くと、市場では様々な思惑から、ざわざわし始めると思われたが、日銀は11時45分頃にあっさりと会合を終了し、しかも全員一致で「現状維持」を決めてみせた。退任を控えていても、黒田日銀総裁のグリップは効いているということだろう。昨年12月のYCCの許容変動幅の拡大について、黒田総裁は金融引き締めではなく、YCC政策を持続的に維持可能とするために強化する措置だと説明したが、今回導入された共通担保資金供給オペも、黒田総裁はYCC政策の中におけるイールドカーブ適正化のための1つであり、YCC政策は限界に達しているとの市場の指摘を真っ向から否定した。そういう意味で、黒田総裁のYCC政策に対する自信は一貫している。市場ではYCC撤廃論が盛んな一方で、現実的にはYCC政策を維持するために、日銀が取り得る手段が強化されているのだ。それでも、市場ではイールドカーブの歪みは修正されていない。下の図は10年金利と9年金利の差でああり、普通は順イールドのもとではプラス圏となるが、日銀の金融政策決定会合にマイナス幅は縮小しているとはいえ、逆イールドは継続している。

(日本10年金利と9年金利のスプレッド)

しかし、この歪みも黒田総裁に言わせれば、大した問題ではない。黒田総裁は、「経済合理性」という言葉を何度か使用している。すなわち、投機的な思惑等により、短期的にはイールドカーブは歪むかもしれないし、日銀の許容する10年金利0.5%の上限も超えるかもしれない。しかし、日銀がYCC政策を強固に維持する限り、経済合理性的には日銀の政策を無視し続けることはコストの面から割に合わないため、中長期的にはイールドカーブの歪みは解消するという論理である。確かに、それはその通りであろう。

② 共通担保資金供給オペの拡充

共通担保オペには、金利入札方式と固定金利方式の2つがある。今回、金利入札方式の満期を1年から10年以内に延長された。また、固定金利方式はもともと10年以内であるが、貸付金利について、これまでの「政策目標」から「年限ごと貸付のつど決定する利率」へ変更した。この修正で日銀は指値オペを、自由に実施することが可能になったということだ。
この政策は、要するに日銀が資金を低利で供給するから、金融機関の皆さん、積極的に国債を購入して利ザヤを稼いでくださいということだ。国債の買い手が群がれば、金利は低下する。日銀が「ノーリスク・ローリターン」の収益機会を提供することで、債券市場にプレイヤーを引き込む作戦だ。この作戦が効果を発揮するかは分からない。金融機関は規制業種である。そこに多少の利ザヤを稼げる機会があったとしても、金利リスク量などの規制が撤廃されているわけではなく、ストレステスト等にも耐えうるリスク量しか取れないのだ。会計処理を満期保有にして、評価損益に左右されずに、満期まで持ち切ることは可能だが、それも国内基準行に限られるだろうし、満期保有であろうと、金利のリスク量自体は規制上の影響を受ける。金融機関にとっても、5年間という時間軸でバランスシートを拡大させることには、相応の躊躇があるだろう。そういう意味では、23日にオファーされる初の5年物の共通担保資金供給オペに、どのくらいの応札額が集まるのかは注目される。大きな応札額が集まれば、国債市場の需給改善で5年金利が低下し、他の年限にも影響するだろう。
もう一つ、この共通担保資金供給オペには、大きな狙いがあるとされている。それは、日本国債の現物とスワップ市場の連動性を高める効果である。共通担保資金供給オペで、日銀が資金を調達した金融機関は、何も日本国債の5年を購入するだけが選択肢ではない。借りたお金を日銀当座預金に置いたまま、スワップ市場で5年金利を受けることでも利ザヤを稼ぐことができる。今のようにスワップのスプレッドが拡大している場合、金融機関は国債ではなくスワップを受けることを選択し、その行為がスワップスプレッドを縮小させるかもしれない。実際にそのような効果を発揮するかは、日銀が5年の資金供給の貸付金利をどこまで下げるかという点が重要なのだが、いずれにしてもスワップを使用して日銀のYCC政策に挑んでいるプレイヤーにとっては、恐ろしい事であり、いったんはポジションの手仕舞いを誘発することになる。ブルムバーグでも取り上げられていたが、5年物のスワップスプレッドが急速に縮小しているというのは、そういう動きである。(下図)

③ 次期日銀総裁人事と岸田首相の政治的状況

市場の次のテーマは、次期正副日銀総裁人事に移行した。2/10頃に国会で人事案が出ると言われている。ここで重要な点は、日銀総裁人事を決めるのは、時の政権であり、極めて政治的な問題であるということだ。そういう意味で、先般の日経新聞が取り上げていた安倍派の意向という記事は、非常に本質を突いているものだった。私もそのように考えている。岸田政権の支持率が安定している状況なら話は違うが、政権の支持率はだだ下がりで、支持率20%台が定着してきている。不支持率は4割を超えてる状況だ。そういう不安定な状況になると派閥の力というのが効いてくる。前任の菅首相が崩れたのは、菅さんが自分の派閥を持っていなかったことが大きい。岸田首相は宏池会のトップであるが、宏池会は46名しかいない。最大派閥の安倍派(99名)、茂木派(55名)、麻生派(54名)に次いで第4番目の派閥に過ぎないのだ。最近では、菅前首相が、岸田政権を批判するなど、怪しげな動きも出てきている。こうした中では、最大派閥の安倍派の意向を無視すると命取りになる可能性がある。安倍派の立場になってみれば、安倍元首相が亡くなってから、まだ1年も経過していない。こうした中で、安倍さんの後任の会長も決まっていない状態だ。安倍元首相といえば、アベノミクスであるが、アベノミクスとはもはや大規模な金融緩和しか残っていない。「アベクロ」と呼ばれるほど、黒田総裁は安倍元首相をサポートしてきた。その後任が、黒田総裁の路線を否定する人物であった場合、アベノミクスも消滅することになる。それは安倍派には許せるものではないだろう。特に安倍派で会長が既に強力なリーダーシップを発揮しているなら状況も異なるが、安倍派においても現段階でアベノミクスを否定すると、安倍派の将来的な会長レースから外れることになる。ゆえに、安倍派の中心的な人物達は、黒田総裁のリフレ政策を引き継げる人物を推すことになる。岸田首相が何をお考えかは、よく分からないが、当面は国会を乗り切り、5月の広島におけるG7を議長国として成功させることが、政権支持率を回復させる唯一の道筋と考えているだろう。そうであれば、日銀総裁人事で安倍派の反発を浴びることは避けたいと考えるだろう。ゆえに、私は雨宮氏が固辞しない限りは、雨宮氏が指名されると考えている。

③ 国債の売買動向

12月の日本の長期債の売買動向を見ておきたい。長期国債は2.97兆円発行されたが、日銀がオペで吸収した額は8.9兆円であり、市中のネット発行額は約6兆円もの売り越しであった。かなり大きい売り越し額であるが、珍しいわけではない。昨年9月は3.4兆円の国債が発行され、日銀は7.5兆円を吸収し、差し引き4.1兆円の売り越しであるし、10月も3.2兆円の国債発行に対して、日銀は6.6兆円を吸収して▲3.3兆円という感じだ。
12月をより仔細に見ると、メガバンク等が約2.4兆円を売り越している。地銀は1500億円の売り越しだ。話題の外国人は、約2.5兆円の売り越しだ。外国人は9月から11月までに累計で5兆円弱も売り越しており、12月は更に2.5兆円が積み上げられたことになる。今年の1月のデータは、更に激しいものになるだろう。

④ 金融政策の変更予測

私は、黒田総裁の任期中は、YCCの修正幅の変更も含めて、何もない可能性が高いと考えており、全ては次期日銀総裁に引き継がれることになると思っている。その上で、YCC政策は年内にYCC修正幅が1%に引き上げられ、その後の状況を鑑みて来年にマイナス金利解除に向かうと考えている。しかし、新しい金融政策については、次期総裁人事が出てから、ゆっくりと取り上げたい。

3.米金利について

米金利については、24年や25年までの時間軸で考えると、大半のプレイヤーが長期金利は現在の水準より低下すると考えている。何故なら、米国の中立金利は2.5%であり、FRBが目先は利上げを継続したとしても、やがてFF金利の水準は中立金利に向けて引き下げていくと考えるのが自然だからだ。そういう利下げ局面では、長期金利はオーバーシュートして動きやすく、中立金利の2.5%を割り込む可能性がある。ゆえに、中長期的には金利が低下しやすいということは、恐らく市場で意見は一致している。意見が分かれるのは、今年の長期金利の動向である。FF先物市場は、ターミナルレートとして6月頃に5%に達することなく、FRBは利上げを停止、その後に年内だけで2回以上の利下げが行われる展開を織り込んでいる。しかし、債券市場のプレイヤーで、それほどの楽観的なビューを持っている人を、私はあまり聞いたことがない。ターミナルレートは5%近辺、年内は年後半に利下げがあっても1回程度。楽観的な人もそんな具合だ。債券市場のプレイヤーの目線からすると、FF金利が5%近辺に引き上げら、それが一定期間は維持されるとした場合、10年金利が3.3%でFF金利と170bpも乖離する状況は、ある条件を除けば違和感がある。インフレが急上昇している局面で、FRBの利上げペースが昨年の75bpを4回も連続して実施しているような追い込まれている状況なら、10年金利が追いつけずに逆イールドが拡大することは違和感はない。しかし、インフレが鈍化してきて、ターミナルレートへの到達が近い状況では、このFF金利と10年金利の大きな逆イールドは違和感が強いのだ。
それでも、金利が低下するとしたら、その要因は一つしかない。深刻な景気後退だ。インフレ鈍化では、もう説明ができない水準だと思われる。失業率が急激に上昇し、政治的にもFRBに利下げのプレッシャーがかかり、FRBが1回25bpの利下げのような通常ペースではなく、緊急利下げに追い込まれるようなケースだ。そういう状況になる可能性を模索しているなら、米長期金利は更に低下するだろう。しかし、私はそういう段階ではないと考えている。当面の米長期金利は、3.5%を中心に上下25bpくらいのレンジ内で推移すると見ている。実は米国株式市場においては、このようにレンジ内で膠着してくれる展開が最も良い状態だ。金利低下は株式はプラスだが、ファンダメンタルを伴わない、早過ぎる金利低下は、市場のボラティリティを高めるだけで、あまり良くない。FRBが利上げを停止し、経済の様子を見も守る段階に突入していくのだ。債券市場もそれに合わせて、当面はレンジの中で、膠着するのが最も波乱がなくて良いのである。

4.欧州金利について

欧州金利は、今回はあまり取り上げないが、はっきりしていることは、ECBのインフレ抑制に対する意欲は非常に強いということだ。半年前のFRBのような状況にある。ラガルド総裁は、インフレ抑制を「信念である」とまで表明した。ラガルド氏の言葉は、少々軽いので、鵜呑みにはできないものの、ECBのターミナルレートの水準は、あまり決め打ちすると危険だと思っている。市場では、ECBが利上げペースを鈍化するとの見通しが出ているものの、12月のCPIは前年比+9.2%と高いこと、コア指数は+5.2%と前月から伸びが上昇していることから、ECBがハト派化する可能性は低い。ECB内で最もハト派であるギリシャ中銀総裁でさえもタカ派的なスタンスを維持している。それだけ、インフレに対する環境が、米国と比べて良くないということだ。各国の財政政策がインフレを加速させる可能性もあるし、賃金交渉圧力も激しくなるだろう。天然ガスのロシアからの依存脱却は簡単ではない。今年は歴史的な暖冬に助けられただけだ。米国の長期金利は4.3%でピークをつけた可能性は高いが、欧州金利はまだ新たなピークをつけていない可能性があると考えている。

5.米国政治について

① バイデン大統領の状況

政治については、バイデン大統領が再選出馬の判断を伸ばしている。2/7が一般教書演説であり、そろそろ再選意思を示したいところだが、機密文書の保管問題が米国では大きな話題になっており、バイデン大統領に逆風が吹いている。バイデン大統領が再選を断念すると、バイデン大統領に遠慮している民主党の各候補者が、一気に候補者レースを展開させることになる。その顔ぶれを見ながら、共和党サイドの候補者の動きも加速する。共和党の主力の候補者は、5月頃から出馬宣言すると予想されている。

② 米国債務上限問題

イエレン財務長官が、連邦政府の債務残高が、議会で定められた法定債務上限の31.4兆ドルに到達したと発表した。財務省は手元の資金があることや、各種基金の積立金を使用することができるため、イエレン財務長官は、6月上旬までの資金繰りは問題なしと説明している。しかし、いずれ資金が枯渇する「Xデー」が到来する。共和党下院議長選出における歴史的混迷などから鑑みるに、フリーダム・コーカスが障害となり、債務上限問題は深刻化する懸念があるだろう。

上記のように法定債務上限は、これまでもずっと引き上げられてきた。何故なら、時の政権による新たな支出増加でも何でもなく、過去の政策の歴史の積み上がりだからだ。要するに債務上限を自動的に引き上げるか、一時的に上限を凍結するなど、何らかの議会での対応をするしか方策がないのだ。かっては、民主党と共和党で対立しても、この法定債務上限は自動的に引き上げらてきたことから問題は生じなかった。1960年から80回弱も引き上げられ、レーガン政権だけで18回も引き上げられてきたのだ。それが、近年では、政治交渉の材料に使われるようになってしまった。米国では、法定債務上限などという無用のルール事態を止めてしまうべきとの議論もある。

2011年には債務上限問題の対立から、S&Pが米国債を史上初めて格下げする事態になり、いわゆる「米国債ショック」が発生した。下のチャートは、2010年末を100として指数化したチャートであるが、震源地の米国株だけでなく、日本株も世界の株価も15%以上の急落となった。(下図)

VIX指数は跳ね上がり、投資適格債のスプレッドは急拡大した。米国債がデフォルトしたわけではない。米国債の格付けが最上級のトリプルAAAから1ノッチ下げられただけである。それでも、ここまでの市場の急変となったのだ。

冷静に考えれば、債務上限問題は必ず解決する問題である。政治イシューだからだ。本当に米国債をデフォルトさせるなどいう、自殺行為に陥る可能性はない。しかし、その「Xデー」に向けて、いずれ解決すると分かっていても、市場はリスクテイクができなくなる。「Xデー」をまたぐような短期国債の流動性は一気に低下する。リスクプレミアムの上昇で米金利はXデーまでは上昇し、株価は軟調となるだろう。
特に、今回は状況が2011年とよく似ているのだ。まず大統領が民主党、議会の構成も上院が民主党、下院が共和党でねじれている。下院をまとめ上げるリーダーである下院議長は2011年はベイナー氏が下院議長の1年目、今回はマッカーシー氏が下院議長の1年目だ。当時はティーパーティなる保守強硬派が、米国債のデフォルトも辞さずと、チキンレースを主導したが、今回もフリーダム・コーカスが既に強硬な姿勢を示している。財政の状況も2011年はリーマンショックで膨張し、今年はコロナ対応で財政が大いに悪化しており、保守強硬派においては安易に妥協すると存在意義が問われる状況だ。このように何とも、状況が似ているのだ。この債務上限問題は、6月に向けて、大きな話題になってゆくであろう。

6.来週について

 来週は、日米の決算発表が引き続き注目される。日銀の共通担保オペも注目だ。いずれにしても、円金利がやや安定し、為替相場では130円台を回復していく流れだろう。米国企業決算後の起債も、金融債から事業債に移行しているため、米金利、欧州金利は上がり易くなっていく。FOMC前のブラックアウト期間であり、落ち着いた市場ムードになると思われる。日本株はやや買い戻し優勢、米国株は膠着を見ている。日経平均のレンジとしては、26,200~27,500を想定している。

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